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#小説 記事まとめ

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#小説

【ショートショート】「太陽からの請求書」

地球温暖化が問題視されるようになったのは1970年代からで、主な原因は二酸化炭素などの温室効果ガスの増加だと言われてきた。しかし、それは表向きの理由にすぎなかった。 数十年前、地球のすべての政府に太陽から驚くべき通知が届いた。封筒には「極秘」と大きく書かれており、開封した者たちを恐怖で震え上がらせた。「地球の住民へ。私はあなたたちに光熱費を請求します」請求書には、地球に対するエネルギー供給の対価として支払いを求める詳細と支払い方法が記されていた。 当初、科学者たちや政治家

短編小説「眠れない夜は、気楽亭へ」その1

……眠れない。 どうしても眠れない。 怖いことばかり考えて、頭がぐるぐる回ってる。 どうすれば解放されるんだろう。 どうすれば他の人みたいにホッとして寝れるのかな。 そう思った時、心の奥のあのお店に、灯りがついた。 チリン、チリンと、風鈴のような音を立てたドアチャイムをBGMに出てきた彼は、私を見るなり「なんつー顔してんだ」と呆れたような顔をした。 「えへへ…眠れないの」 「んな事だろーと思ったよ」 そう言いながら彼は私の手を取って、店内へと導いてくれる。 不真面目に見

【小説】時間の概念と隣町のコロッケ (サラとの1か月間~13日目~)

前回までの話 1. 傷に触れない (サラとの1か月間~6日目~)  冷蔵庫の奥底には、しおれたプラムが転がっていた。  路肩でしゃがみこむ老婆のように萎れていて、冷たい。指先に力を入れると、自らの役割を思い出したかのように、薄皮の割れ目から汁を吐き出す。 甘い香りが鼻先に漂う。  過去に付き合った女性を思い出した。  顔や名前は覚えていないのに、彼女の香りだけは思い出せる。時の流れは不思議だ。自分勝手で横暴だけど、たまに優しさを示す。 「この前、主任が言っていたよ。この世で

【ショートショート】罰待合室

 罰を受けることになった私は、「罰待合室」に入れられた。  誰かが廊下を歩いてくる足音が聞こえる。あれは看守だろうか。カツコツカツコツ。灰色の床に足音が響く。やがて、私のいる待合室の前で止まった。ついに罰を受ける時がきたらしい。震える手を、拳を握りしめることで抑え込んだ。  しかし、グレーの帽子を被った看守が口にした言葉は、私の予想を裏切った。 「罰までだいぶ時間がある。悪いがもう少し待ってくれ。これでも読んでいるといい」  看守は、小さな木戸から分厚い本を差しこんできた。

【小説】晴れた日の月曜日なんだけど 第5話(終)

5.トゥモロー・ノー・モア (Tomorrow No More , I don't want to think of next week)  あるマンションの一室で夫婦が言い争っていた。 「あんた。お茶碗やカップを集めて、何しているの?」 「四角形のマークを探してる」 「四角形?」 「ああ。霧滝のマークだ」 「霧滝? 霧滝って、あのお茶碗とかお皿の会社の? 四角形のマークは見たことないわよ」 「あの女が言ってたんだ。四角形って」 「あの女って、どこの女よ。あー。また、変なと

【短編小説】終便配達員

 バイト先のコンビニで一緒に働いている五十歳のおじさんは、半年前に突如深夜シフトに現れた僕と働くことを喜んでいるようだった。  バイトを始めて一ヶ月が過ぎたころ、好きな作家が同じだったから、二人で記念にホットスナックを食べた。  二ヶ月が過ぎたころ、僕が通っている大学を教えたら「立派だ」と言ってセブンスターを買ってくれた。  三ヶ月が過ぎたころ、もう会えない息子がいることを教えてくれた。会えない理由は教えてくれなかったけれど、僕に優しい理由はなんとなく分かった。  四ヶ月が過

短編小説:シンデレラ・お母ちゃん 〜捨てられない妻の遺品〜

 いやぁ、まさかねぇ、自分より先にお母ちゃんが死んじゃうなんて、思ってなかったんですよ。  うちは姉さん女房で、お母ちゃんの方が二つ歳上でしたけど。ほら、女の人の方が長生きでしょ。お母ちゃんもまさか自分が先に死ぬなんて、思ってなかったんじゃないかなぁ。私、酒飲みだし。  あ、上がって行ってください。狭いですけど。一周忌も終わって、この間ようやく家の中を少し片付けたんですよ。  いやぁ、暑いですね。まだ梅雨だっていうのに。  猫、大丈夫ですか、アレルギーとかあります?うち

【ショートショート】「心のウイルス世界大戦」

コロナウイルスのパンデミックが終息し、世界はようやく平穏を取り戻したかに見えた。しかし、新たな脅威が人々の生活を再び一変させるとは、誰も予想していなかった。 日本で最初に変化に気付いたのは、東京の小さなカフェで働く青年、信吾だった。ある日、信吾は店に来た客の注文を取ろうとして、彼女が何も言わないうちに「カプチーノを1つですね」と口走ってしまった。 「えっ?」と驚いた顔をする彼女。彼女の心の中では、「どうして私がカプチーノを頼むって分かったの?」という疑問が渦巻いていた。

クラクションは霧の中で 1話

(睦月十六歳 朔十一歳 零六歳)  兄の名前は睦月といい、弟の名前は零、私の名前は朔という。睦月、朔、零、という名前は別に三人合わせて一月一日零時の年の始め、と意図してつけられたわけではなく、単に兄は一月に生まれたから、私は一日に生まれたから、弟は零時ちょうどに足の先まですぽんと抜けたから、という至極安直な理由でそれぞれ名付けられた。  私たち三人はちょうど五つずつ歳が離れていたので私が五歳で零が生まれた時、五年後には妹が生まれてくるものだと(つまり子供というのは五年毎

【ショートショート】とどのつまり (1,995文字)

 いつものバーで、いつものように飲んでいたら、隣に若い男女がやってきた。二人はハイボールを頼み、最初はどうでもいい談笑をしていた。  ところが、突然、男の表情が変わり、事前に準備してきた様子で長々と演説をかまし始めた。盗み聞きは趣味じゃないけれど、その語り口があまりに熱を帯びていたので、つい、私は耳を傾けてしまった。 「思うに、スキって気持ちは幻想に違いないんです。もちろん、便宜上、スキという言葉で表現していることはあるけれど、本当はそうじゃない気がするんです。特に、スキ

マザー・グースの夜

 静かな夜。僕はいつものようにお気に入りのバイオリンを手に、街はずれにある小高い丘へと向かう。ピン、と張りつめた冷気が辺りに充ち、僕は、からだを大きくぶるっと震わせる。一つとして明かりのついた家はなく、それらはただその場にうずくまって、再び朝がやってくるのをじっと待ち続けている。見上げれば、煌めく満天の星。その一つ一つのかけらが次から次へと落っこちてきては、僕の額や頬にぶつかる。僕はそれをやわらかく払い除けながら、夜道を急ぐ。  月が出ている。真夜中の月。その上を、雌牛が、音

【ショートショート】そういう人 (2,388文字)

 高校二年生の優斗くんは昼休み、教室で音楽を聴こうとワイヤレスイヤホンを耳にはめた。いつも通りSpotifyのプレイリストを再生しようとしたところ、突然、女の声が流れた。 「あなたにお願いがあるの!」  内容はともかく、意図せぬ呼びかけにビクッとなって、優斗くんはイスから転がり落ちてしまった。まわりは驚き、大丈夫? と心配してくれた。  変に注目が集まってしまった。照れた様子で手を振って、何事もないとアピールした。それから、できるだけクールに立ち上がり、平然とした顔で座

【短編小説】冷やしだきしめや、始めました。

「だきしめや」という仕事は、夏の需要が低い。 なぜなら、人の体はどうしても熱いから。 抱き締めあって、冷たくて気持ちいいと思うことは、少ないというか、まずないだろう。あるとすれば、冷房がキンキンに効いていて、それにさらされた女性だったら、あるのかもしれない。 女性の方が、男性より皮下脂肪量が多い。皮下脂肪は、体温を維持するため、外気や他の要因を受け、温かくも冷たくもなりやすい。一度冷たくなった皮下脂肪は、その冷たさを保つ。 だが、「だきしめや」が行われるのは、基本外。

短編小説「朝の約束」

朝日が昇る前、美咲は目を覚ました。時計はまだ5時30分を指している。窓の外は薄暗く、世界はまだ眠りの中にいるようだった。 彼女はそっとベッドから抜け出し、スリッパを履く。廊下を通り過ぎる時、隣の部屋から父の寝息が聞こえてきた。美咲は微笑む。父の朝は、いつも彼女より少し遅い。 台所に入ると、昨夜のコーヒーの香りがかすかに残っていた。美咲は新鮮な豆を挽き始める。その香りが徐々に広がり、眠気を吹き飛ばしていく。 コーヒーを入れながら、美咲は窓の外を見た。庭の木々が朝露に濡れ、東の空