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教養としての「世界史」の読み方 (本村 凌二)
(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
ありがちなタイトルですが、素直に釣られて手に取ってみました。
時系列を辿るのではなく、「文明の誕生」「ローマの興亡」「民族の大移動」といったテーマごとに俯瞰的にトピック的史実の連関を論じていきます。
さて、各論の中での気づきを紹介する前に、まずは著者本村凌二東京大学名誉教授の「歴史の捉え方」の基本スタンスについて開陳しているくだりを書き留めておきましょう。
(p92より引用) 歴史というものは、すべてそれが考察された時代背景や、考察者の経験などのフィルターを通らざるを得ない。そういう意味で、私はすべての歴史は現代史だと考えています。
そうしたフィルターを排除して、何にも引きずられることなく考察するべきだと思われる方もいるかもしれませんが、人が考えるものである以上、歴史は常に「現代」を引きずった形での問い掛けしかできないということを、知った上で学ぶべきだと思います。
続いて、トピック的な解説の中からの覚えをひとつ。
「第4章 なぜ人は大移動するのか」の章から、「大規模な民族移動のインパクト」について解説しているくだりです。
(p182より引用) 問題は、一気に大勢の異民族が入ってきたことでそれまでの価値観が変わっていったことだと思います。
少しずつ入ってきた場合は、ローマの文化や価値観に異民族の方が吸収されるのですが、ゲルマン民族の大移動のようにあまりにも多くの異民族が入ってくると、それまでのローマの価値観や基本的な行動規範が変わっていってしまうということが起きます。そこにこそ民族移動ならではの怖さがあるのだと思います。
今の難民問題で、受け入れる国の人々が恐れているのも、まさにこのことではないでしょうか。
この難民・移民への対応は、現在の新型コロナ禍が収まった今後の日本においても、対峙すべき課題として間違いなく顕在化してきますね。
そのとき、私たちは過去の歴史からの知見を活かすことができるか、これは私たちの将来の社会形態を形作るうえで極めてクリティカルな分水嶺になるでしょう。
さて、本書を読み通しての感想です。
著者の本村教授はベテラン歴史学者の方ではありますが、教養学部の教授経験もあってか、説明の記述ぶりはとても分かりやすいものでした。
ただその内容の質感はというと、はるか昔私が高校の「世界史」の授業で習ったものとそれほどの差がなかったように感じました。著者が説く史実の読み解きには、もう少し踏み込んだ背景の紹介や根拠の説明が欲しかったですね。
たとえば、ギリシアの民主政をテーマにした章には、
(p238より引用) プラトンやアリストテレスは、民主政がポピュリズムへと変貌していく姿を目の当たりにしていたので、民主政に対してあまりいい評価をしなかったのです。
という記述がありましたが、こういう結論に至るまでの解説もかなり淡泊かつ表層的なのです。
さすがに、プラトンは「哲人王による独裁制」、アリストテレスは「貴族政(寡頭政)」を推奨していたとの説明はされていましたが、なぜ二人の哲人はそういう政体を求めたのか、その理由について、それぞれの思想の特徴に触れるとか、著作の主張を引用するとか、といったもう少し丁寧な説明があってもよかったと思います。
正直なところ、“大学の教養課程” の講義レベルをイメージすると、残念ながらもの足りなさを感じる内容と言わざるを得ませんね。