見出し画像

【800字コラム】 翻訳あれこれ

ビートルズの«Norwegian Wood»(歌詞の背景を踏まえて訳せば、ノルウェイ製の家具)が『ノルウェーの森』と誤訳されたのは有名な話。訳したのは高嶋ちさ子の父で東芝音楽工業のディレクターだった高嶋弘之。
この曲名が村上春樹の小説の題名に引用されたので、余計に元々の家具のイメージから遠ざかって行った気がする。

『アナと雪の女王』の原題は«Frozen»という極めてシンプルなものだが、この原題では日本人の想像力に響かないことと、原作者が本作の着想を得たのがアンデルセン童話の『雪の女王』だったことから邦題に引用されたという。

僕があちこちの友人に読ませている『成瀬は天下を取りにいく』の台湾版の題名は『奪取天下的少女』で、どこかで見た語感だと思ったら『穿越時空的少女』(時をかける少女)に似てることに気づく。簡体字(中国本土)版だと『成瀨要征服世界』で、より原題に近い。

そういえば『陽だまりの彼女』は台湾では原題を直訳した『向陽處的她』だけど、香港では『寵愛情人夢』。
映画版『陽だまりの彼女』のヒロイン役が上野樹里で、同じく彼女が主演する『のだめカンタービレ』の香港での題名が『交響情人夢』だから、平仄を合わせたのだろうと想像できる。

他方、近年のアニメや漫画を見ると、欧米で『君の名は。』は«Your name»『君の膵臓をたべたい』は«I want to eat your pancreas»『推しの子』は«Oshi no ko»と訳されていて、ひねりの効いた題名の翻訳が減っているようにも思える。
しかし、サブカルチャの世界では、原典たる日本語で読んだり見たりするのが尊いとされるらしく、英語版もあるYOASOBIの『アイドル』をわざわざ日本語で歌う海外のファンが少なくないほど、日本語のプレゼンスが突出しているらしい。

日本語がカッコイイとされる時代が来たことに驚くし、この辺りの言葉と翻訳を巡るあれこれは実に興味深い

いいなと思ったら応援しよう!