私立夜宵★図書館【2024/3】
夜宵★の読書は図書館の本と決まってる。
貧乏だったから、本が読みたかったら図書館で借りなさい、って母に言われて育って、図書館は行きつけだった。
だけどこのところ読書量が激減。
今年は意識的に読もうと決意した。
図書館で借りて、夜宵★の心の図書館に入った本をいざご紹介!!
✦『夏の体温』瀬尾まいこ
「夏の体温」、「魅惑の極悪人ファイル」、「花曇りの向こう」収録。
共通項は、「友達」、「やわらかな感性」だと思う。
「夏の体温」は病院で出会ったたった三日の友達の物語。
8歳の男の子の心情が瑞々しく描かれている。
子どもでもいっぱしだ。
この一節には、不倫の恋か?と思ってしまったくらいだけれど、そのくらい「ぼく」は大人顔負けのことを考えている。
いたいけで心がきゅうっと湿る。
「魅惑の極悪人ファイル」は、小説のネタに困ったデブでブスな女子大生作家「大原さん」が、腹黒な男子学生と関わりをもっていく物語。
容姿のせいで消極的な大原さんが、ネタのためと貪欲に果敢に腹黒にかかわっていく様が、本人は大真面目なだけにおもしろくて笑った。
「花曇りの向こう」は教科書に載った物語らしい。
日常の学校の友達とのささいな、でも重要な風景を切り取っている。
✦『傾国 もうひとつの楊貴妃伝』中路啓太
「傾国」っていうドラマチックな響きに、私は弱い。
「傾国」の字体も、表紙の絵も、この本には求心力があって、読み始めた。
不思議だったのが、楊貴妃の容姿の描写がまったくというほどないことだ。
「傾国」なのに。
けどそのせいか、一人の女の人生に、より肉薄しているように感じられる。
普通にしあわせを追い求めたら、最後の地に辿りついていたというような。
一方、頂点を極めた宦官の高力士は、失われた陽物を求め、楊貴妃のしあわせのため尽力する。
男にとって陽物とはかくも重要なものかと、私などは思ってしまうのだが。
去勢の際のリアルな描写により、説得力をもたせている。
終盤で伏線が効いてくる。
✦『Seven Stories 星が流れた夜の車窓から』井上 荒野, 恩田 陸他
豪華寝台列車「ななつ星」に、井上荒野、恩田陸、川上弘美、桜木紫乃、三浦しをん、さらには旅を愛するふたりのクリエーター、糸井重里、小山薫堂が乗車。
そこから生まれた極上のストーリーを届ける、というのがこの本のコンセプト。
そうとは知らず読み始めたが、列車が好きな方にはうってつけだと思う。
個人的には、糸井重里さんの随筆に、私の地元が出てきて、おっと思った。
この「おさるの電車」の遊園地ってあそこのことだよね、と。
そうだった、糸井さんは同郷人であった。
故郷を思い出して書いてくれるのはうれしいなぁと思った。
✦『化け物手本』蝉谷めぐ実
著者の作品、初見。
私には、文体や節回しが難しかった。
『化け者心中』の続編らしいので、それを読んでなかったせいもあるかも。
だから、魚之助と藤九郎の関係性の妙味まで行きつくことができなかった。
歌舞伎の知識が膨大で、わかる方なら垂涎もののお話だと思う。
「極上上吉」という言葉を知ることができたのは自分としては収穫。
✦『小説家と夜の境界』山白朝子
小説家「私」により、小説家の創作世界と現実の狭間の話たちが語られる。
その不安定さ、妖しさに引き込まれる。
読み初めには特にだが、読み手である私も、この話はエッセイ(リアル)なのかフィクションなのか、判別しがたい感覚があった。
語られる内容と方法論がリンクしているとは、おもしろいと思う。
この方の本は三冊目なんだけど、改めて好きだなと感じた。
不思議な話がうまいのだ。
この二冊なんて、よくもまぁこんな奇妙奇天烈な話をと感心してしまう。
それと、この方のお話は、終わり方に余韻がある。
曇り空の風吹く草野原に一人立ち尽くすような。
杳として知れない、的な。
これは私だけの感覚かもしれない。
山白朝子は乙一の別名義らしい。
実は、乙一さんは読んだことがない夜宵★である。
✦ 『マイクロスパイ・アンサンブル』井坂幸太郎
オムニバス形式かと思いきや、途中から話同士の絡み合いが見えてきた。
文中の歌が味を出している。
著者の意図かわからないけど、なんともいえないおかしみが感じられてわりと好きだ。
勝手なイメージだけどウンパルンパみたいな(←ちょっといき過ぎか)。
端的で平易な文章表現からして、のんきな感じ(←褒めてます)でいい。
あとがきで知ったのだけど、2015年福島県の猪苗代湖で行われた音楽とアートのイベント「オハラ☆ブレイク」のために書かれた小説らしい。
文中の歌詞は、著者の好きな、実際のバンドの曲から引用しているそうだ。
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