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幸田泉 『大阪市の教育と財産を守れ!』: 市立高校の無償譲渡をめぐる住民訴訟の記録
書評:幸田泉『大阪市の教育と財産を守れ! 大阪市立の高校22校がむしり取られないために』(ISN)
大阪における「維新の会」の暴挙に対して行われている、現在も係争中の住民訴訟の記録(途中経過)である。
『2022年、大阪の市立高校22校が大阪府に移管され、1500億円にのぼる土地・建物も無償譲渡されます。大阪市が長年担ってきた教育行政を放棄し、巨額な財産を大阪府にタダであげていいのか! この暴挙を許してはならないと、市立校の卒業生らが差止訴訟を起こしました。
残念ながら第一審は敗訴しましたが、ただちに控訴。本書はこの問題を裁判の経緯とあわせて広く知っていただきたく、小説風の読み物として出版するものです。大阪府市の行政は様々な面で傷みが激しくなっています。本書がそれを正す運動に一石を投じることができれば幸いです。』
(Amazon・本書内容紹介文より)
周知のとおり、「大阪市」をいくつかの特別区に分割した上で、政令指定都市としての独立性を奪い、市の財源ともども「大阪府」の管理下におこうとした「大阪都構想」は、二度の大阪市民による「住民投票」によって、二度とも否決された。
大阪市民は、大阪府に組み込まれ、利用されることを、明確に拒んだのだ。
「維新の会」は、その発足当初から「大阪市と大阪府の二重行政」が、大阪の赤字を膨らませた諸悪の根源だとして「二重行政の解消」ということを目標を掲げてきたが、維新の会の「自家宣伝」とは違って、橋下徹府政によって、大阪の財政が好転したという事実はない。
「維新の会」が、自分たちの進めた「身を切る改革」の成果としてあげられる「数字」は、いつだって、とんでもない「水増し」のなされてきたことは、たびたび学者たちが根拠を示して指摘してきた事実だし、逆に「支出」の方はというと、これまでの自民党の国政(例えば、東京オリンピック2020)などとまったく同様に、最初は「小さい投資で大儲け」と宣伝して、政治と数字に疎い人々を騙した上で、実際には、その数倍、数十倍の費用かかってしまうが「もう引き返せない」という、既成事実で押し切ってしまうというペテンを、繰り返してきた。
「維新の会」は、「無駄遣いを無くす」と言っていたはずなのに、実際には、無駄遣いを無くすどころか、大局的判断を欠いた、ほとんど経済効果のない「府と市の各種施設の統合」を断行し、例えば、両方必要だった「保健所」や「感染症研究施設」までも統合して機能を縮小してしまった結果、コロナ禍で「全国一の死亡率」を記録するに至った。だが、その反省の色など、まったくない(なにしろ反省しないで、逆に、ごり押しするのが、維新の会だ)。
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このように、「無駄遣いを無くす」と言いながら、必要なものまで潰して弊害を生じさせるその一方、「外国の富裕層が押しかけてきて、その金が落ちるので大儲けだ」と喧伝して、大阪湾の埋め立て人工島である「夢洲」に建設の決まった「カジノを含む統合型リゾート(IR)」も、「大儲け」どころか、今から「負の遺産」になりつつある。
もともとが「ゴミの処分場」としての埋め立て地であったために、カジノ参入企業が決まり「IR」の建築が決まってから、その「軟弱地盤」を指摘されて、その土壌改良にかかる「見通しのつかない膨大な費用」を、「大阪市」が(地主として)払う(引き受ける)ことになってしまった。
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当初、松井一郎大阪市長は「夢洲の借地料とIRの上がりの税金で、大阪市は懐手にしていて巨額の金が落ちてくる。税金の投入は無い」と言っていたのに、無責任にも「土壌改良費用を、地主が引き受けるのは当然だ」と、あっさりと前言撤回して、市民を裏切った。「夢洲の地盤改良」に投入する莫大な税金を、「IRの上がり」で穴埋めして、利益を出すまでには何十年もかかる、という本末転倒ぶりなのである。
こんな具合で、大阪府知事と大阪市長の2つの座を独占する「維新の会」の進める政策は、「赤字解消」どころか、大阪の多元的なシステムを破壊し、その上、安易な事業計画によって、逆に莫大な赤字を生もうとしている。
しかしまた、こんな具合だからこそ、「維新の会」は、実質的には「大阪府」に「大阪市」を合併する「大阪都構想」にこだわったのだとも言えよう。
簡単に言えば、財政の豊かな「大阪市」を「大阪府」に取り込むことで、「維新の会」の知事が自由に使える予算を増やそうとしたのだ。
だが、二度の「大阪都構想に関する住民投票」で敗れたことにより、「維新の会」が、「大阪市」の豊かな財政を諦めたのかと言えば、そうではない。
「大阪市」を解体して、丸ごと「大阪府」の管理下に置くことには失敗したけれども、知事と市長がともに「維新の会」である現状を利用して、個別に「大阪市の財産」を「大阪府」に譲渡することで、実質的に「大阪市」の自治能力の弱体化を図るという奇策に、「維新の会」は出始めたのだ。一一そのひとつが、本書で扱われる「大阪市立高校22校の、大阪府への無償譲渡」である。
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「大阪市立高校22校の、大阪府への無償譲渡」になぜ、「大阪市民」が反対するのか、その理由は簡単である。
要は「大阪市民」の便益のために存在する施設を、どうして、別の「地方公共団体」でしかない「大阪府」に、「無償譲渡」しなければならないのか、ということだ。
「大阪市」自身が、「市立高校」をお荷物だと判断し、大阪市民がその判断を支持するのなら、「私立高校」を潰せばいいし、潰した跡地の売却金を、「大阪市民」のために遣えば良いだけの話なのに、「大阪府」に無償譲渡してしまったのでは、丸損でしかない。
「二重行政はいらない」ということで府市の学校を統合し、粗雑な大義名分として「定員割れした学校」を潰そうとしているだけの「大阪府」に、「市立高校」を無償譲渡してしまったら、その先の展開は明白だ。
「大阪府」は、無償譲渡を受けた後、独自の「定員割れ3年で廃校」ルールに従って、早晩、譲渡された高校の土地建物を売却し、つまりは「(上物は潰して)大阪市内の一等地」を売る。
これは、時間差で「大阪市」から無条件に「現金」もらうというのと、実質的には、何の変わりもないのである。
したがって、簡単に言えば、「大阪市立高校22校の、大阪府への無償譲渡」は、「大阪市(民)の金」を、市民(市議会)の許可も受けないで、勝手に「大阪府」に差し出していることにしかならないのだ。
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(※ 上の21校は、2021年時点。建設中の新設校まで譲渡対象になるため、譲渡の時点では22校となる)
そして「こんな理不尽な話が通るわけない」というのが、今回の「住民監査請求」であり、その後の「住民訴訟」だ。
しかし、この「常識で考えれば、通るわけがない」話が通ってしまうのが、「独裁政治」である。
本書の中では、「住民監査請求」の結果と、大阪地裁の判決が紹介されているが、それは難解微妙な法理論による、住民請求の却下や、原告側敗訴などではなく、露骨な「屁理屈」による、為政者擁護でしかない。
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本書著者をはじめとした原告団は、上訴して闘うことを、本書の最後に表明しているが、同じ大阪府民として、私は原告団を応援したいし、そのためにも、まずは「大阪市民」の皆さんに、この事実を、是非とも知ってもらいたい。
この「大阪市民の許可も受けないままの、個別物件譲渡」が認められれば、今後は、別の公的施設が次々と譲渡される流れができてしまう恐れが、大いにある。
たしかに大阪市は、他の府下各市より財源が豊かであり、その点に後ろめたさを感じて「大阪府の方で、適切に税収を配分して使ってもらえば」と考えるような、お人好しでナイーブな大阪市民も少なくないのだろう。だが、そういうことではない。
「大阪市」から吸い上げられた財源を遣うのは、「大阪万博」だ「IR」だ、最近では「万博記念の花火大会」だ「某球団の優勝記念・御堂筋パレード」だと、そんな「お祭り騒ぎ」にばかり「市民府民の税金」を惜しげもなく投入して、わかりやすい「愚民統治政策(パンと見世物)」によって「人気取り」をして、権力にしがみつくことしか考えていないような「維新の会」だということを、決して忘れてはならない。
「自分たちの税金が、適切に使われることを望む」のであれば、むしろ、そんな「維新の会」のやりたい放題の「独裁」体制を潰すためにこそ、生きた金を遣うべきなのである。
(2022年10月4日)
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