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なぞりのつぼ −140字の小説集−

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読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの息抜き的140字小説を多数収録! ※全編フィクションです。 ※無断利用および転載は原則禁止です。
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#グルメ

140字小説【食べたことのないもの】

140字小説【食べたことのないもの】

「お待たせしました。こちら、お客様が《まだ食べたことのないもの》になります」
「なるほど、確かにこのような料理は初めてです。じゃあ一口……うんまっ!?」
「ではお下げします」
「えっ、ちょっ……何で!?」
「たった今、お客様が《食べたことのあるもの》になりましたので」
「そんな殺生な……」

140字小説【掴みどころ】

140字小説【掴みどころ】

「お待たせしました」
「来た来た……あれ、スプーンは?」
「こちら本場仕様となっておりますので、素手でお楽しみいただきます」
「『郷に入っては郷に従え』ってヤツか。仕方ない、それじゃあ……って、熱っ!? これじゃ熱くて掴めないよ!!」
「そりゃ《掴みどころのないカレー》でございますから」

140字小説【デスマスク】

140字小説【デスマスク】

「ねぇアナタ、私が楽しみにしてた高級食パンだけどさぁ……ちょっとかじった?」
「えっ? ……かじってないよ」
「本当にぃ〜?」
「本当だって!」
「神に誓えるぅ〜?」
「神に誓えるよ」
「じゃあコレ見ても同じこと言える?」

 見ると食パンの断面には、俺とそっくりな顔の跡がくっきりと残っていた。

140字小説【かいつまんで】

140字小説【かいつまんで】

「悪いな、急に呼び出して」
「それは別にいいッスけど、珍しいッスよね? 先輩の方から飯に誘ってくれるなんて」
「そうか? まぁ奢るからさ、遠慮せずどんどん好きなもの頼んでくれよ。さて、じゃあ俺はアサリの酒蒸しと、カキフライと、あとハマグリの……」
「かいつまんで話がしたいんスね、先輩」

140字小説【食の細道】

140字小説【食の細道】

 ズルズルッ……ズズッ!

「美味しそうに食べるね」
「だってこの店のうどん美味しいから。一口食べる?」
「いや、いい。太いの苦手だから」

 ツルッ……ツルルッ……

「そのざる蕎麦、美味しい?」
「うん」

 ツルツル……チュルルッ……

「……何で一本ずつ食べるの?」
「食が細いから」
「細すぎない?」

140字小説【アバウトカレー】

140字小説【アバウトカレー】

「う〜ん、まだひと味足りない気がするなぁ……とりあえずコレも入れて……うわっ、余計変な味になった。じゃあコレも入れて中和して……あれ、今ので何種類入れたっけ? まぁいっか――」

「――というわけで、こちら当店自慢の《大体》百種類のスパイスを使用したカレーでございます」
「大体……?」

140字小説【許容範囲外】

140字小説【許容範囲外】

「こないだ米にシチューかけて食べてみたんだけどさ」
「ええっ!? 絶対合わないでしょ!」
「いや、これが意外と合うんだって! お前も一回試してみ?」
「いやいや、私は無理!」
「そう言わずにさ。美味いから!」
「これは『美味いか不味いか』の問題やない! 《許せるか許せないか》の問題や!!」

140字小説【ごまかし】

140字小説【ごまかし】

「ごまかさないで!」
「ごまかしてないだろ!」
「いいや、その目は絶対ごまかしてる! 見ればわかるもん! いくら娘が可愛いからって、私の前ではごまかせないからね!」
「……あのさぁ、パパもママも喧嘩してないで、早くごまダレ貸してくれない?」
「ダメよ、アナタさっきから使い過ぎなんだから」

140字小説【全米が泣いた】

140字小説【全米が泣いた】

「朝は米派? パン派?」
「パン派。っていうか、そもそも米嫌いなんだよね」
「日本人なのに?」
「日本人でも米嫌いな人いるでしょ」
「もったいないなぁ。ちなみに私は、やっぱり《コシヒカリ》が好きかな」
「米なんてどれも同じでしょ。味だって炊飯器の性能の差だろうし」
「今ごろ全米が泣いてるよ」

140字小説【宇宙一品ラーメン】

140字小説【宇宙一品ラーメン】

「いつか世界一……いや、宇宙一のラーメン屋になってみせる!」

 そう豪語した彼はその後、ラーメンの修行と並行して宇宙飛行士になるための勉強をし、やがてついに自身の一号店を月面にオープンさせ、名実ともに宇宙で唯一のラーメン屋となった。

 ちなみに客は未だ誰一人として訪れていないという。

140字小説【皮肉】

140字小説【皮肉】

「ほい、焼けたよ」
「ありがと。そういや肉を焼くときに『育てる』って言う人いるよね。あれって何か皮肉じゃない? 牛も豚も鳥も、そもそも美味しく食べるために育てられたのに、殺生した後もさらに育てられるなんてさ」
「確かに。あっ、皮肉といえば焼き鳥の皮どうする? 頼む?」
「じゃあ二本!」

140字小説【その名の由来】

140字小説【その名の由来】

「野菜嫌だ。すき焼きなんだし、もっと好きなの焼こうよ」
「すき焼きは元々、農具の鋤(すき)の上で肉などを焼いて食べたことに由来するんだよ」
「へぇ〜。じゃあ鎌(かま)や鍬(くわ)だったらまた違ってたの?」
「かもね」
「車のボンネットの上だったら?」
「ぼ……ボン焼き?」
「肉食べていい?」

140字小説【やはり外せない】

140字小説【やはり外せない】

「やっぱり居酒屋で焼き鳥は外せないよね」
「わかる〜! つい頼んじゃうよね」
「とか言って、アンタ外してるじゃん」
「えっ? ああ、この方がお互い食べやすいかと思って……」
「そんな気遣いは無用! 大体、焼き鳥を串から外すとか邪道だから!」
「す、すいません……」
「外していいのは席だけよ」

140字小説【スパイシー】

140字小説【スパイシー】

「そのチキン美味しい?」
「うん、ウマい」
「でもスパイシーなんやろ?」
「気持ちピリッとする程度やな」
「そっかぁ、『気持ち』程度かぁ〜……せやったら、まぁ……いや、けどピリ辛かぁ〜……う〜ん……」
「何悩んでんのか知らんけど、あげへんで?」
「なぁんや、それやったらええねん」
「何やねん」