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なぞりのつぼ −140字の小説集−

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読めば読むほど、どんどんツボにハマってく!? ナゾリの息抜き的140字小説を多数収録! ※全編フィクションです。 ※無断利用および転載は原則禁止です。
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2023年2月の記事一覧

140字小説【自分だけの世界】

140字小説【自分だけの世界】

 お布団を頭まで被るのが好き。だってこうすれば心が落ち着くし、外の世界との関わりを遮断できる気がするから。

 お布団の中は自分だけの世界。ここにいれば雨が降ろうが槍が降ろうが、身も心も安全。

 だから安心してオナラもできる――

 ――まもなく自分だけの世界から出ることを余儀なくされた。

140字小説【地に足つくまで】

140字小説【地に足つくまで】

「舞妓姿、ずいぶん様になってんじゃん。最初は誰かと思ったけど」
「エヘヘ、ありがと」
「そういやアンタ、昔から言ってたもんね。『舞妓になりたい』って」
「うん。けどまぁ、いざ本気で舞妓になろうって思うと、なかなか二の足を踏んじゃってたっていうか――危なっ!?」
「アンタ裾踏んでんじゃん」

140字小説【10代からの処世術】

140字小説【10代からの処世術】

「ねぇお父さん、お小遣い欲しいんだけど」
「ダメだ」
「何でよぉ!? あれじゃ足りないって! 友達はもっと多く貰ってるのにさぁ!」
「どうしても自分で買えないものは俺におねだりすればいい。誰かに上手く奢ってもらうスキルは、覚えておいて損はないぞ」
「それってある意味《パパ活》じゃない?」

140字小説【何が気に入らなかった?】

140字小説【何が気に入らなかった?】

 プロポーズするために、奮発して彼女をオシャレなレストランに誘った。
 だけど料理が届いてまもなく、彼女は鬼の形相で僕の顔面に一杯の水をぶちまけてきた。
 しかも茫然とする僕に「このハエが!」とまで吐き捨てて……

「動かないで! 今叩き潰してやるから!」

 ……トドメに頬をビンタされた。

140字小説【inサイダー】

140字小説【inサイダー】

「ちゃんと例のブツは持ってきただろうな?」
「焦らなくても大丈夫ですよ。それより喉渇いてませんか? 炭酸でよければどうぞ」
「サイダー? ……って、ちょっと待て。この中に浮かんでるチップって……」
「そうです。いわゆる《インサイダー取引》ってヤツですよ」
「これ、データ破損してねぇか?」

140字小説【かじる程度】

140字小説【かじる程度】

「どうぞ、散らかってるけど」
「お邪魔しま〜す……あら、結構片付いてるじゃない。何これ、ギターとかやるの?」
「まぁ、かじる程度にね」
「ふぅん。それにしても変わったデザインね。所々歯型みたいになってるけど」
「まぁ、かじる程度にね」
「それよりアンタ、ちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ」

140字小説【臭気龍・ポルル】

140字小説【臭気龍・ポルル】

 ポルル……ポルル……

「あっ、お前どこに行ってたんだよ!? 心配したんだぞ!!」
「心配って、ちょっと小便しに行ってただけだろ」
「ならお前も聞いただろ、ドラゴンの声! 絶対近くにいるんだよ!!」

 ……すまない相棒、それ違うんだ。お前に聞かれたくなくて、外で屁をこいてきただけなんだ。

140字小説【チリソース】

140字小説【チリソース】

「味変したいな。何かない?」
「自分で取ればいいのに。え〜っと、醤油かマヨか……あっ、スイートチリソースあるよ!」
「何であるの?」
「試しに買ったのを忘れてた。待って、今開ける……から……固っ!?」
「おい、あんまり振るなって――」

 ――びちゃっ。

「だ、大丈夫……?」
「飛ばっチリだよ」

140字小説【朝からお迎え】

140字小説【朝からお迎え】

「モーニングルーティンって何かやってる?」
「毎朝寝起きにクラシック聴いてるくらいかな」
「なるほど、オシャレだね」
「クラシックはいいよ。心が浄化されて寝覚めがいいっていうか、何なら心地よすぎて天に召されそうになる感じっていうか。それで今朝も死ぬかと思ったわ」
「浄化されすぎじゃね?」

140字小説【座ってさえいれば】

140字小説【座ってさえいれば】

「なぁ、冷蔵庫からジュース取ってきてや」
「自分の方が近いやろ。自分で取りに行けや」
「嫌や面倒くさい」
「俺かて面倒くさいわ」
「《立っている者は親でも使え》って言うやんか」
「お前の親ちゃうから。あと座ってるやんけ」
「立てや」
「立たすなや」
「ちぇっ……使えへんなぁ」
「座ってるからな!」

140字小説【ママとのお約束】

140字小説【ママとのお約束】

「じゃあママ、買い物行ってくるから。その間、一人でお留守番できる?」
「できる!」
「本当かな〜? 知らない人が来ても、お家に入れちゃダメだからね? ママとのお約束」
「おやくそ!」
「『おやくそ』じゃなくて、お・や・く・そ・く!」
「おやくそ!」
「お願いだから親をクソって呼ばないで……」

140字小説【ハ●ムーン】

140字小説【ハ●ムーン】

『君が太陽なら、僕は月だ。君の光が、いつだって僕を照らしてくれる』

 それはハネムーンで、夫が私に言ってくれた言葉。

 あれから三十年。今でも私はその言葉を忘れずに、毎朝カーテンを開けては、窓から差し込む朝日で夫の頭を照らしている。

「うう、眩しい……」
「早く起きなさいよ、ハゲムーン」

140字小説【義理チョコ】

140字小説【義理チョコ】

「ねぇ、チョコあげよっか?」
「先生が俺に? 何で?」
「いいじゃない、義理なんだし」
「じゃあ、まぁ一応……つーか義理なのに手紙付きって……ん? 『母より』?」
「三者面談はお父さん来られるわよね? そのときはヨロシクね」
「待って! 『義理』で『母』って! ちょっ、これ……え〜と……」

140字小説【蛇足】

140字小説【蛇足】

「では、ことわざの問題だ。馬の耳に?」
「“か”ねんぶつ(可燃物)!」
「腐っても?」
「“か”たい(硬い)!」
「蛇に睨まれた?」
「蛇に睨まれた“ら”帰る!」
「……お前なぁ、さっきから一文字多いんだよ。わざとやってるのか? ふざけてないで真面目にやれ!」
「そういう先生は一言多いですね」