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最初の悪い男
最初の悪い男
ミランダ・ジュライ
岸本佐和子
43歳独身のシェリルは職場の年上男に片思いしながら快適生活を謳歌。運命の赤ん坊との再会を夢みる妄想がちな日々は、衛生観念ゼロ、美人で巨乳で足の臭い上司の娘、クリーが転がりこんできて一変。水と油のふたりの共同生活が臨界点をむかえたとき――。幾重にもからみあった人々の網の目がこの世に紡ぎだした奇跡。待望の初長篇。
クリーと出会う前のシェリルと、物語の終盤にフィリップと再会するシェリルは別人のようだった。
自分の殻に閉じこもって生きていた世界から一歩踏み出して(クリーのおかげで強制的に?)性、出産、別れ、人間関係のしがらみを経験し、色々な壁を乗り越え、一人の大人の女性に成長していた。
一気に成長したわけではない。「他者に執着したい」「自分の思うように動いてほしい」と思う弱いシェリルや、自分のエゴを押し付けず、相手のことを思いやることができる強いシェリルが行ったり来たりを繰り返し、自問自答、試行錯誤しながら進んでいた。
"完璧で静寂な"世界を求めてしまう。
世界は混沌とした大海原でどんな恐ろしいモノがあるかわからない。どうなってしまうのかもわからない。ただただ「怖い」。だから自分だけの大きな砦を築き上げ、その中で生きていく。そうすれば安全だから。何にも脅かされることはないし、自分が傷つくこともない。安心安全の砦。そこには悲しみや怒り、恐怖はないかもしれないが、人間と触れ合うことでしか得られない喜びや楽しみ、また、自分自身への本当の"安心感"もない。
そんな砦から抜け出すのには、やはりリアルな経験しかない。
人と触れ合うこと。人が自分の思い通りにはならないこと。理解できない言動をする人間もいること。本当に他者を愛すること。
生身の人間とのセックス。
あるいはセックスをするまでの距離。
妄想していたのも、現実世界で体が触れ合うことに対しての不安があったのか。
訳者あとがきでは「自分の肉体と心へ到達するための冒険物語、大人の成長譚なのだ」とある。なるほど。身体と心はつながっている。シェリルだけに言えることではなく、人間、結局は"している"ことが"すべて"なのだ。
共感する部分もあり、これから(今も?)成長する上で助けになってくれるだろう一冊。
空想だけど、飛んでいきすぎず、微妙な、だけどどこか心地よい距離感を保ってくれる主人公の心理描写がよかった。