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小説:コトリの薬草珈琲店(完結)

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小説版<奈良の薬草と薬膳>の第一弾。植物の言葉が分かる主人公・琴音が、時間の荒波の中で見出した“幸せ”とは?奈良の小さな薬草珈琲店で描かれる現代ファンタジー。奈良・歴史・薬草・コ…
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2024年7月の記事一覧

小説:コトリの薬草珈琲店 7-2

 週末の日曜日。午前8時にときじく薬草珈琲店の前で待ち合わせをして、琴音と川原君は宇陀を…

小説:コトリの薬草珈琲店 7-1

7章 宇陀の薬草教室 乾燥したショウガを一切れ、種を取った乾燥棗(なつめ)を一個。それと…

小説:コトリの薬草珈琲店 6-3

 琴音と凛が29歳になった年の8月、凛と今里家の親子の三人は燈花会の会場へと足を運んでい…

小説:コトリの薬草珈琲店 6-2

 凛と琴音は高校も大学も違う学校に進んだが(ちなみに、琴音は大学では生命科学を、凛はマー…

小説:コトリの薬草珈琲店 6-1

6章 もうひとりの母親 笠原凛は、幼い頃から自分の名前に囚われてきていた。「凛とした美し…

小説:コトリの薬草珈琲店 5-3

 川原君の自動車に乗って、目的地に最も近いコインパーキングまで移動。車を降りてから三人で…

小説:コトリの薬草珈琲店 5-2

 薬草好きで、かつ、奈良の歴史に興味ある人が集まった時に、よく話題に挙がるテーマがある。そのテーマとは、「施薬院」のことだ。かつての寺は、現代の大学に近い存在であった。医療や建築など、人々の生活の質を高めるための学問が集積している場所であった。その寺に併設されている医療施設が「施薬院」という訳だ。奈良時代においては、内薬司が皇室の医を、典薬寮が高級官僚の医を司っていたのに対して、施薬院は民衆の病気の対処を行っていた。  施薬院が魅力的に映るのは、かつての人々がどんな生活をし

小説:コトリの薬草珈琲店 5-1

5章 施薬院談義 12月の日曜日、16時。デザイナーの川原君から、琴音のスマホにメッセー…

小説:コトリの薬草珈琲店 4-3

 17時、フェスが終了する頃には周囲も薄暗くなりはじめ、肌寒さが増してくる。さて、さっさ…

小説:コトリの薬草珈琲店 4-2

 開場早々、会場内の一番目立つ場所に設置されている有名シェフのブースには列ができ始めてい…

小説:コトリの薬草珈琲店 4-1

4章 奈良のうまいもの 朝の8時。一部の照明だけをつけた店内で琴音とバイトの佳奈の母、真…

小説:コトリの薬草珈琲店 3-3

 大和西大寺駅の商業施設は「ならファミリー」と呼ばれていて、近鉄百貨店・イオン・専門店街…

小説:コトリの薬草珈琲店 3-2

 四人は垂仁天皇陵から少し離れた場所にある小さな公園へと移動することにした。陵の近くには…

小説:コトリの薬草珈琲店 3-1

3章 田道間守の橘 11月の晴れた日曜日、昼過ぎ。いよいよ冬服が欲しくなるような肌寒い空気の中、琴音は近畿日本鉄道・西ノ京駅の駅前でスマホを触りながら時間をつぶしている。駅前と言っても都会の駅とは違い、目の前にはすぐに大きな寺が見えている。創建が680年、奈良時代の初期に平城京に移転された薬師寺だ。その東塔は奈良時代から残るもので、国宝に指定されている。  この薬師寺のあるエリアは、ならまちからおよそ4kmほど西に位置している。奈良朝の中枢区域である平城宮から見ると、ならま