奈良の薬草と薬膳(さとたけ)

奈良の薬草好き、サトタケです。「奈良の薬草と薬膳」というコミュニティ運営、「コトリの薬…

奈良の薬草と薬膳(さとたけ)

奈良の薬草好き、サトタケです。「奈良の薬草と薬膳」というコミュニティ運営、「コトリの薬草珈琲店」という小説の執筆、その他薬草関係のイベントなどをプライベートで行っています (^^)/

マガジン

  • 小説:コトリの薬草珈琲店

    植物の言葉が分かる主人公・琴音が、時間の荒波の中で見出した“幸せ”とは?奈良の小さな薬草珈琲店で描かれる現代ファンタジー。奈良・歴史・薬草・コーヒーがお好きな方々に届けたい物語。

  • 奈良の薬草と薬膳 あれこれ

    「奈良の薬草と薬膳」に関する最新トレンドをお届けします。奈良が好きな人、薬草で美しく健康になりたい人、薬膳料理を食べるのがお好きな人は、ぜひご覧ください (^^)/

最近の記事

小説:コトリの薬草珈琲店 12-3<完結>

 あれから数年後。コトリと凛は30代の半ばに近づいた。  今日は月曜日、夏の夜の奈良。  山椒の実に似たキハダの実(乾燥済み)を1粒。深煎りのコーヒー豆を15g。それらを一緒にミルに入れて、グラインドする。出来上がった薬草珈琲粉をフィルターに移し、測りにセットしているコーヒーサーバーの上に置く。その上から90度前後のお湯を軽く注ぎ、粉を蒸らしてから、一気にお湯を注ぐ。サーバーにコーヒーが落ちきったら薬草珈琲の完成だ。 「お待たせ。試作品のキハダ珈琲になります。」ならまちに

    • 小説:コトリの薬草珈琲店 12-2

       三本の竹筒に薬液を入れ、漏れ出ないように詰め物をする。それを麻の袋に入れて三人は出発した。麻の袋は香古売が持つこととなった。それぞれ腕の魔除けも確認し、香古売は首の勾玉も忘れないようにした。  すでに日は暮れており、大通りに人影はない。月の光と、所々に設置されている灯によって行く先が示されているだけである。  その風景を見て、赤麻呂は重要なことを思い出した。 「しまった、平城京では夜に外出することが禁じられているんだった・・・」 「それって、こんな緊急時でも絶対ダメなの

      • 小説:コトリの薬草珈琲店 12-1

        12章 想いを受け継ぐ 須美羅売らは各処からの料理の注文を取りまとめるチームで働いていたが、3人のうち1人が既に来なくなっていた。その人も疫病に罹ったのだろうと誰しもが思ってはいたが、もはや珍しいことではなかったため、誰も話題に挙げたりはしなかった。  そして、疫病をもたらす悪霊は、須美羅売たちも標的に見定めていた。  須美羅売と同僚の馬借売(まかりめ)は各処から届けられた木簡を読み上げながら、調理や盛り付けのチームに指示を与えていく。効率よく業務を進めるために木簡を10

        • 小説:コトリの薬草珈琲店 11-3

           香古売が7歳になった時、再び蔓延をはじめた疫病がとうとう平城京にも入ってきたという噂が流れた。佐加麻呂に関しては、疫病が一時的に収まった昨年、因幡の国への出向が命じられた。そのため、現在、平城京に残っている家族は須美羅売・赤麻呂・虫飼・香古売の四人だった。  やがて、知り合いが疫病にかかったとか、家族が疫病にかかったから官職を休むという人が少しずつ現れてきた。そうは言っても官人としての仕事を止めるわけにもいかず、人々は漠然とした不安を抱きながら変わらぬ日常を送っていた。

        小説:コトリの薬草珈琲店 12-3<完結>

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        • 小説:コトリの薬草珈琲店
          36本
        • 奈良の薬草と薬膳 あれこれ
          14本

        記事

          小説:コトリの薬草珈琲店 11-2

          <私・・・>  その世界を眺めるカメラと化していた琴音は、ようやく、自分がこの世界を観測し続けていたことに気づいた。須美羅売と佐加麻呂、赤麻呂、虫飼、そして、香古売。彼らの日常を断片的に観測して、断片的に記憶しているようであった。 <やっと気づいたか>  不意に、声がする。琴音は少し思いを巡らしたが、すぐに声の主が誰だか理解した。 <この声、勾玉さん、だよね?> <そうだ。・・・ようこそ、オレの夢の世界へ> <お母さんが亡くなってから3年ほどずっと一緒にいたけど、やっと会え

          小説:コトリの薬草珈琲店 11-2

          小説:コトリの薬草珈琲店 11-1

          11章 京に住まう母娘 オレは土の中から掘り出され、削られ、磨かれ、現在の形となった。しばらくは誰かの首に巻かれていたのだが、やがて土に埋められて、長い間、静かな時を過ごしていた。  そして、いつしか再び誰かに拾われ、最終的にその時代の最も高貴な邸宅へと行きついた。虹色の貝殻で装飾された漆塗りの箱。それがこれまで、オレの収まっていた場所だった。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  落ち着いた花柄のあしらわれた朝服を自然体で着こなす高貴な女性。白檀の使われた上質な練香のアロマがほのか

          小説:コトリの薬草珈琲店 11-1

          小説:コトリの薬草珈琲店 10-3

          「お預かりした勾玉ですが、少し面白い仮説をお話できるかもしれません。」田端さんは三人が聞く体勢を示すと、ゆっくりと説明を始めた。その言葉は窓から見える平城宮跡の風景と相まって、三人を古(いにしえ)の世界へといざなう。 「まず、この勾玉自体は、形状と年代測定技術を組み合わせて判断すると、およそ1,800年前、古墳時代初期に作られたものだと推定されます」 「古墳時代の初期・・・」琴音が田端さんの言葉を反芻する。 「ええ。ただ、この表面に刻まれた文字は恐らく奈良時代のものだと思わ

          小説:コトリの薬草珈琲店 10-3

          小説:コトリの薬草珈琲店 10-2

           琴音たちは応接室のような部屋に通され、田端さんから席を勧められる。荷物を置いてから名刺を取り出して、交換。そして、今日の御礼にと薬草珈琲(粉)を田端さんに手渡した。 「お気遣いいただいて、ありがとうございます。・・・へぇ、薬草珈琲ですか」 「はい。国内で採れる薬草や薬木を気軽に楽しんでもらえたらって思って、薬草珈琲というコーヒーの飲み方を提案しているんです」 「凄いですねぇ。奈良時代でも一部の薬草や薬木は国内で採れていましたが、基本的には輸入に頼ってたからねぇ。基本的に庶民

          小説:コトリの薬草珈琲店 10-2

          小説:コトリの薬草珈琲店 10-1

          10章 文化財研究所 3月、少し温かな晴れた平日。いつも通りランチ営業を行っていると、よく見慣れたメガネ男子が店の中へと入ってきた。カウンターの奥側に座る歯科医夫人・高橋さんに軽い会釈をして、その横へと座る。川原君の大学時代の後輩であり、奈良のツアー会社で働く福田君だ。  ただ、今日の福田君はいつもと違い、何やら楽しげなオーラを纏っている。何かいいことあったのかな?などと思いながら挨拶し、注文を聞き、ランチを提供。ただ、他の接客でも忙しく、そのことは琴音の意識から外れてしま

          小説:コトリの薬草珈琲店 10-1

          東吉野の染織工房「空蝉 utsusemi」さんで自然に囲まれながら藍染め体験

          サトタケが主催させていただいた奈良・蔦屋書店さんのイベント、「きもちいいね、草木花」にご登壇いただいた染織家・宇都宮弘子さんの工房にずっと行きたかったのですが、とうとう願いが叶いました。今回の記事は、その一泊二日の簡単なご報告。 染織体験までの色々 8月18日の朝から染織体験をするということで、17日から家族で前泊。染織工房「空蝉」さんは、染織体験の参加者に向けて離れのお部屋を宿泊可とされているんです。 まず、お部屋が素敵で心地よい時間を過ごさせていただきました。大きな

          東吉野の染織工房「空蝉 utsusemi」さんで自然に囲まれながら藍染め体験

          小説:コトリの薬草珈琲店 9-3

           2月後半の日曜日。今日は11時に川原君と店の前で待ち合わせをするという段取りになっていたため、琴音はそれまでの時間を自分の店で過ごすこととした。  この日に会おうと連絡をしたのは琴音のほうだった。まだ川原君にきちんと返事を返せずにいたが、一人で考えていても良い答えが出る訳ではない。なら、友達ということなんだから、一緒に遊びに行ってお互いの理解を深めたほうがいいんじゃないかな。そんな風に考えた訳だ。川原君からは、もちろん喜んで、と即答が返ってきた。琴音と会えることが純粋に嬉

          小説:コトリの薬草珈琲店 9-3

          小説:コトリの薬草珈琲店 9-2

           土曜日。いつもは5時過ぎに起きる琴音だが、この日は9時になってもベッドの上でゴロゴロとくつろいでいた。今日は真奈美と佳奈で店をまわしてくれるということで、心身ともにゆっくりさせようと思った訳だ。  なんとなく、ベッドの上で本を開く。ずっと読めていなかった本。植物の気持ちを理解するヒントが書かれている内容・・・もちろん、琴音のような能力のない一般の人向けだ。  まず目に留まったのは、植物が精油をつくる理由。これらは琴音もだいたい知っている内容ではあったが、再確認しておこう

          小説:コトリの薬草珈琲店 9-2

          小説:コトリの薬草珈琲店 9-1

          9章 心の温かさ 東京出張から十日ほどたった水曜日。その日は朝から佳奈の様子がいつもと違った。少しぼーっとしていたり、笑顔がぎこちなかったり。その理由は、夜の営業を終えた直後に分かることになる。  洗い物と店の簡単な掃除を終え、そろそろ個々の帰宅の準備をしようという雰囲気の中、佳奈から琴音に相談を持ち掛けた。「コトリさん、少しだけお話、いいですか?」いつもの明るさはなく、少し緊張した面持ちである。 「うん、もちろん。どうしたの?」 「この前、東京でお話をした化粧品メーカーの

          小説:コトリの薬草珈琲店 9-1

          都会でもできる薬草セルフケア #未来のためにできること

          「おばあちゃんの知恵」という言葉があるけれど、それは、まだ家の周りに自然がたくさんあって、大家族で暮らし、村のみんなで共同の手仕事をしていた時代の話。今やそれは失われたおばあちゃんの知恵を懐古する言葉なのかもしれない。  薬草的には、お腹を壊したらゲンノショウコの薬草茶を飲みなさいとか、中耳炎になったらすり潰したユキノシタを使いなさい等と言われたりしたらしい。実際、ゲンノショウコの葉をかじると、お腹がすっきりする。自分に合う薬草は、実際に効く。  そう言いながらも、実はサ

          都会でもできる薬草セルフケア #未来のためにできること

          小説:コトリの薬草珈琲店 8-3

          「薬草を学ぶ方法は大きく4つほどあるんですけど、それぞれ簡単にお伝えしますね。」30歳を超えたくらいの女性二人に対して、本日も佳奈のトークは絶好調である。 「うん、よろしくお願いします。」好奇心の強そうな女性二人も聞く体制に入っている。 「一つは、漢方とか中医学とかを学ぶという方法です。千年以上、体質や体調に合わせて処方されてきたものなので、それなりに信頼できる考え方だと言えます。たくさんの薬草が登場するので、薬草について理解が深まります」 「例えばどんな薬草が学べるんです

          小説:コトリの薬草珈琲店 8-3

          小説:コトリの薬草珈琲店 8-2

           土曜日。開店早々、デパートの「薬草と生きる」会場には客が集まってきた。東京は人口が多いこともあって、こういったテーマに関心の強い人の数も多いのだろう。客層は40~60代の女性が多めではあるが、通りすがりの来店も加わってか、そこそこ年代は分散しているようだ。  ときじく薬草珈琲店ブースへの一番乗りは、中野でカフェをしているという男性だった。応対は琴音が行った。 「薬草珈琲ってはじめて聞いたんですけど、珍しいことされているんですね」 「ご興味をもっていただいて、ありがとうござ

          小説:コトリの薬草珈琲店 8-2