奈良の薬草と薬膳(さとたけ)

奈良の薬草好き、サトタケです。「奈良の薬草と薬膳」というコミュニティ運営、「コトリの薬草珈琲店」という小説の執筆、その他薬草関係のイベントなどをプライベートで行っています (^^)/

奈良の薬草と薬膳(さとたけ)

奈良の薬草好き、サトタケです。「奈良の薬草と薬膳」というコミュニティ運営、「コトリの薬草珈琲店」という小説の執筆、その他薬草関係のイベントなどをプライベートで行っています (^^)/

マガジン

  • 小説:コトリとアスカの異聞奇譚

    小説版<奈良の薬草と薬膳>の第二弾。植物の言葉の分かる琴音とその娘、明日香。彼女たちが出会う、日々の不思議なお話たち。

  • 小説:コトリの薬草珈琲店

    小説版<奈良の薬草と薬膳>の第一弾。植物の言葉が分かる主人公・琴音が、時間の荒波の中で見出した“幸せ”とは?奈良の小さな薬草珈琲店で描かれる現代ファンタジー。奈良・歴史・薬草・コーヒーがお好きな方々に届けたい物語。

  • 奈良の薬草と薬膳 あれこれ

    「奈良の薬草と薬膳」に関する最新トレンドをお届けします。奈良が好きな人、薬草で美しく健康になりたい人、薬膳料理を食べるのがお好きな人は、ぜひご覧ください (^^)/

最近の記事

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-16

 花言葉ナイトのイベントから一週間後の日曜日。晴れた午後。場所は奈良公園の飛火野(とびひの)エリア。鹿が群を成す広い芝生がエリアの中心となり、その周囲をたくさんの古木が取り囲んでいる。古木の根は地面に露出しており、蜘蛛の足のように複雑に絡み合っている。  地形の複雑さが楽しいのか、明日香は根の上をぴょんぴょんと飛びながら一人で遊んでいる。その側で今、琴音と葵が話をしているところだ。そう、今日は葵が琴音と明日香を遊びに誘ったのだった。 「昨日、また山科さんがお店に来てくれた

    • 小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-15

      「じゃあ、私の痛みについて話します」  参加者たちの輪に入りながら、葵は話をはじめる。チラリと琴音のほうを見ると、琴音は椅子に座りながら、いつの間にか来ていたお寺の住職さんと話をしているようだった。 「まず、この前まで、私、人見知りだったんです」 「え~、そうなん?」「分からへんかった」とか、「なんとなく、そんな感じしてた」といった言葉が飛び交う。 「特に日常会話がホントに苦手で、心臓がすぐにバクバクしてしまうんです。・・・でも、あちらにいる店長の琴音さんに色々とアドバ

      • 小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-14

         2人目、3人目、4人目と、順番に心の痛みが語られていく。就職がまったく決まらないといった心の痛み。ストーカー被害に怯えているという心の痛み。肉親の死という悲痛な痛みもあった。  そんな心の痛みが一人ずつ語られ、辛い部位を両隣に座る仲間に触ってもらい、「飛んでいけ!」でどこかに飛ばす。そして、その穴を花言葉によって埋めるのだ。  3人目までは、一人ずつ粛々とイベントは進んでいった。ただ、4人目を超えたあたりから、だんだんとその場が熱を帯びていく。心の痛みを発表すると、その

        • 小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-13

           軽い準備を終え、葵は改めて11人の前に立った。お寺の講堂は暗く静かで、中心にある灯が参加者たちの顔をやわらかい暖色へと色づけている。 「では、みなさん。これから花言葉ナイトの本番へと移りたいと思います。みなさんからは事前に、今、心が痛いと感じている事を教えてもらいました。その痛みをこの11人の力と花言葉の力でどこか遠くへ飛ばしていきたいと思います」  楽しげだった参加者の顔が少しだけ引き締まる。そう、私はこの人たちの悩みを一緒に解決するためにここにいるんだ、と葵は改めて

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        • 小説:コトリとアスカの異聞奇譚
          19本
        • 小説:コトリの薬草珈琲店
          36本
        • 奈良の薬草と薬膳 あれこれ
          14本

        記事

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-12

           夜の19時前。その寺の門は半開きとなっており、地面には和風の照明がぽつりと置かれている。照明は四角く、各面には和紙が貼られていてふすまを思い起こさせる。その一つの面にはイベントのロゴが描かれており、暗がりの中、背景の光がそのロゴを黒く浮かび上がらせている。 『花言葉ナイト ~Nacht der Floriographie~』  お寺にカタカナやドイツ語というアンマッチが、これから日常とかけ離れた異世界の時間が始まることを予感させる。  門をくぐると、指のマークの描かれ

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-12

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-11

           イベントのタイトルが『花言葉ナイト ~Nacht der Floriographie~』へと決まってから、葵のプライベートの時間は企画のための情報収集と思索に費やされた。  葵は三つの点にこだわることとした。1,花言葉のエネルギーを何とかして参加者に届けるということ。2,夜の雰囲気を楽しんでもらうこと。3,20代の子たちのメンタルの悩みをちょっとでも解決してあげること。まぁ、自分だって、20代のメンタル面で悩む女子ではあるのだけれど。  十日ほど経って、段々と企画が固ま

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-11

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-10

           土曜日の晩、閉店後。琴音はその日最後の薬草珈琲を淹れている。はとむぎ珈琲。ハトムギの種を珈琲豆にブレンドした薬草珈琲だ。少し多めに、三人分。  カウンターに座っているのは葵と、6年前までバイトをしていた佳奈だ。佳奈は現在、大手化粧品会社の研究員として横浜で働いているのだが、実家に帰りがてら琴音と少し話があるとういうことで店に立ち寄った。そこで葵につかまってしまった訳だ。 「でも、佳奈さん。よく考えたらお久しぶりですよね」 「うん、そうかも。めっちゃ久しぶり。でも・・・葵

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-10

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-9

           月曜日から火曜日にかけて、葵は「何か新しいことをしたい」という衝動に駆られていた。日曜日に琴音に店長を任せたいと言ってもらえたことと、恐らく明日香が媒介となって体内に入ってきたタチアオイのエネルギー。それらが葵の身体を前へ進めと駆り立てていた。  火曜日、仕事を終えて、両親と食事をとって、すぐに自室へと籠る。紙を広げながら、ペンを片手に持つ。私にできること、何なんだろう。琴音さんにできないこと?もしそうなら、それは何?  ときじく薬草珈琲店のお客さんは大きく二つに分けら

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-9

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-8

           明日香は周囲の草木にそっと触れながら、どんどん前に進んでいく。時々、その草木の前に立ち止まったりしながら。  草木の前で明日香が何をしているのだろうと葵が覗き込むと、明日香はその草木を睨みつけているように見えた。え、何?・・・可愛い、けど、ちょっと怖い(笑)。 「明日香ちゃん、どうしてその草を睨みつけてるの?」と葵がきくと、 「草とお話しているの。もうちょっとなんだって。」と明日香は返す。  何がもうちょっとなの?と聞くのも野暮かと思い、葵はしばらく明日香の好きにさせよ

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-8

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-7

           5歳の明日香は迷いなく、湖畔の木々の間を走っていく。あははははと楽しそうに笑いながら。葵もそれに続く。追いつかないように、でも、見失わないように、絶妙な距離を保ちながら。  しばらく走ってから、明日香は急にしゃがみこんだ。じっと池のほうを眺めてから葵のほうを振り向く。 「葵ちゃん、水の中に木がある」 「あ、本当だね。たくさんの木が奇麗に反射しているね。」そう言いながら、葵も明日香に合わせてその場にしゃがみこんだ。二人並んで小さくしゃがんで、おしゃべりを楽しむ。  あれ、

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-7

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-6

          「じゃあ、私の話に移るね。・・・これまでも何度か、葵ちゃん、いつかは自分の店を持ちたいって言ってたけど、それは今も同じ?」湖畔を歩きながら、琴音が話をさらに進める。 「はい。・・・自分のことを認めてくれる仕事仲間と、お店を好きだと思ってくれるお客さんに囲まれながら仕事ができるのは心地よさそうかなって思ってます」 「うんうん。なるほど。・・・ただ、葵ちゃんの大学だったら、周りのお友達は大手のメーカーなどに就職した子も多いんじゃないの?あとは大学院に進んだ子とか」 「そうですね。

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-6

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-5

          「じゃあ、まず、葵ちゃんのほうからでいい?私のほうは、もしかしたら葵ちゃんの話によって変わるかもしれないから。」湖畔を歩きながら、琴音が話を進める。 「はい。・・・えっと。・・・どう言ったらいいんだろう」 「・・・時間はあるから、言えるって思ったタイミングで言ってくれたらいいからね」 「ありがとうございます。・・・でも、言います」 「うんうん」 「お気づきかもしれないんですけど、私、・・・人見知りで・・・」 「うん」 「ずっとこのお仕事を続けたいんですけど、どうやったら克服で

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-5

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-4

           晴れた日曜日、14時。  琴音が指定した場所は、東大寺の北西すぐにある大仏池のほとりだった。そこは人も鹿もあまり訪れず、美しい湖畔を静かに楽しめる隠れスポットである。秋には紅葉が映え、冬が訪れる前にはイチョウの葉の黄色いカーペットがその場を美しく飾る。  少し早く着いたかなぁと思って葵がぶらぶらとしていると、そこで遊んでいた親子三人のファミリーが葵のほうへと近づいてくる。よく見ると、琴音の一家だった。 「葵ちゃん、遊ぼ~」  一番乗りは、琴音の娘の明日香だ。少し遅れて

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-4

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-3

           まぁでも、昔に比べたら人見知りの症状はマシになったものだ。かつての私だったら、こんな状況に陥った時は・・・いやいや、思い出したくもない。でも、このままじゃダメなのは分かっている。  琴音さんがちょうど良い相談相手なんだろうけどなぁ。変に気遣ったりもせず、優しく冷静に意見をしてくれそう。でも、どんな風に声を掛けたらいいのかなぁ・・・。  そんなことを考えながら葵は午後の仕事を進めていたのだが、閉店間際に琴音のほうから声をかけてもらえたのはラッキーだった。 「葵ちゃん、お

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-3

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-2

           土曜日、ランチタイム。 「葵ちゃん、こちら1番テーブルさんにお願いね。あと、もうすぐ2番カウンターさん分もできるから」 「はい、了解です」  葵はお盆にコーヒー2杯分を載せ、狭い店内を移動する。1番テーブルの客は若いカップルだ。楽しそうに談笑しながらランチ後のコーヒーの到着を待っている。 「お待たせしました。こちら、女性の方のエキナセア珈琲です。こちらは、男性の方のクマザサ珈琲になります。」葵は丁寧にソーサー部分を持ちながら、それぞれのコーヒーを配膳する。 「ありがと

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-2

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-1

          第二章「花言葉の言霊」 関口葵(せきぐちあおい)は、これまでずっと悩んでいた。  目立たないように大人しい服装を着て、顔が少しでも隠れたらとメガネをいつもかけている。うつむき加減で、陽気・・・とは程遠い表情だ。  彼女はときじく薬草珈琲店のバイトとして働いていて、今年で5年目。それだけの長い間、働いているのに、なかなか接客業に慣れなかった。彼女は、いわゆる人見知りというやつだった。  しかし、店長の子供と経験した不思議な体験をきっかけに、最終的にはその人見知りの呪縛がガ

          小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-1