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短歌二十連『感傷町三丁目』

感傷は物心ついたときから私のポケットにいつもありました。
そこに一握りの抒情が混ざったとき、出来上がった言葉たちです。


ひび割れた鏡に映る疲れ顔死んでないけど生きてないやつ

明日なるはずの私を手にかけて昨日のままの私を生きる

久方の雨にこの身を差し出せど洗い落とせぬ自殺願望

四畳半梅雨に生まれた火蜥蜴は海底の夢を独り見るなり

懐に忍ばす抒情原色のネオンにひらめき雨雲を裂く

桟橋を照らす街灯落ちる影行きは二つで帰りは一つ

団地裏潰れた駄菓子屋の前で愛されたいと泣く子らの声

わがままは言いませんただ欲しいだけ夢と希望とお金と愛と

午前二時伊勢湾岸道下り線加速していく消えたい心

逃げ込んだインター沿いのラブホテル排水口に捨て行く未来

夢ふふむなれど開かぬ何度目の春を迎えん栄の桜

夏銀河寝物語を聞きたまえ永遠に見果てぬ僕らの夢を

夢ばかり追いやがってとあの頃の僕が怒鳴っている二十五時

死んでやるもう死んでやる今すぐに明日かあさって明明後日かに

これまでと嘆く背中を押す風は故郷の母の呼び声に似て

後悔を吐き出すための溜め息は風の最小単位とならん

少年が上ばかり見て歩くのは空が溜め息の墓場だからか

夕焼けに溶いた怒りは翌朝の東の空にまだ残ってる

感傷が夜行性ゆえ僕たちは深夜のラジオしか聞こえない

後悔と挫折の踏切り超えたらばここは感傷町三丁目



【自作まとめ】


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