マガジンのカバー画像

万年筆の徒歩旅行

16
万年筆くらぶ会誌『フェンテ』に投稿した雑感を順不同で転載するアーカイブ。 万年筆を筆記具より文化的な視点で話そうかと思っています。 マガジンタイトルは、中原中也の詩「自滅」から。
運営しているクリエイター

#随筆

その16:紛い者の万年筆

その16:紛い者の万年筆

万年筆がタイトルに付く歌がある。 
2018年にデビューした青森県出身の3ピースバンド SWALLOWの3rdシングル「紛い者の万年筆」 (2021年) だ。
厳密に言えば、元のバンド名 「No title」では11曲のデジタルシングルが出ており、2020年に「SWALLOW」へと改名してからの3枚目のシングルに当たる。
この曲は、三沢市出身の彼らが青森の冷たい冬の空気をイメージした楽曲で、工藤帆

もっとみる
その15:万年筆の怪人

その15:万年筆の怪人

男は誰しも少年だった。そして少年は、ヒーローに憧れを抱いて大きくなる。
1966年のウルトラマン、 1971年は仮面ライダー、 1975年には秘密戦隊ゴレンジャーと、 特撮ヒーロー番組のシリ ーズは2023年の現在まで脈々と続き、毎回手を変え品を変え、様々な怪人が地球(日本?)を脅威に晒し、ヒーローたちに都度打ち負かされている。この構図がもう半世紀以上続いていることになる。
怪人もユニークな着想か

もっとみる
その14:書いたらどうなる?

その14:書いたらどうなる?

ここに書く話題を考えていたら、めっきり文字を書かなくなっていたことに気付いた。
萬年筆くらぶという集まりに属していながら、ここのところの万年筆が観賞するものになっているじゃないか。
これはいけないとは思うのだが、パソコンで仕事をするのが当たり前の現代において、文字を書く機会を見出すことも容易なことではない。
まして書かないと日増しに漢字は忘れるし、 書く文字は下手くそになる。これがまた書かない行為

もっとみる
その13:詩人の万年筆

その13:詩人の万年筆

今年(2023年)は、私が詩の神様と崇める田村隆一の生誕100年を迎える。
私淑やまない大詩人の万年筆と言えば、晩年のその書斎を彩った二本のパーカー。出版社から贈られたというその万年筆は、デュオフォールドのブラックとオレンジの二本のこと。
実際にはこの二本のうち、ブラックの一般的なデュオフォールドを自身が使い、オレンジの方は専ら夫人が使われていたそう。
そもそもこの詩人、筆記具にこだわるような人物

もっとみる
その11:万年筆の夢

その11:万年筆の夢

皆さん、夜の眠りで見る夢に万年筆が出てきたことはありますか?
私はまだまだ精進が足りないせいか、未だ万年筆が夢に出てきたことはありません。
古くから夢占いというものがあります。その諸説はまちまちで、一体どれを信じるべきかというのは人それぞれに拠るところでしょうか。ですが、大抵の場合だと万年筆が現れる夢というのは悪くはない。基本的にコミュニケーションツールの象徴とされ、吉報の暗示を指すそうです。

もっとみる
その4:ペンは剣より強し

その4:ペンは剣より強し

「万年筆は男の武器である」と説くのは、池波正太郎の『男の作法』(新潮文庫)だ。
万年筆を男が外へ持ち出す場合、それは刀のような武器であり、若者でも高級なものを持ったほうが立派に見えるし、気持ちとしてもキリッとすると言うのが理由。
日本の武術には、江戸時代初期に夢想権之助勝吉という武芸者が編み出した神道夢想流から始まる杖術というものがある。
日常で使う杖で戦う武術であるが、では同じく日常で用いられる

もっとみる
その2:隕石と刀と万年筆

その2:隕石と刀と万年筆

遥か昔から人々は空に対して畏敬の念を抱いてきた。
神は必ず空の上に居り、科学技術が発達して宇宙の仕組みが紐解かれて来た現代でさえ、未だにその敬いは止まらない。
そんな天から飛んできた隕石は、地層の化石と共に壮大なロマンで好奇心をくすぐり続けている。
隕石と言っても色々な鉱石で生成されているし、知らずに鉄製の武器になったり、知っていれば天から落ちてきた授かり物とされる。太古の昔のツタンカーメンの墓で

もっとみる
その3:ミステリーと万年筆

その3:ミステリーと万年筆

アメリカのミステリ作家コーネル・ウールリッチ(またの名をウィリアム・アイリッシュ)の作品に『万年筆』というものがある。
御存知の方もいるでしょうが、1945年に書かれた短編小説で、早川書房のポケットミステリ648『ぎろちん』という短編集に収められている。1964年には岡本喜八監督によるミュージカル映画『ああ爆弾』の原作にもなり、今では紙の本は絶版となっているが、古本市場か電子書籍なら今でも購入は可

もっとみる
その9:付喪神と万年筆

その9:付喪神と万年筆

かの『御伽草子』に出てくる「付喪神」は、長い歳月を経ることで物に宿る精霊や妖(あやかし)のこと。付喪神は「九十九神(つくもがみ)」と書かれることもあり、「積み重ねた長い時間」という99年や「多種多様な物」という99種の意味合いから、物に付喪神が宿るまでの歳月はおよそ100年とされる。そのため付喪神を忌み嫌う人々は、年の瀬の煤払いの際にこぞって古い道具を捨ててきた。
とは言え、付喪神は人を襲う荒ぶる

もっとみる