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旅のこと

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#ねむれない夜に

ビニール袋の未知と灼熱④いのちをまるごと売っている【ルアンナムター】

ビニール袋の未知と灼熱④いのちをまるごと売っている【ルアンナムター】

 ルアンナムターのモーニングマーケットの迫力ときたら。
 一歩立ち入ると、むわむわと青っぽさを立ち昇らせる葉物や土まみれの得体のしれない根菜が所狭しと並び、竹ざるに投げ込まれた蟹たちが外の世界を見上げるように蠢き、作り立ての総菜がパンパンのビニール袋に湯気ごと閉じ込められ、打ちたてほやほやの小麦の麺類をちょきちょきと切る音が小気味よく響き、一段上がったタイル張りの区画でまだ生きているかのような赤赤

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ビニール袋の未知と灼熱③雨季の始まり【バン・シーエン・ロム、ルアンナムター】

ビニール袋の未知と灼熱③雨季の始まり【バン・シーエン・ロム、ルアンナムター】


 滝の音で目が覚めた。
 滝?

 違う。雨だ。

 あまりにも深く眠りすぎていて、自分の家だと思い込んでいたので、脳みそがひどく混乱していた。
 外はまだ真っ暗だった。一呼吸おいて全ての状況を理解し、「洗濯物!」と叫んで飛び起きた。実は前日、手洗いした洗濯物をしこたまベランダに干していたのだ。慌ててバルコニーに出る。

 風がなかったおかげで雨は吹き込んでおらず、洗濯物は無事だった。安どのため

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ビニール袋の未知と灼熱②メコン川的日常【ルアンバパーン】

ビニール袋の未知と灼熱②メコン川的日常【ルアンバパーン】

 2024年5月1日。突然の太鼓の音で私ははっきりと目を覚ました。時刻は朝4時。何事かとまだ暗闇の外に出ると、宿の目の前のメインストリート沿いにカラフルなお風呂のイスのようなプラスチックの物体が配置されていた。
 近くにいたおばちゃんが、私を見つけるなりつつつと寄ってきたかと思うと、カオニャオとお菓子が詰まった籠を1つずつと、頭にかぶるスカーフみたいなものを押し付け、私をお風呂イス(青)に座らせた

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ビニール袋の未知と灼熱①【ハノイ、ルアンバパーン】

ビニール袋の未知と灼熱①【ハノイ、ルアンバパーン】

 2024年4月29日。疲れていた。めちゃくちゃ疲れていた。めちゃくちゃ疲れながら、私はいつもの迷彩柄のでかいノースフェイスのバックパック(腰のベルトがついていないのですべての重量を肩で支えなければならないというタウン仕様)を背負って、のそのそと道を歩いていた。

 今回の行先は、30歳にして人生初の東南アジアだった。自分でも驚きだが、私はタイにもベトナムにもカンボジアにも行ったことがない。なんと

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ジョージア、天国に一番近い国(13)あちら側とこちら側【トビリシ】

ジョージア、天国に一番近い国(13)あちら側とこちら側【トビリシ】

 続きです。

 バスはトビリシに17時に到着した。本当は19時に到着する予定だったはずだし、2時間も早く着くならシグナギはもっとゆっくり見られたのでは……なんて思ったが、まあ考えても仕方ない。とにかく降ってわいたこの2時間を楽しむことが優先だ。

 トビリシで時間があったらやりたいことがいくつかあった。まず、初日に訪れたツミンダ・サメバ教会に再訪すること。10日間ジョージアで過ごして、やっぱり一

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ジョージア、天国に一番近い国(12)Life is too short to drink bad wine【シグナギ】

ジョージア、天国に一番近い国(12)Life is too short to drink bad wine【シグナギ】

 1/6、10日目。ジョージアの旅もいよいよ最終日。
 この日は以前から、トビリシ東部にある街「シグナギ」に行くつもりだった。ジョージアワインの生産地であり、高台に位置することから天空の町といわれている場所だ。いわゆる絶景スポットってやつである。
 自力でマルシュを使っていくことも簡単だが、ワイナリーに行って見たかったのでツアーに申し込んでいた。集合場所は宿の近くだったのだが、いざ到着するとそれら

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ジョージア、天国に一番近い国(11)ドアポケットのウイスキー【トビリシ】

ジョージア、天国に一番近い国(11)ドアポケットのウイスキー【トビリシ】

 1月5日。10日目。先にお断りしておくが、この日は移動しかしていないので、本当に書くことがない。
 メスティアからトビリシに向かうバスは8時に出発予定で、なんとトビリシに着くのは19時の予定だった。とんでもない距離だ。夜行バスにするべきである(かつてはズグディディとトビリシを結ぶ夜行列車があったようなのだが、コロナ後になくなってしまったらしい)。
 まだ夜が明けていない時間だったのであたりは真っ

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ジョージア、天国に一番近い国(10)ずっと生きていなかった【ウシュグリ、メスティア】

ジョージア、天国に一番近い国(10)ずっと生きていなかった【ウシュグリ、メスティア】

 1月4日。9日目。夜明け前に(とはいっても7時台だ)起床した。雪は昨晩から愚直に降り続いていたみたいだった。朝日は到底みられそうになかったけれど、白んでいく空はどうにか見たくて、しこたま着込んで外に出た。降りたての雪が宿の前の細い道にすっかり積み上がっていて、どうにも進みようがない感じだった。

 宿のすぐ近くに小高い丘のようなものがあり、ひときわ大きな復讐の塔が煌々とライトアップされていた。私

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ジョージア、天国に一番近い国(9)マルシュルートカの功罪、小さな小さな秘密の村【ウシュグリ】

ジョージア、天国に一番近い国(9)マルシュルートカの功罪、小さな小さな秘密の村【ウシュグリ】

 1月3日。8日目。今思い返してもとんでもない日だった。
 この日はクタイシからマルシュでメスティアに向かう予定だったので、クタイシに到着した際、バスターミナルでクタイシからメスティアに向かうマルシュの時刻を聞いていた。事前のインターネット情報では、8時だとか10時だとか諸説あったのだが、2024年1月時点では、9時に出発予定ということだった。クタイシからメスティアに向かうマルシュは1日1本しかな

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ジョージア、天国に一番近い国(8)珍道中、開幕【クタイシ】

ジョージア、天国に一番近い国(8)珍道中、開幕【クタイシ】

 1月2日、7日目。旅も後半である。
 この日はクタイシ観光だ。前日に予約していた通り、朝9:00にタクシーが到着。案の定英語は話せないけれど、メディコがしっかり通訳してくれたのでかなり助かった。ハットリさんと一緒に乗り込む。
 まず向かったのは、山奥にあるゲラティ修道院だ。一度は世界遺産に登録されたこともある、かなり古い修道院で、ぼろぼろのフレスコ画が魅力的だったので生で見てみたかったのだ。

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ジョージア、天国に一番近い国(7)新年の洗礼、滑り込みサンセット【ゴリ、クタイシ】

ジョージア、天国に一番近い国(7)新年の洗礼、滑り込みサンセット【ゴリ、クタイシ】

 最近、旅行記がちょっと雑になってきている気がする。反省である。しかし旅行記、どの程度基礎情報を交えて書くかが結構難しい。もっと丁寧に説明したい気もするし、あまり説明が長くてもくどい気がするし、現地で得ていない情報をわざわざ調べて書くのも、なんだかちょっと感覚に合わない気もする。日々試行錯誤だ。

 さて、気を取り直して1月1日。新年である。あけましておめでとう。この日はジョージア西部に向けて移動

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ジョージア、天国に一番近い国(6)人生のベストはいくつになっても更新できる【ムツヘタ、トビリシ】

ジョージア、天国に一番近い国(6)人生のベストはいくつになっても更新できる【ムツヘタ、トビリシ】

 12月31日、5日目。大晦日(全然実感ない)。この日は、ムツヘタに行くことにしていた。ムツヘタは、トビリシから一番近い世界遺産の街で、日本でいえば京都みたいな位置づけだ。Didube駅からマルシュが頻発しており、15ラリ程度で行ける。一方、ムツヘタ近郊に2か所ほど大きい教会があり、これらにアクセスする場合はタクシーを使う必要があった。

 Didube駅に到着して、ムツヘタ行きのマルシュの場所を

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ジョージア、天国に一番近い国(5)朝日鑑賞、行き当たりばったり雪原滑走、ラーメン忘年会【グダウリ、トビリシ】

ジョージア、天国に一番近い国(5)朝日鑑賞、行き当たりばったり雪原滑走、ラーメン忘年会【グダウリ、トビリシ】

 12月30日、4日目。7時ごろのアラーム音で目を覚ます。嘔吐と腹痛の夜を超え、知らない間に眠っていた。寝られてよかった。朝日を見るために目覚ましをかけていたのだ。
 自分の体調がどうなっているのかがまったくわからず、ベッドの中でどうしようかとさすがに迷ったが、どうしても朝日は見ておきたかった。のっそりとベッドから抜け出す。スノボのウェアに分厚いヒートテック、背中にはホッカイロと、これ以上ないくら

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ジョージア、天国に一番近い国(4)今日だけはアンチタクシーで【カズベキ】

ジョージア、天国に一番近い国(4)今日だけはアンチタクシーで【カズベキ】

 12月29日、3日目。昨晩はすっかり遅くなってしまったが、この日はトビリシより北部に位置する都市、カズベキに行くことにしていた。
 カズベキ――正確にはステパンツミンダという――は、標高5,000mを超えるジョージアで3番目に標高の高いカズベキ山に隣接する都市だ。カズベキのハイライトは、標高2,000m以上の地点に位置し、「天国に一番近い教会」と称される、ゲルゲティ教会である。人々が信仰し集う場

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