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ジョージア、天国に一番近い国(8)珍道中、開幕【クタイシ】

 1月2日、7日目。旅も後半である。
 この日はクタイシ観光だ。前日に予約していた通り、朝9:00にタクシーが到着。案の定英語は話せないけれど、メディコがしっかり通訳してくれたのでかなり助かった。ハットリさんと一緒に乗り込む。
 まず向かったのは、山奥にあるゲラティ修道院だ。一度は世界遺産に登録されたこともある、かなり古い修道院で、ぼろぼろのフレスコ画が魅力的だったので生で見てみたかったのだ。

 到着すると、なんと扉が閉まっていた。まさかクローズか?ゴリの恐怖、再来である。なんとかならないかとそのあたりをうろつくと、奇跡的に人影を発見。ドライバーが声をかけてくれ、入ることに成功した。ラッキーだ。
 塀に囲まれた敷地の中に一歩入ると、青々とした芝生があり、大小さまざまな大聖堂や教会が立ち並んでいた。どの建物も、屋根のタイルがエメラルドグリーンでかわいらしい。大聖堂のフレスコ画は評判たがわず実に見事で、少し色あせた雰囲気がかえって味わい深かった。残念ながら修復工事中で、足場がかけられていたため、完全な姿はわからなかったが、暗がりのフレスコ画が美しかった。
 小規模な教会もいくつかあったが、中を見ることができたのは大聖堂だけだった。修復中だからなのか、新年だったからなのかはわからない。

宿からの朝焼け
修繕中

 次に訪れたモツァメタ修道院は、山間部の緑が美しく映える小さな教会だった。ひっそりと静かにたたずむその姿は、深窓の令嬢といった雰囲気だった。鈴をつけた牛がのんびりと闊歩していた。(なぜ)

洞窟住居群らしきもの
うし

 山間の修道院を無事制覇し、ちょうどお昼の時間に近づいていた。ハットリさんはジョージア料理の開拓に関心の高い人で、クタイシでは「ケバブ」が有名なんだといってお店を決めてくれた。ありがたい。
 クタイシの有名店というそのお店は、メニューは肉・パン・ビール・ウォッカしかなく、立ち席のみというかなり武骨な仕様だった。すごくいい。明らかにビールが似合いそうな肉だったので、朝ごはんを食べておらずお腹はペコペコだったが、ビール付きで注文した。待っている間に、狭い店内だったのもあり、向かい側にいたジョージア人と目が合った。会釈すると、すぐに話しかけられ、あれよあれよという間にハットリさんごと一緒に飲む展開に。ハットリさん、ごめん。
 彼らは当然のように私たちにウォッカを注ぎ、威勢よく「ガウマルジョス!」(※ジョージア語で「乾杯」の意)とグラスを交わした。朝のすきっ腹にウォッカを流し込む。胃袋の隅々まで、かっと熱くなるのを感じた。
 ケバブがきてからも、度々ジョージア人たちから愛のある「ガウマルジョス」をかまされ、私とハットリさんはべろべろになった。まだ午前なのに。

1日の最初の食事がウォッカなのはさすがにご機嫌すぎる

 我々は顔を真っ赤にしながら退店し、クタイシの街を散策した。もう午後はクタイシの街中を歩く以外に予定はなかったので、地図を見ずに適当に歩いていると、ジョージア人の墓地に迷い込んだ。ジョージア人のお墓はみんなリアルな肖像画が描かれていて興味深い。
 お墓に囲まれた教会の前にベンチがあり、一息つく。温かな日差しが私たちの体を包み込んだ。これはやばい、気持ちいい……。我々は気づくと無防備に居眠りをしていたのであった。著しい危機感の欠如である。クタイシの治安が良すぎるのもある。

チュルチヘラ ジョージアのお菓子です
ナッツ多い
壁画
個性的すぎる墓
お世話になった教会
あれ……ベンチに光るものが………
驚くべきことに昼寝したベンチにスマホまで忘れたのであった 日本でも奇跡のレベル


 1時間ほど昼寝をかまし、目を覚ました。教会効果か、何も盗られていなかった。酔いも冷めてきたので、散策を再開。
 酔いがさめかけるとコーヒーが飲みたくなるのはなぜなんだろうか?ハットリさんと二人でカフェを探してさ迷い歩いた。
 町中にあるホテルの1階に、ガラス張りで気持ちの良いカフェを発見したので入店。そのまま、ハットリさんの今後の旅程を勝手にプランニングしつつ、女子高生のようにコーヒーとスイーツでグタグタした。

ジョージアはエスプレッソ
量少なくガツっと苦いのでクセになる
シェアして食べたメレンゲ
ハットリさんは私より女子なのでやべー色のソーダ飲んでた


 私は、次の日クタイシからメスティアというジョージア北西部の山間部に向かうつもりだった。メスティアの近くにある、ウシュグリという、ヨーロッパでもっとも標高が高いところに位置する世界遺産の村に行くことが目的だ。クタイシからメスティアはマルシュがあるが、メスティアからウシュグリまでのマルシュはなぜか日帰りしかない。宿泊したければタクシーを使うほかなく、当然そうしたタクシーは高額である。
 私は試しにハットリさんにメスティアとウシュグリをプレゼンしてみた。ハットリさんは、このままクタイシで沈没するか(旅人界隈では、一つの都市にはまって動けなくなることを「沈没」という)、暖かいバトゥミに行くか、はたまたメスティアか、案の定グラグラだった。
 誤解を恐れずに言えば、旅先で会うそこそこ年上の独り身の男性は、少し仲良くなると恋愛の色を孕んでしまうことが往々にしてある。その点、ハットリさんは一日中一緒にいてもそういう気配が微塵もなく、シンプルに1人の大人として、旅先で会った友人として接されていることが明らかな感覚としてあり、一緒に旅をするのは結構楽しそうだった。

 夕方が近づいてきたので散策を再開。クタイシの街中の観光スポットをいくつかまわり、前日に訪れたバグラディ教会を再訪した(ハットリさんが行っていなかったので、なんとしても見せてあげたかったのだ)。何度来ても気持ちのいい場所だ。
 バグラディ大聖堂は、かつて世界遺産に指定されていたのを、勝手に修復してしまったので世界遺産から除外されてしまった場所だ。前日に来たときは気づかなかったのだが、明らかに修復された場所だけが近代的で笑ってしまった。もうちょっとテイストを合わせるとかなんかあるだろう。
 大聖堂の敷地内にはジョージアワインの醸造跡もあった。世界最古のワイン製法といわれるジョージアワインは、土で焼いた甕を土中に埋め、中にブドウを入れて作る。理屈は知っていたが、実際に地面に埋め込まれた甕を見るのは面白かった。

観光スポット的なところもきっちりいく
けどその足元にあるローカルエリアに結局惹かれてしまう
盛りだくさん
絶対その先にフィットネスジムはないと思う
大聖堂の裏側から
ワインの壺跡地
修復のセンスイカれてるな
何で昨日気づかなかったんだろう

 さすがに歩き疲れたので、タクシーでゲストハウスに帰る。
 ディナーはすっかり準備万端だったので、カトラリーを運んだりしていたら、チャイムが鳴った。現れたのは、なんと日本人女性だった。

 その日本人女性――マナミさんは、実は前日メディコがテレビ電話をしていて、一瞬話をしたのだが、そのときは普通に日本に住んでいる常連さんだと思っていた。まさかクタイシに住んでいるとは。
 マナミさんは、息子さんの英語教育の為にジョージアに移住したのだそうだ。詳細は割愛するが、話を聞けば聞くほどアクティブな女性で、とっても素敵な方だった。ジョージア語講座に始まって、在留パスをとるのがとんでもなく大変な話とか、学校に通わせる方法とか、船便だと荷物を届けるのが意外と安い話とか、アルメニアは1日で帰ってこられる話とか、家の借り方や家賃の相場観とか、とにかくいろんな話を聞いた。「移住できそう感」が留まるところを知らないなと思った。
 そして、これは衝撃的だったのだが、マナミさんとインスタグラムの連絡先を交換したところ、共通の友達が一人いた。それがなんと、モロッコで仲良くなったとあるモロッコ人、ハリドゥだったのだ!世界があまりに狭すぎて、私は震えあがった。まさかジョージアで、モロッコの友達の友達と会うなんてことが起こるとは。

【参考】ハリドゥ搭乗回

 話が盛り上がりすぎて、気づけば日付を超えそうになっていた。そろそろ寝なければならない。
 マナミさんと別れ、ゲストルームに向かう。
「そういえばハットリさん、明日の予定はどうしますか?」
「考えるのめんどくさくなってきた。メスティア、一緒に行っていい?」

 かくして、ハットリさん(アラフィフ営業マン)と私(アラサーコンサル)の珍道中がめでたく幕を開けたのであった。

おいしかったなあ

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