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ジョージア、天国に一番近い国(7)新年の洗礼、滑り込みサンセット【ゴリ、クタイシ】

 最近、旅行記がちょっと雑になってきている気がする。反省である。しかし旅行記、どの程度基礎情報を交えて書くかが結構難しい。もっと丁寧に説明したい気もするし、あまり説明が長くてもくどい気がするし、現地で得ていない情報をわざわざ調べて書くのも、なんだかちょっと感覚に合わない気もする。日々試行錯誤だ。

 さて、気を取り直して1月1日。新年である。あけましておめでとう。この日はジョージア西部に向けて移動する。途中、ゴリに立ち寄って、クタイシというジョージア第二の都市に宿泊するつもりだった。
 ゴリには、トビリシから電車か、Didube駅からマルシュで行く。マルシュの方が楽だが、新年早々マルシュがどのくらい機能しているのかわからなかったし、電車にも乗ってみたかったので、まずは中央駅に向かう地下鉄に乗った。……つもりだったのだが、なぜか逆方面に乗ってしまったのだった。でかいバックパックをもって途方に暮れる。普通に電車には間に合わない時間だった。予約していなくてよかった。
 やむなく、いつものDidube駅にりこの日はバックパックを丸ごと持ち出していて、重さ約10キロの荷物と一緒の旅路になっており、すでにクタクタだった。
 Didube駅に着くと、さすがにいつもの露店は閉まっていたが、呼び込みの声は平常運転だった。新年でもちゃんとマルシュは動いている。これは貴重な情報なのではないかと思うので強調させていただく。

 ゴリに向かうマルシュは、定時運行ではなく、満員になったら出発するタイプのマルシュだ。新年でも思った以上に順調に乗客が集まり、すぐに出発となった。全体的にマルシュ運がいい。7ラリ(350円)。安すぎ。
 ゴリには確か1時間ほどで到着した。市街地に入り、乗客が適当な場所でどんどん降りていく。どうやら決まった発着場所があるのではなく、各々が降りたいところで降りているらしい。観光客らしき顔付きは私以外にいなかった。
 ドライバーから「どこでおりたい?」と聞かれたので、とりあえずタクシーの発着場で降ろしてくれと伝えた。ゴリは、スターリンの生誕地で、政治的にはかなり複雑な場所なのだが、一応スターリン博物館なんかが観光スポットとして挙げられている。正直言って私は歴史にほとんど興味がないので、ゴリでしか食べられないと噂の「ゴリ風カツレツ」を食べること、ゴリ近郊にある「ウプリツィヘ洞窟住居群」に行くこと、時間があれば、ゴリ中心部の高台にあるゴリ城と、少し離れた山の上にあるゴリ・ジュワリという教会に訪れたいと思っていた。ウプリツィヘには、タクシーで向かうしか手がないので、タクシーの発着場に連れて行ってもらおうと思ったわけだ。

 賢明な読者のみなさまは予感したかと思うが、案の定マルシュのドライバーは私以外の乗客を降ろした後、私の予定を聞いてきた。ウプリツィヘに行きたいんだというと、自分が連れていくと言い出した。出た。
 金額は70ラリ。まあまあ高い。けど、そもそも日本円にしたら大した金額じゃないし、それほど貧乏旅なわけではないし、新年でタクシーの台数が少ない中で、もう一度他のドライバーと交渉しなおすのも面倒だったので、そのままお願いすることにした。新年早々働いててかわいそうだし。

 ウプリツィヘには車で30分くらいだった。到着すると、1台も車が止まっていない。まさか……嫌な予感がした。
 予感は的中。なんと、新年だけはクローズだったのだ。行けないとなるとなおさら行きたくなるのが人情。これはめちゃくちゃ悔しかった。警備員にダメ押しでお願いしてみたり、トイレに行くといって遠くから眺めてみたりしたけれど、残念ながら壁は高かった。

トイレ行ったついでにうっすらと眺めた洞窟群 マジ悔しかった

 意気消沈しながらゴリ・ジュワリ教会へ。ゴリの街を一望できるその教会はとても気持ちが良くて、ちょっとだけ元気になった(相当落ち込んでた)。
 ドライバーから、新年だから飲食店もほとんど営業していないし、トビリシに戻ったほうがいいといわれた。確かにそうかもしれない。ゴリからクタイシには、夕方くらいの電車で向かうつもりだったのだが、このままではかなりの時間を屋外で暇して過ごさないといけなくなってしまう。じゃあマルシュで行くかというと、ゴリとクタイシは、地図上ではルート上にあるのだが、高速道路の関係で、車でアクセスするにはトビリシから行った方が早いらしく、マルシュも運行していないのだそうだ。悔しいが、ドライバーの主張はもっともだった。
 ドライバーはさらに言葉をつづけた。新年でタクシーが少ないし、トビリシへのマルシュも人が集まらないかもしれない。自分はこの後トビリシまで戻るから、乗せて行ってやろうか。なるほど、主張はご尤もである。
 ところが値段を聞くと、70ラリだというのだ。
 時間的にはもはやかなりの余裕が生まれた今、ここで70ラリ払って急いでトビリシに戻るメリットは全くないので、さすがにお断りした。
 ドライバーはちょっと不機嫌になりつつ、私をゴリ・ジュワリ教会からゴリ中心部に送り届けてくれた。

ゴリのまち ゴリ城が見える
ゴリ・ジワリ教会


 私は巨大なバックパックと一緒に、閑散とした市街地で立ち尽くした。さて、どうしたものか。
 ひとまず、徒歩で見ることができそうなゴリ城にいってみることにした。あんまりにもバックパックが重かったので、その辺の茂みに隠して身軽に散策を開始(人のいなさ加減、バックパックは最悪なくても困らないことなど、総合的に考えて行ったキチガイの判断なので絶対マネしないでください)。
 ゴリ城を散策した後、どうしてもカツレツが諦められず、スターリン博物館の周辺なら営業している店もあるかもしれないと歩いてみたが、やっぱり営業している店は一つもみあたらなかった。非常に無念である。大晦日は結構営業していたけど、やっぱり新年はみんな休みたいのだなあ。

しっかり目のきれいな建物が多め
ゴリ城
謎の彫刻


 これ以上ゴリにいてもすることがないので、トビリシに戻ることにした。バックパックを無事回収し、マルシュ(というより乗合タクシーという感じだが)が待機している場所に向かう。
 数時間待つことも覚悟していたが、意外なほどあっさりと乗客が集まった(70ラリ払わなくて本当によかった)。待っている間、ダメもとで、「近くにカツレツが食べられるお店がないか」と聞いたが、やっぱりないということだった。諦めるしかない。

 さて、乗ってしまえばあっという間にトビリシだ。行きと同じくDidube駅に到着。朝と違っていくつか露店も開いていたので、ランチがてらハチャプリを買い、野菜が足りないので生のトマトとリンゴを丸ごと買った。当然ながらナイフはないので、道端に座り、ペットボトルの水で軽く流して丸ごとかぶりつく。まあまあの味。

かじりつき
かじりつき

 クタイシに向かうマルシュは、需要が多いのだろう、大型バスだった。
 ひた走ること3時間半(途中一か所で休憩があった)。17:30頃、クタイシに到着した。
 この時間、ひょっとして夕日鑑賞に間に合うのでは?

 クタイシは、トビリシに比べてかなり温暖な都市だ。街自体に世界遺産はないが、居住人口が多く、トビリシよりものんびりとした雰囲気が漂っている。このクタイシで一番大きな教会が「バグラディ教会」である。
 バグラディ教会は、他の多くの教会と同じように、街の高台にあり、夕日鑑賞にうってつけなのだ。マルシュを降りてすぐにタクシーを捕まえ、教会に向かった。

 10分もかからず到着。芝生に囲まれた丘の上に位置するバグラディ教会は、人々が芝生の上で寝転んだり談笑したり、まさに憩いの場という感じがした。トビリシの教会よりもかなり敷地に余裕があって居心地がよかった。私はかなりクタイシを気に入っている自分に気づいた。

バグラディ!すてきだ
タクシーのドライバーがお菓子をくれた。
ジョージアでは新年にお菓子をあげる風習があるんだって
内装
立ち入るべからず
夕暮れ

 沈む太陽を見届けて、その日の宿に向かう。教会からは2キロくらいの距離だった。荷物もあったしタクシーを使ってもよかったのだが、その日は一日中移動ばかりでほとんど歩けていなかったし、街を見てみたい気持ちもあったので、歩いて向かうことに。
 夜のクタイシはあちこちに新年やらクリスマスやらを祝うイルミネーションがあふれており、一方で騒がしい飲み屋があるわけでもなく、落ち着いていていい雰囲気だった。

鎖橋
ねこ
かなり重厚
イベント的公園
コルキスの噴水
クリスマスツリーと新年を同時に祝えるのがジョージア

 2キロ歩きぬいて(まさに歩きぬいて)ようやく宿に到着。この日は絶対に泊まってみたい宿だった。名前は「Medico & Slico’s Guest House」。メディコ(妻)とスリコ(夫)という名前の2人の老夫婦が営業するゲストハウスだ。ゲストハウスといいつつメディコとスリコのおうちにホームステイするという感じである。
 何がすごいって、このゲストハウス、お願いすると食事を出してくれるのだが、そのご飯がまさにジョージアの家庭料理で外では食べられないものが出てくるし、とにかく飲み芸がすごいのだ。ありとあらゆる飲み方でスリコがワインを飲んでくれ、宿泊客は当然のように一緒に飲むことになる。また、彼が日本人を大好きすぎるあまり、全然言語が通じなくてものすごく仲良くなれる(らしい)。

 チャイムを鳴らすと、スリコが出迎えに来てくれた。日本人が一人泊っているそうだ。ここでも日本人!ジョージア、意外と日本人に会うな。
 リビングに入ると、先客ーーハットリさんが座っていた。到着したのは19時くらいだったのだが、すでに食卓の料理は一通り出ている雰囲気。
 ハットリさんいわく、15時に到着してから、いままでずっと飲んでいたらしい。面白すぎる。英語すらあまり話せないスリコとそこまで飲み続けることも普通に面白いし、断ることもできるはずなのにそこで飲み続けることを選ぶハットリさんがすごくいいなと思った。明らかにかなりの年上であったが、仲良くなれそうだと直感的に思った。

美味しかったけど相当食べかけの状態でスタート
注がれたら下に置けない角型のグラスで飲まされまくるハットリさん
赤ワインと白ワインを同時に飲み始めるスリコ


 ハットリさんは、東京で実に普通の営業をしているサラリーマンで、長期休暇のたびにこうしてふらりと旅に出ているという。私と同じ貴重なサラリーマントラベラーだ。私と彼で違うのは、限られた日数になるので、自由とはいえ結構詰め込んだ旅になりやすい私に対し、15時に着いてものんびり宴会をしてしまうほどのんびりな旅を選ぶところだった。案の定、次の日の予定も決めていないといって笑っていた。
 実は、クタイシからタクシーで行ける少し山奥のエリアに、2か所ほど行きたい教会があった。1人だったらクタイシの散策でも十分と思っていたが、2人なら、タクシーも安く済むかもしれない。試しに誘ってみると、二つ返事でOKだった。身軽なタイプの旅人、助かる~。

 英語が話せるメディコにお願いし、タクシーを手配してもらう。
 ゲストルームのふかふかの毛布にくるまり、満足して眠りについた。今日も楽しい一日だったな。


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