熱と氷と人とナカミ 私的・川上未映子論
バケツに入った氷水を頭からかぶる。
次に氷水をかぶる人を指名する。
指名された人は24時間以内にチャレンジする。
チャレンジしたくない場合は100ドル寄付する。
チャレンジ後に寄付をしてもいい。
すべてはSNSへ投稿され、リレー方式で繋がってゆく。
9年前の夏前から夏に流行ったいわゆる「アイス・バケツ・チャレンジ」。
アメリカで始まったそれはチャリティー活動、
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の支援拡大を目的としたものだった。
世界でも日本でも芸能人や著名人(某企業とか)が参加しニュースなどでも取り上げられた。
流行語候補にもなった。わたしは呑み屋で知った。
当時、学生じゃないのに住んでいた学生街の
アメリカンカフェの常連や近くの呑み屋の常連たちがやりだした。
まだ広く浸透する前にそれが近づいてきたというかやりだしたというか流行りだしたのだ。
陽キャというか今で言うところのパリピ系の人たちの間で始まった。
今以上に昼夜逆転気味の生活を送っていたわたしはテレビなどほぼ観ておらず、SNSもブログくらいしか身近じゃなく、突然チャレンジの様子を、
それもかなりの盛り上がりと熱の中で知ることとなる。
見知った男どもが次々と夜中や明け方に氷水をかぶる。
そしてそれは近づいてくる。
ぎゃーぎゃー言っている男衆を眺めながらカフェのバイトの女の子が言った。
「ねえさん! どうします!?」 え?! 「これ結構早く回ってきそうじゃないですか?!」
うん、来ますね。これ、もう目の前まで来とるよね。
「わたし、回ってきたら回していいですか?!」(まじか)
「回しますよ? 指名しますよ?」
うん、いいよ! 全然いいよ! むしろありがとうおもろいなー!!
「マジこわっ。おもろいですね!」 ねー!
なぜこんなことをこんなかなり前すぎることを思い出したのだろう。
今日わたしがここに書こうとしていたのは「川上未映子はヤバい」だ。
「春から続いてた私的・空前絶後の川上未映子ブーム」のことを書きたい。
春頃、尊敬する粋人(の、ひとり)からひょんなことから薦められた。
きっかけはわたしがその頃読んでいたノンフィクションだった。
傷をかかえた人かかえさせられた人の言葉を聞いてきた2人の対談本。
加害者や言葉を奪った者への怒りと、許してはいけないこと。
だからこそその被害者に「聞く」ことと方法、さらには、加害者にも「聞く」ことと方法。
中立の立場とは何か、共に「言葉をさがす」こととは?
熱冷めぬまま書いた感想に、「偶然だけれど今読んでいる本も?」と教えていただいたのが、『ヘヴン』だ。
そこから、彼女の本を何冊か手に取った。どれにも痺れ、震えるような気持ちになり、打ちのめされた。
〝人間って〟 〝人間とは〟
哲学的とか哲学そのもの。
そう言ってしまうとそれで終わる。
あれだけ打ちのめされた作品たちをそれで終えてはいけないなとも思う。
そもそも哲学の人だ。
哲学と、銭、「生きていくこと」の人だ。
ああ、これでも終わってしまう。
リズムのひとだ。音楽のひと(だった?)。大阪のひとだ。春樹なひとだ。
ああ、終わってもいいかもしれない。
終わって、また別の本や新刊を待とう。
やっぱりネタバレは好きじゃないし。
うわー冷たぁー。
無理。死ぬ。マジころすぞおまえ。
次は誰々にまわしまーす。
ウソやんおまえ嫌やほんま嫌やねんけど。
うえーい。わー。きゃー。
お湯持ってきてくれ!
タオル! タオル!
さむ! 死ぬ! 風呂!
お前ちょっ逃げたやろ、もっとちゃんとかぶれや~。
いや限界やって!
ちょ~!
とりあえず、うえーい、乾杯~! わー!!!
世界でも日本でも芸能人や著名人(某企業とか)が参加しニュースなどでも取り上げられた。
筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の支援拡大を目的としたもの。
当時わたしはそれを聞いて知った。SNSでも観た(はず)。
皆も知っていたはず。
でもそれらを忘れるというか忘れるほどあの場の熱で盛り上がっていたひとは多かったんじゃないか。
実際に支援先のことを調べた人はどれだけ居て、
そのために水をかぶろうかぶったという人はどれだけ居て?
てゆーか、自ら自分の頭の上にぜったいに冷たいとわかっている氷の入った水を皆がみている中みている前でぶっかぶる前や直前やそのときに考えたり願ったり祈ったりしている人はどれだけで、
かぶった後にも考えたり願ったりしている人はどれだけ?
そもそも論として、危ない。体に。夏前とか夏だとしてもそれでも。
特に訓練(という言葉は違うかもだが)などもしてない皆が、目の前にいる皆やネットの向こう側に居る知らない皆の前で高揚感MAXの中一発勝負でチャレンジをする。
その尊さと愚かさと愚かさと尊さ。って、それすら誰が決めた思った。
いや、別にええわ。結果的に別にええやん。よくないかも、やが。
広まった(やろう)し。広まったみたいやし。
賛否両論を含むいろんな意見や考えに繋がった。
そしてなにより、今知った(笑、苦笑)ことに、
集まった資金で立ち上げられた研究プロジェクトが結果を出したり、
チャレンジたちで集まった寄付金は、ほんとうに活用されたのだそうだ。
チャレンジはわたしには回ってこなかった。
回ってきたら絶対やろうとちょっと楽しみにしていた、
正直めちゃくちゃまじで怖かった、でも、めっちゃドキドキとわくわくもあった。
気持ちと気合いと根性だけでは生きてきたが、身体ってか体力にはあまり自信はない怖い。
でも、だから、でも、とても。なのに。
件のカフェバイトの女の子は既婚者の店長とそういう仲で、
店長は彼女を指名したのかしなかったのかは忘れた。
いや、だからでも、でもだから、回されなかった回さなかった。
界隈でブームはすぐに終わった、国内や国外でのブームもそう長くは続かなかったように記憶している。
◆◆◆
以下は、すこしだけ自己紹介 。
よろしければお付き合い下さい。
構成作家/ライター/コラム・エッセイスト
中村桃子(桃花舞台)と申します。
大衆芸能、
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。
普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。
劇場が好き。人間に興味が尽きません。
舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。
某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
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lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中です。
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