イギリスの小さなパン『バン』
イギリスは、ほかのヨーロッパ諸国と同様にパン食文化。古くは、スペルト小麦、ライ麦、オーツ麦などの栽培をして、収穫、製粉。独自のオーブンでパンを焼いて食べていました。
オーブンがない時代には、
熱した石、のちには鉄板で両面を焼く平たいパン。
→鉄板の上にクレイで作ったドーム状の蓋をしてその中で焼くパン。
→薪オーブンで焼くふんわりとしたパン。
と、調理器具とともにその形は変化していきました。
さらに、ジョージ王朝時代(1714-1830)になるころには、チェルシーバン、バースバンなど
小さな丸いパン→『バン』/複数形『バンズ』
と呼ばれる小ぶりのパンが人気となります。
今日は、そのあたりのお話をしていこうと思います!
バン『Bun』とは、何なのか?
イーストによって膨らませて焼くパンのほとんどは、粉とイースト、水をこねて焼く食事用のパンだったと思います。
それが、時代ともに薪オーブンが普及して、材料に卵やバター、砂糖が加えられるお菓子風のパンが登場。パンにお菓子の要素が含まれてきます。
バンというのは、そのような背景の中、
イースト入りの生地が少しお菓子風になったもの。
逆にとらえれば
ケーキが少しだけパン風になった。
と、考えるのが自然の流れでしょう。
それまで、粉と水、イーストで作られていたパンに
砂糖、卵、バターなどが加えられるようになり、朝食用のバンが登場したというわけです。
祝い菓子としてうまれた
ホット・クロス・バンズの歴史は古く、チューダー朝ぐらいまでさかのぼります。その起源は、12世紀にセント・オールバンズ修道院の修道士たちが十文字を入れて焼いたパン(オールバン・バン)を、グッドフライデーに市民に施した。と言われています。その後、ほかの祝い菓子と同様にドライフルーツやスパイスが加えられるようになりました。当時、スパイスとドライフルーツの入った食べ物は、主に祝い菓子で特別な時にしか食べられない食材。地域ごとにビスケットやお菓子でもスパイスとドライフルーツ入りのものはいろいろとありました。
エリザベス女王が統治していた時代のイングランドでは、ホット・クロス・バンズを含め、スパイスやドライフルーツ入りのパンやお菓子はお葬式やクリスマス、グッドフライデーなどにしか食べられませんでした。
甘くておいしい。嗜好品としてのバンズが生まれる。
チェルシー・バンズは、今でもパン屋さんでは見かけるお菓子パン。
ドライフルーツとスパイス入り。
シナモンロール風な渦巻き状。
甘い。
お茶と一緒に食べたくなるお菓子パンです。
このバンズは、1700年代のロンドン。今でも高級エリアとしてしられるスローン・スクエアにあった人気パン屋さん『チェルシー・バン・ハウス』にて販売されていました。
サロン風の豪華なお店の顧客には、ジョージ3世の妻、シャーロット王妃も含まれていたとか。グッド・フライデーには、ホット・クロス・バンズを販売し大人気だったそうです。
バースバンとサリーランは朝食用だった
バースの郷土料理「バースバン」と「サリーラン」は、朝食用のパン、もしくはお茶の時間に食べるパンとして人気となりました。
この二つのお菓子パンの由来には、それぞれに伝説のようなお話が伝えられていますが、近年になってからその真偽を唱える食物研究家もいます。特にサリーランのお話は、1900年代になるまでその史実が見つかっておらず、商業用の話題作りに生まれた話ではないか?と、考える人もいるようです。
その由来についてははっきりとしていませんが、英国の食物史からみてもある時期に、
バースケーキ→バースバン
イースト入りのパン→サリーラン
へと変化したと考えるのが妥当でしょう。
オーブンが普及して、
パンの材料にバター、卵、砂糖が使えるぐらい豊かな人々が増えてきたことによって、朝食に食べる柔らかくてほんのり甘いパンが上流/中流階級の人達に広がり、バースの郷土食として伝えられていると私は考えています。
そして今では、バースで人気のあるティールームで食べられるお菓子パンになったというお話でした。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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