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映画雑文

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俳優・坂本龍一の軌跡

俳優・坂本龍一の軌跡

 坂本龍一の50年近いキャリアの中でも、特筆すべき項目のひとつが、『ラストエンペラー』によって第60回アカデミー賞作曲賞を受賞したことだろう。
 エンニオ・モリコーネをはじめとする映画音楽の巨匠たちが、監督のベルナルド・ベルトルッチへ、我こそはとアピールするなかで、坂本が音楽も手がけることが決まったのは、撮影終了から半年後。ベルトルッチは当初、坂本を〈俳優〉として起用しただけだった。

 俳優・坂

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『獄門島』と「映画監督競作シリーズ われらの主役」

『獄門島』と「映画監督競作シリーズ われらの主役」

Blu-ray化された『獄門島』

 先ごろ『悪魔の手毬唄』(1977)と同日にBlu-rayがリリースされたのが、市川崑監督×石坂浩二主演の東宝金田一シリーズ第3弾『獄門島』(1977)。横溝正史最高傑作の二度目の映画化である。

 戦友が預かった手紙を、瀬戸内海の小島へ代理で持参した金田一耕助(石坂浩二)。島の二大勢力の一方である本鬼頭の娘たちが次々と殺されていく謎を追う本作は、原作の印象を損

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『悪魔の手毬唄』をBlu-rayで観る

『悪魔の手毬唄』をBlu-rayで観る

 遂に、遂に――市川崑監督×石坂浩二コンビによる東宝金田一シリーズのBlu-ray化が始まった。1月18日発売の『悪魔の手毬唄』『獄門島』に続いて、2月15日には『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』がリリースされる。
 と言いつつ、2006年にDVD-BOX「金田一耕助の事件匣」が発売されたときのような高揚感がないのは、BS、CS放送、配信でも使用された既存のHDマスターを使用したBlu-ray化らし

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崔洋一、幻の韓国映画『ス』

崔洋一、幻の韓国映画『ス』

 小さいながらも魅力あふれるアクション映画を撮っていた映画監督が、やがて大作を手がける巨匠になる。
 一見、けっこうな話に思えるが、そうなると監督自身が撮りたいと思っても、かつてのB級活劇を撮る機会は何かと難しい。2000年代に入り、『血と骨』(04年)、『カムイ外伝』(09年)など、大作が続いた崔洋一が、久々に原点回帰とも言うべきアクションに徹したのが『ス』である。

 日本で生まれ育ち、日本の

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映画監督 足立正生とは誰なのか?

映画監督 足立正生とは誰なのか?

 ここ半月ほど、ある映画監督の名前がクローズアップされている。安倍晋三元首相を暗殺した山上徹也容疑者をモデルに、事件までの軌跡を描いた『REVOLUTION+1』を監督した足立正生である。
 といっても、「誰?」という反応が大半なのは、映画ファンでも彼の名前を知る者は限られており、ましてや彼の映画を観た者となると、さらに少ないからである。つまりは、単なる無名の自称映画監督なのかと思いそうになるが、

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安倍晋三元首相暗殺犯を描く『REVOLUTION+1』が映す風景

安倍晋三元首相暗殺犯を描く『REVOLUTION+1』が映す風景

 これほど足立正生の映画が話題になったことがあっただろうか。36年ぶりの監督作『幽閉者 テロリスト』(2007)、その10年後に撮られた『断食芸人』(2016)が意外なほど受け入れられなかったことを思えば、新作の『REVOLUTION+1』は、ひょっとすると、1965年に足立を含む日大新映研の学生たちが自主製作した実験映画『鎖陰』(1963)が新宿文化で上映された時以来か、同じく新宿文化で上映され

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闇と魔術的リアリズムで描く『夜を走る』

闇と魔術的リアリズムで描く『夜を走る』

 昼間、会社に営業へ訪れていた姿を記憶する女性が、夜もかなり更けた時間に駅前で立ちすくんでいるのを、2人づれの男のうちの1人が見つける。男は声をかけようと連れの男に言い出し、かくして3人は酒席をともにすることになるが、結局、終電を逃すことになる。そこから単調な日常が崩れてゆく『夜を走る』は、世界が無数の変貌の可能性で醸成されていることを示唆する。

 郊外のスクラップ工場で働く秋本(足立智充)は、

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連合赤軍映画としての『鬼畜大宴会』

連合赤軍映画としての『鬼畜大宴会』

 国立映画アーカイブで、熊切和嘉監督の『鬼畜大宴会』を観た。フィルムで観るのは公開以来だから、24年ぶりか。
 知っているひとは読み飛ばしてほしいが、70 年代の左翼グループの崩壊を、残酷スプラッターを加味して撮られたこの映画は、大阪芸術大学映像学科映画コースの卒業制作であり、PFFの準グランプリ選出後に一般劇場公開されるという〈出世コース〉を歩んだ。

 久々に『鬼畜大宴会』を観て思ったのは、連

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『(秘)色情めす市場 4Kデジタル復元版』の衝撃

『(秘)色情めす市場 4Kデジタル復元版』の衝撃

 日活ロマンポルノの最高傑作が、奇跡のような美しい映像と音で甦った。
 昨年開催された第78回ヴェネツィア国際映画祭のクラシック部門に田中登監督の『(秘)色情めす市場 4Kデジタル復元版』が選出された。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って発表開催が延期となっていたが、同映画祭と主催団体を共にするクラシック作品専門の映画祭「CLASSICI FUORI MOSTRA2022」で上映が決定し、

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幻の『八つ墓村』1969

幻の『八つ墓村』1969

 数多く映像化されてきた横溝正史の作品のうち、最も繰り返し映像化されたのは『犬神家の一族』と『八つ墓村』である。今のところ、共に映画3回、テレビ7回というから、この2本ばかり映像化しているような印象を持つのも当然だろう。

 この2本が最初に映像化されたのは、片岡千恵蔵が金田一耕助を演じた東映のシリーズだが、共に原盤が現存しないと言われており、観ることが叶わない。もっとも、近年は修復技術が向上し、

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『まんが道』に出てくる映画ばかりを観ていた

『まんが道』に出てくる映画ばかりを観ていた

 藤子不二雄A先生の訃報を目にした途端、数々の作品が思い浮かんだり、学生の頃、小池一夫が講師を務める授業にゲストとして来られたことを思い出したりしたが、そこに〈満賀道雄の死〉を重ねたのは、自分だけではないと思う。
 半自伝漫画として描かれた『まんが道』は、藤子不二雄Aこと安孫子素雄をモデルにした満賀道雄と、藤子・F・不二雄こと藤本弘がモデルの才野茂が富山県高岡市の小学校で出会ってから、やがて上京し

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