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みつ
2021年12月7日 21:35
僕はタフでなければならないと思った。タフでありたいと願った。 タフであることは結局のところ必要十分な条件で、そうでなければこの世間をうまく切り抜けられないということを親指を咥え、幼児向けアニメを食い入るように見、悟った。 タフであるために、まず僕は身体を鍛錬することにする。 市営のジムに毎晩通う。市営ジムは三百円で二時間鍛えられる上、夜に至っては人はまばらであり、僕のような幼い男
2021年10月3日 22:25
こんなのってないじゃないかってことがあったんだ。結構前にね。 その日16時に僕らは駅で落ち合おうと約束したんだけど、女の子は10分遅れてやってきた。電話で「迷っちゃった、どこいるの」なんていうもんだから、僕は「今どこにいるの?何が見える?」 と尋ねる。「なんか真ん中に風船みたいなのが垂れてるの、中央改札なんてどこにあるの...。あ、あった!今改札出るね」なんて言
2021年8月31日 22:35
いつからだろうか、風鈴の音が室内に入らなくなってしまったのは。 いつからだろうか、打ち上げ花火に気がつかなくなってしまったのは。 いつからだろうか、蝉が啼くの声が耳に入らなくなってしまったのは。 それもこれも全てこの酷暑による気だるさからだろうか。それとも私から来るものによってなのか。 私は田舎にいた頃縁側に寝転びながら、セミの大合唱の中をかき分け風鈴の音に耳を傾け、花火が上がる
2021年8月16日 21:55
暗い木目調のバーカウンターで、マティーニに浮かぶオリーブがきらりと光る。暗がりなバーで私は1人マティーニと対峙している。カクテルグラスの細い足をそっと持ち、口に運ぶ。そして一口飲む、今日はそう簡単には酔えないような気がした。ネイルを確かめるとそれはやはり美しかったし、シルバーのリングとブレスレットはお互いに調和が取れている。少し派手すぎるかもしれないと思ったこの深紅のワンピース
2021年5月25日 15:34
昔々と言った方がいいのかもしれないのだけれど、ティーンな女の子たち、要するにある種の退屈に生きる女の子たちにとって''エモい''っていうのは非常に重要な感性であるのだと思う。誤解を恐れずにいうけれど、大抵のティーンは暇を持て余し退屈していると僕は考える。僕がティーンであった頃、見知らぬ大人に退屈だろうと言われたら腑煮え繰り返っていただろうが、やはりあの頃の僕は暇を持て余していた。退屈
2021年4月5日 19:19
ポップコーンを買った。田舎のロードサイドにドカンと居座るショッピングモールにあるカルディーで買った。自分で火を通してポンポン言わせるタイプのやつだ。レジの近くにあるちょっとした棚にあるものって、ついつい手に取ってしまう。ポップコーンはレジの真横に隊列を組んでいた。グットオールドデイズよろしく、牧歌的なアメリカを連想させるパッケージだ。 キッチンに立つ。気を引き締めなければならない。