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よりぬき伝奇さん

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これまでこのnoteに掲載した記事のうち、特におすすめの作品に関するものについて、よりぬいています。
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2020年3月の記事一覧

武内涼『不死鬼 源平妖乱』 超伝奇! 平安に跳梁する吸血鬼

武内涼『不死鬼 源平妖乱』 超伝奇! 平安に跳梁する吸血鬼

 いま最も内容の濃い時代伝奇小説を描く作家の一人である武内涼。その作者初の平安もの――そして吸血鬼ものであります。平安末期の京の闇に潜む血吸鬼「殺生鬼」と、彼らに大切な人々を奪われた静と源義経、二人の主人公が死闘を繰り広げる、直球ど真ん中の超伝奇活劇です。

 古代に遙かスキタイで生まれ、大陸を渡り日本に至った、血を吸う者たち――彼らは人と同じような暮らしを送り人は殺さない不殺生鬼と、人の血しか飲

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赤神諒『神遊の城』 甲賀鈎の陣に翔る驚天動地の忍法、そして自由と秩序の物語

赤神諒『神遊の城』 甲賀鈎の陣に翔る驚天動地の忍法、そして自由と秩序の物語

 大友家を題材とした作品を矢継ぎ早に送り出して斯界の注目を集めた赤神諒が、室町時代を舞台に、忍者を題材として描いたのが本作『神遊の城』――いわゆる甲賀鈎の陣を舞台としつつ、驚天動地の忍術を描いてみせた奇想天外な物語です。

 応仁の乱の混乱冷めやらぬ中、九代将軍義尚が六角高頼討伐のために近江に親征した長享の乱。大軍を率いた義尚の慢心、そしてそれと裏腹の諸将の志気の低下等により、勢力では遙かに勝るは

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佐々木匙『帝都つくもがたり』 面倒くさい二人が追う怪異の多様性

 面白い小説好きには要チェックの賞となった感のある角川文庫キャラクター小説大賞――その第4回に読者賞を受賞した本作は、昭和初期の帝都を舞台とした連作怪異譚。酒浸りで怖がりの文士と不人情な新聞記者のコンビが、怪談を求めて向かった先で怪異の数々の怪異にであうこととなります。果たしてその先にあるものとは……

 文士と言いつつもなかなか筆で食っていけず、酒浸りの日々を送る大久保の家にある日押しかけてきた

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大塚已愛『鬼憑き十兵衛』 少年復讐鬼とおかしな鬼の、直球ど真ん中時代伝奇小説

 日本ファンタジーノベル大賞受賞作にして直球ど真ん中の時代伝奇小説――松山主水の息子・十兵衛が美貌の鬼の力を借りて繰り広げる仇討ちが、やがて思いもよらぬ壮大かつ壮絶な妖戦へと展開していく、キャラ良しストーリー良しの快作が本作であります。

 寛永12年、傷を受けて療養中のところに闇討ちを受け殺された、細川忠利の剣術指南役・松山主水大吉。しかしその直後、下手人の浪人たちを次々と討ち果たしていく、獣じ

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安萬純一『滅びの掟 密室忍法帖』 忍法帖バトルからミステリへ 再構築の妙

安萬純一『滅びの掟 密室忍法帖』 忍法帖バトルからミステリへ 再構築の妙

 サブタイトルを見ただけで「これは!」と思わざるを得ない本作――ミステリ作家であり『忍者大戦 黒ノ巻』にも参戦した作者による、伊賀と甲賀の五対五のトーナメントバトルと、それと平行する奇怪な連続殺人を繋ぐ恐るべき謎を描く、時代伝奇忍者ミステリと言うべき力作です。

 時は島原の乱から数年後――伊賀に点在する忍びの里の一つ・木挽の里に、江戸の五代目服部半蔵からの使いが現れたことから、この物語は幕を開け

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辻真先『焼跡の二十面相』 時は昭和20年 少年探偵は未来へ走る

辻真先『焼跡の二十面相』 時は昭和20年 少年探偵は未来へ走る

 いまや遠い昔になってしまった感もある昭和。その昭和育ちの多くの方が親しんだであろう怪人二十面相が帰ってきました。焼け野原になった東京に再び現れた二十面相に対し、応召されていまだ帰国しない明智小五郎に代わって挑むのは、小林少年――名手が送る痛快なパスティーシュであります。

 昭和20年8月――敗戦の混乱冷めやらぬ中、それでも明日への希望を胸に、明智小五郎の留守を守って懸命に生きる小林少年。ある日

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東郷隆『邪馬台戦記 Ⅰ 闇の牛王』 確かな考証と豊かな発想で描く未知の世界

 博覧強記で知られる東郷隆の児童文学、しかも題材は邪馬台国――と、何とも気になることだらけの本作は、未だ混沌とした3世紀初頭の日本を舞台に、少年少女が奇怪な暴君に挑む姿を描く、ユニークで骨太なファンタジーであります。

 瀬戸内海沿岸の集落・ウクイ村を悩ませるクナ国の「徴税」。畿内を治める邪馬台国の女王・ヒミコに従わず、数年おきに近隣を襲うクナ国は、数年おきに生口(奴隷)として少年少女をさらってい

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大塚已愛『ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲』 少女と青年と贋作の、戦いと救済の物語

 同じ作者の『鬼憑き十兵衛』の日本ファンタジーノベル大賞受賞と同年、第4回角川文庫キャラクター小説大賞を受賞した本作は、19世紀末のロンドンを舞台として伝奇アクションノベル――「贋作」から生み出される魔を祓う青年と少女の戦いを描く、奇怪で風変わりで、そして美しくもどこか物悲しい冒険譚であります。

 ハンズベリー男爵家の長女でありながら一人身軽に外を歩き、画廊や美術館で絵画を鑑賞するのをこよなく愛

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西條奈加『雨上がり月霞む夜』 雨月物語を生んだ怪異と友情

西條奈加『雨上がり月霞む夜』 雨月物語を生んだ怪異と友情

 怪談文学、いや江戸文学史上に重要な位置を占める上田秋成の『雨月物語』。本作『雨上がり月霞む夜』は、秋成とその親友・雨月、そして兎の妖という、おかしな二人と一匹によって語られる雨月物語誕生秘話とも言うべき物語です。

 おそらくは怪異怪談を愛する方であれば、一度は読んでいるであろう『雨月物語』――「白峯」「菊花の約」「浅茅が宿」「夢応の鯉魚」「仏法僧」「吉備津の釜」「蛇性の婬」「青頭巾」「貧福論」

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天野純希『雑賀のいくさ姫』 史実の合間に描く、未曾有の海の大合戦

天野純希『雑賀のいくさ姫』 史実の合間に描く、未曾有の海の大合戦

 海に囲まれている国であるにもかかわらず、決して数は多くない、海を舞台とした歴史時代小説。その中に、とんでもない作品が現れました。雑賀のいくさ姫の異名を持つヒロインが大海に飛び出し、巨大すぎる敵を相手に海の大合戦を繰り広げる、壮大かつ痛快な物語であります。

 信長が天下布武に向けて驀進していた頃――イスパニアのイダルゴ(騎士)の家系に生まれ、流れ流れてアジアにたどり着いた青年・ジョアンは、サムラ

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