御園悠喜

心が苦しくて前に進めなくなった渦森璃乃(アキノ)が脳と心の森へ|傷や悲しみと向き合い自分らしく息をして生きるためには?アダルトチルドレン界隈をいま抜け出した僕の話

御園悠喜

心が苦しくて前に進めなくなった渦森璃乃(アキノ)が脳と心の森へ|傷や悲しみと向き合い自分らしく息をして生きるためには?アダルトチルドレン界隈をいま抜け出した僕の話

最近の記事

翳に沈く森の果て #13 川

 璃乃(アキノ)は曇天の深い森の朝霧の中で、深い草を分けて進むにつれ足元を濡らす露の冷たさを清々しく感じながら、こうして龍胆(リンドウ)と言葉を交わしていることが相変わらず不思議だった。そしてずっと互いのことを知っていたのに初めて顔を合わせた時に感じる違和感と変な恥ずかしさもまだ消えずにいた。ただ璃乃の人生を共に生きて来た者として互いにいくつかの印象的な思い出について話していると、様々な葛藤がありながらも記憶の璃乃はいつも重要な折には精一杯考え抜いててきた。そして最終的に龍胆

    • 翳に沈く森の果て #12 雨

       龍胆(リンドウ)は食器を片付けて、テーブルを拭き、書棚から出したいろんな本たちをまた元の場所にひとつひとつ戻した。  璃乃(アキノ)はその様子をぼんやりと見ていた。午後、といってもここには時計らしいものは見当たらない。考えてみるとここに来てからというもの、時間の感覚が全く掴めない璃乃だった。考えても無駄だろうということしか感じなかったので考えることをやめていたのを思い出し、龍胆に任せてればいいか、と全てを預けることにした。  しばらくすると龍胆は「さ、出かけよう」といつの間

      • 翳に沈く森の果て #11 本

         夜。こうして、どこか知らない場所にいても、どんなに疲れてもこれが必要な旅路で、通ることになっていた道だったとしたら。そんな風にも思えてきて、それは璃乃の心を癒しているように思われた。そう言われたことがあったのだ。それは不思議な能力がある方で、声やビジョンを得られる方だった。「いつかね、たくさん悩んだよね、そんな話してたよねーって言って笑う日がくるから。これまでの経験があったから今がある、全部必要な経験だから大丈夫!」と笑いながら言ってくれたのだった。誰の言葉なのかはわからな

        • 翳に沈く森の果て #10 星

           璃乃(アキノ)っぽいけれど少し落ち着いた感じの龍胆(リンドウ)という人は、どういう暮らしをしているのだろうか。とても簡素な山小屋に最低限の物だけがあるという感じ。普通にかまどのような場所の上に乗せたケトルみたいなものでお湯を沸かしてくれている。静かな時間。お湯が沸いた頃、瓶から取り出した茶葉を入れた。まもなく璃乃の好きなアールグレイに近い香りが広がってきたのでつい目を閉じて、存分に香りを楽しんだ。とてもリラックスできた。 「どうぞ」そう言って優しい顔で璃乃の前にカップを置

          翳に沈く森の果て #9 森

           木のことはよく分からない璃乃だったが、いろんな種類の木が繁り、足元にもたくさんの種類の草が生い茂っていた。あまり野生のきのこを見る機会もなかった璃乃は絵本にでてくるようなそのフォルムのかわいさと、密やかにしっかりと生きている佇まいにまた笑みが溢れて璃乃はしばらくしゃがんで見たこともないきのこたちをじっと見ていた。天気はというと、相変わらずの曇天のようで、あまり光は届いてきていないようだった。ただ、いかにも山の中という土や緑たちの香りと、ふかふかの土を踏みしめながら感じたこと

          翳に沈く森の果て #9 森

          翳に沈く森の果て #8 海

           これまで暗く足場の不安定な根の世界で想像以上に疲れていたところに岩場を進み、巨大な洞窟を出てからも山を登ってきたのだ。地響きの不安の中で海に浮かび上がった渦が消えるのを見届け、ようやく静けさを感じた璃乃はふかふかの草の上でぐっすりと眠りに落ちていた。どのくらい経っただろうか。そもそもここに来てから、疲れ切って意識を失うように眠ったのも何度目だろう。また璃乃は夢をみた。      ・   考えてみたらどうして鳥の絵を描くんだろう。というよりは、羽なのかな?  小学校の頃

          翳に沈く森の果て #8 海

          翳に沈く森の果て #7 底

           光も届かない暗闇の根の世界。いつの間にか始まった、ヒメボタル達の後を付いて巡る立体の迷路。経過したと思われる数十日で辿り着いた根の繭は一体いくつだったのだろう。何人の璃乃に会って話したのだろう。  それぞれの繭の中にいた璃乃(アキノ)たちは、その時々で時間が止まったままだった。けれど訪ねて行った今の璃乃の話もちゃんと通じて理解していた。だから時が止まっているような、いないような、とても不思議な体験をしたのだった。璃乃はそうしてずっと見て見ぬふりをしながら通り過ぎて来た幾つ

          翳に沈く森の果て #7 底

          翳に沈く森の果て #6 膿

           気力も体力も限界に近づいていたので、璃乃は身体に合いそうな曲線の根を探し、少し眠ろうと横たわった。どれくらい時間が経ったのか、突然目が覚めたが、視界は相変わらず暗く、根っこだらけだったので思わず眼を閉じた。けれど闇の空間にぽつんと置かれている自分の状況が変わっていない不安と、妙な安心感を感じたのだった。頭の中でぐるぐると考えごとをする癖のある璃乃はやはりここではそれをやめようと首を振った。  そういえばなんだか遠くでピアノの音が鳴っているような気がしたが夢を見ていたんだな

          翳に沈く森の果て #6 膿

          翳に沈く森の果て #5 家

           「数十年。人生の中で古い時代のことは正直言ってはっきりと覚えていることが少ないかも・・楽しいことが少なかったのか、いつの間にか重苦しい記憶が楽しい記憶の上に堆く積み上がってしまったから埋もれてしまったのか・・?」璃乃がそう言うと、 「古い記憶、思い出せることはある?」繭は肘を膝に乗せ足元を見ていたが、少し顔を上げて星々のような幽光が映し出すまるで蛇の大群のように重なり合っているうねりや枯れ草を見つめて言った。 「とにかく・・父親がね。なんかめちゃくちゃだったね。」と言う

          翳に沈く森の果て #5 家

          翳に沈く森の果て #4 繭

           璃乃(アキノ)は眠っているような気がしていたが、なんだか土やカビの匂いとひんやりと湿った空気を薄っすらと感じ始めていた。 「痛い」  周りを確認したところ、日光のような光はほとんど感じられなかったが、目が慣れてくると、どうやらもしこの場所が明るかったなら視界にあるものはほとんど木の根や蔓や蔦で覆われているのだろうと想像できた。なぜか僅かに見える景色を全力で感じようとする生存本能が最大限働いるようで、このサイズ感は何となく「絶望的だ」と察した。さすがに璃乃はこんなに恐ろし

          翳に沈く森の果て #4 繭

          翳に沈く森の果て #3 幼

           考えてみると、璃乃は小さい頃は活発で、男の子と公園で遊ぶような女の子だったが、小学生の頃に何も自覚症状がないのに内臓の不調で入院し、体育の授業や風邪を引くことなどを禁止され、夏休み丸々入院しなければならなかった年があった。その期間の記憶はほとんどなかった。 一つだけ、夏休みの宿題の工作でログハウス風の貯金箱を病室で作ったのを覚えている。父がカッターナイフでカットできる薄い木材を用意してくれたのだ。ものづくりが好きだった璃乃は創作って楽しいと感じていたのを思い出した。  「そ

          翳に沈く森の果て #3 幼

          翳に沈く森の果て #2 錘

            今日は璃乃(アキノ)の誕生日だ。だから特別。そして今年の誕生日はまた特別だ。少し遠いけれどお墓参りに行こうという予定以外は特に何もなかった。   二年くらい前から、璃乃は何かがずんと身体全体を重くしていて、やりたいこともやるべきことも、全部進めたいのに進められない。心も重すぎて全部が間違っているような気がして、頑張りたいのにできない。頑張りたいのにどうしても手も足も、頭も心も進めなくなってしまっていた。どの問題からどう手をつけていけばいいのか。あらゆるものが飽和してしま

          翳に沈く森の果て #2 錘

          翳に沈く森の果て #1 月

           (今日は月が見当たらないな?)    璃乃(アキノ)は昼夜を問わず、時々ベランダから空を眺めることが好きだ。今日も家のベランダから見える範囲の直線的な夜空に月を探していた。いつか何かの投稿で見かけた家庭向けの天体望遠鏡で撮影したという写真を見て驚愕したのを思い出した。とても小さくぼんやりとではあったけれど璃乃の知っている木星や土星の輪がきちんと映し出されていたのだ。自分の目で見ていたわけではないのに、レンズを覗いている気持ちになっていたのか、ああ本当に・・と言う想いと同時に

          翳に沈く森の果て #1 月