詩『あかい戦争』#創作大賞2024応募作品
(令和六年八月十五日午前零時)
Harajyuku,Tokyo.
『赤髪がすき、きらい、すき、きらい、きらい、きらい、もすきのうち?』
怯えた上目づかい
服のしたにかくした痣
はなびら千切って
決意の縄を括って
宙をバタ足金魚で泳いで
舌をかみ切って
紺色の芝居にピリオドを打つ
赤字の遺書とぶら下がった制服
扉を開いた両親は泣きながら
干涸らびた金魚の亡骸を拾う
⚫
(昭和二十年八月十五日正午)
東京から全国へ。
白黒の粗い映像
ラジオから流れる声
固唾を呑んで聞いている群衆
着色されたあかい金魚が流れていた
眼球にこびりついた赤い鰭
ゆらゆら、ゆらゆら、
幻影のようなあかが
ぼんやりと国民の瞳に灯っていた
ー終戦。
その単語は水柱となり
ひとびとの目を撃った
神は人間に還っていった
神輿を担いでいたひとびとは
しずかに神輿をおろして
なだれのように崩れ落ちた
余熱がみえない煙をあげて
熱狂は冷めた打ち水に消えた
濃紺のかなしみが列島を覆って
NIPPONにしゅんでいった
●
おとこたちは東京で裁かれた
おとこたちに裁かれていった
●
『赤紙なんて、要りません』
堂々と宣言できれば
拒否できれば良かったのに
何人もの若いおとこがひとを殺した
何人もの若いおとこがひとに殺された
おんなはただ耐えて待つしかなかった
そして生きるために太陽を見上げた
こどもはただ泣くしかなかった
そして生きるためにくちびるを噛んだ
●
(赤紙なんて、すき、きらい、すき、きらい、きらい、きらい、もすきのうち、と花びら千切って、暗黙の了解がくちびるを支配した)
かみ切れなかった舌で
今日も米粒を呑みこむ
かみ切れなかった舌で
今日も戦争を語り継ぐ
Photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、yukiotaさん)
Photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾