水無川 渉

横浜詩人会会員、ネット詩誌 MY DEAR 同人、詩誌marubatsu同人。MY DEARへの投稿作を中心に、自作の詩を投稿していきます。 http://www.poem-mydear.com/

水無川 渉

横浜詩人会会員、ネット詩誌 MY DEAR 同人、詩誌marubatsu同人。MY DEARへの投稿作を中心に、自作の詩を投稿していきます。 http://www.poem-mydear.com/

最近の記事

  • 固定された記事

はじめまして

コロナ禍のステイホームをきっかけに、詩を書き始めました。 それまでも読むのは好きで、日本語や英語の詩をよく読んでいましたが、なぜ自分でも書いてみようと思ったのかは、今でもよく分かりません。 いくつか書いてみると、今度はそれを人にも読んでもらいたいと思うようになりました。発表の場を求めていろいろインターネットを調べていて見つけたのが、MY DEARというネット詩誌でした。そこの掲示板では自作の詩を投稿できるだけでなく、評もいただくことができるというのです。 けれども、投稿

    • (詩)針の先―梨泰院圧死事故追悼詩―

      針の先―梨泰院圧死事故追悼詩― 中世の神学者たちは 針の先端で何人の天使が踊れるか 論じあったという その答えは神のみぞ知るが 確かなことは 祭りの夜 この街では十万人の若者が 踊り狂っていたということ 今宵は仮装大会 通りは怪物やヒーローで溢れている 耳を聾するダンス音楽 若いエネルギーが海のように 波打ち渦巻いていた その欲望と熱の全重量が 傾斜した針先の魔の一点へと 集中していったとき いのちの重みが死をもたらし 歓声は悲鳴に変わった 魔女や幽霊は逃げ場を失い ゾ

      • (詩)狂ったボレロ

        狂ったボレロ  ある地方小都市の演奏会。今日の演目はラ ヴエルのボレロ。最初はようやく聞こえるほ どの小さな小太鼓のリズムに乗って、フルー トがゆったりとした舞曲風の旋律を歌い始め る。楽器が次第に増え、音量も増していくが、 リズムと旋律は同じまま繰り返されていく。 その繰り返しが独特の高揚感と陶酔をもたら す名曲である。  聴衆が異変に気づいたのは、演奏開始から 一五分ほど過ぎてからだった。この曲は通常 これくらいの時間でフィナーレに入るが、こ の日のオーケストラは一向にそ

        • (詩)虚音

          虚音  ぼくが好きな音 それは 桜の最初の花弁が落ちる音 芋虫が蛹の中で蝶に変わる音 頭の中でことばが羽ばたき始める音 数直線上に記せない虚数のように 鼓膜ではなく心を震わせる虚音がある 聞く耳のある者だけに聞こえる音が 虚数が数直線から垂直に離れているように 虚音を聞くには世界と直交する必要がある ぼくが耳を(垂直に)傾けるべき音 それは 真理がゆっくり押しつぶされる音 血に汚された大地が呻く音 そして その下から正義を求める、声なき声 ※2024年9月16日(月)~

        • 固定された記事

        はじめまして

          (詩)革命

          革命 市松模様の盤上に 整然と並べられた駒(ピース)たち それぞれの駒には 決められた色と役割があり ルールに従ってしか動けない 駒には自分の意志はなく プレイヤーの指示に従うだけ その目的は 敵と戦い勝利を収めること だがその勝利は駒のものではない 白軍に生まれたからには 黒軍と殺し合うのが定め なぜそうなのか そうでなければならないのか 問うことは許されない 最前線に進みゆくポーンは いとも簡単に敵の餌食になる だがプレイヤーには 捨て駒の気持ちは分からない 勝って

          (詩)帰国

          帰国 いつもと同じ 八月のうだるような熱帯夜 東京湾からほど近い路上を 無言で歩いていく 一群の男たちがいた 彼らは海の方からやって来た 整然と隊列を組んで ゆっくりと  だが一糸乱れぬ歩調で進んでいく その姿は影のようにおぼろで 都会のビル群が透けて見えるが 古びた軍服からは水が滴り 海藻の絡まった軍靴は 濡れた足音を立てて 歩道の上に黒光りする跡を残す 彼らは一様に痩せて頰がこけ 目はガラス玉のように鈍く光る その姿は二十歳そこそこの若者にも はたまた百歳の老人にも

          (詩)賽を投げる

          賽を投げる 都会の夜空に星はまばら みんな地上に堕ちてしまった 孤り屋上から眺めれば 眼下に広がるさびしい光の海 あるものは血を流しながら ビルの谷間を這いずりまわり あるものはじっと動かずに 瀕死の息をしながら弱々しく瞬く だが朝が来るまでには それらの光はみな消えてしまう 昔の人は信じていた 星々は生きていると そして地上に降りてくると しばし人の姿をとり やがてどこかへ去って行くのだと 朝露が消えゆくように 君もそんな一人だったのかもしれない * 初めて会っ

          (詩)賽を投げる

          (詩)確信犯

          確信犯 戦いの前は街だった廃墟 今は無情な烈日が累々たる屍を灼く 上空を旋回する禿鷲たち 時折舞い降りては 腐乱した死者の眼球をほじくり はみ出た臓物をつつく その鳥たちは人間の顔をしている おれもその一人だ 平和で安全な国に住み (善とは似て非なる)善意と (正義と同じではない)正義感に燃え シアトル風のラテを舐め舐め アップル社製のスマホに反戦詩を入力する ポストアウシュヴィッツ的蛮族の末裔* ネットのゴミ溜めから ネタになりそうな情報を漁り ねっとりした糞のよう

          (詩)確信犯

          (詩)下り

          下り 朝起きて 顔を洗い コーヒーを淹れ 変わり映えのしない朝食を摂りながら ニュースアプリを開く おれが寝ている間に 世界で起こった出来事の一部が アルゴリズムの篩にかけられ 液晶画面を流れていく 話題の新製品 スポーツの試合結果 芸能人の結婚(あるいは不倫) 政治家の国会答弁(あるいはその拒否) そして 戦争と虐殺 海の向こうの 熱く乾いた国では 民家をミサイルが吹き飛ばし 人々が生きたまま焼かれている SNSでは 子を失った女が嘆いている 動画のリプレイボタンを

          (詩)自分の顔

          自分の顔 ある朝いつものように家を出て いつもの道を駅まで歩いていると 十メートルほど先を歩く一人の男 その後ろ姿を見て 奇妙な感覚に襲われる ぼくと同じ背格好 同じような紺のスーツを着て 同じような革靴を履いている それは自分の後ろ姿のよう 自分の背中など ほとんど見たことがない 鏡で見るのはいつも正面からの姿で 後ろ姿を撮った写真や動画もない それなのに 今前を歩いている男は ぼく自身ではないか そんな思いに囚われた 同じ歩幅 同じ速さで歩くので 互いの距離は変わ

          (詩)自分の顔

          (詩)光

          光 はじめに暗闇があった おれが生まれたのは ぬるぬる生暖かい暗黒世界 ここでおれはすくすく育った おれが立つ大地には 酸の混じる有機溶岩が流れ すべては柔らかく形なく そして暗かった 言い伝えによると この闇はもう一つの闇からうまれ その闇もまた別の闇から生まれた それは果てしない闇の連鎖 だが別の伝承によると この闇の世界の外には 別の世界があるという そこは光に満ち 冷たく乾いているらしい でもおれは光が何かを知らない 光の世界が実際どんなところか 誰も見たこと

          (詩)呼吸

          呼吸 みずみずしい負け戦から戻り 冷たい暗闇に横たわる 傷癒えぬまま涙も枯れ 何もしない ただ息をしているだけ 深くふかく息を吐く 怒りの毒素を 苦い悔恨を 傷口から流れ出る血の匂いを 嗚咽になりきれない悲しみを 何度でも吐き続ける 自分が空っぽになるまで 自分が裏返しになるまで 自分が自分でなくなるまで このまま吐き続けたら 穴のあいた風船のように 無限に小さくなって 世界から消えられるだろうか しかしいつまでも 吐き続けることはできず 仕方なく息を吸う また呪詛が

          (詩)リンボにて

          リンボにて 白壁の長い廊下を 健康的な白衣の看護師が先導し 重い鉄扉を開けて 画像診断室に案内する ベッドに寝かされたまま 大きな機械のトンネルに入れられる それはどこか焼場の炉に似ていた 「今から造影剤を注射します  体が熱くなりますのでご注意ください」 腕に刺された針から 刺激性の薬液が入ってくる 造影……ぞうえい…… ゾーエーは ギリシア語で生命のことだったな そんなことを考えていると 全身が燃えるように熱くなった 頭上のスピーカーから 機械の声が降ってくる

          (詩)リンボにて

          (詩)満ち足りた人生

          満ち足りた人生 休日の午後 いつもの喫茶店で 読書にも飽き 外の雨が上がるのを待っている 目の前のカップには コーヒーが半分入っている 砂糖を入れてかき混ぜても 見た目は何も変わらない こういう無為な時間は良くない つい昔を振り返って感傷的になる 初めて喫茶店でコーヒーを飲んだのは中学の時 親に連れられて入ったのだが 家で飲むインスタントとの違いに驚いたものだった あの頃 世界は魔法のような驚異に満ちていた だが成長するにつれて 世界は輝きを失っていった 勉強もそこそ

          (詩)満ち足りた人生

          (詩)灯芯

          灯芯  凍てつく冬の夜 細いからだを捩らせて 黒く冷え固まってしまった君 芯が心を無くしては 燃えてなくなる枯草のようなもの 自分が燃え尽きては光が消える さあ力を抜いて かぐわしい油に身を浸せば いのちがゆっくり沁みてくる それから静かに火を点せば どんなにか弱い糸であったとしても 尽きぬいのち燃やして輝けるだろう (MY DEAR 332号投稿作) 返信転送 リアクションを追加

          (詩)不屈の花

          不屈の花  国境を超えて突撃してくる兵士が 最初に殺すのは 人ではなく花である キャタピラや軍靴の下で 踏み潰され泥にまみれる コスモスやデイジーたち 花は 病院に落ちてくる爆弾を 止めることはできない 子どもたちが殺される時 抗議の叫びを上げることもできない 花はただそこにあり 蹂躙される でも花は 塹壕に潜む兵士の手帳に挟まれ 爆撃に怯える家族のテーブルに活けられ 故郷を失った子どもたちの頭を飾る 花は燃やされても潰されても生えてきて そのはかない生命の美そのものに

          (詩)不屈の花