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(詩)針の先―梨泰院圧死事故追悼詩―

針の先―梨泰院圧死事故追悼詩― 

中世の神学者たちは
針の先端で何人の天使が踊れるか
論じあったという
その答えは神のみぞ知るが
確かなことは 祭りの夜
この街では十万人の若者が
踊り狂っていたということ

今宵は仮装大会
通りは怪物やヒーローで溢れている
耳を聾するダンス音楽
若いエネルギーが海のように
波打ち渦巻いていた

その欲望と熱の全重量が
傾斜した針先の魔の一点へと
集中していったとき
いのちの重みが死をもたらし
歓声は悲鳴に変わった

魔女や幽霊は逃げ場を失い
ゾンビたちと折り重なって倒れ
フランケンシュタインがのしかかる
それでも異形の人波は
後から後から押し寄せてくる
その流れを止めることは
スーパーマンにもできない

触れ合いを求めていた孤独な群衆
天使ならぬ身の人間たちが
恋人も赤の他人も関係なく
地獄の針の先端に押し込められた時
互いの肉が凶器となり
死者の仮装が本物になった

オール・ハロウズ・イヴ――諸聖人の夜
教会では死んだ聖人たちを記念する日
古いケルトの言い伝えでは
死者たちが家族のもとに帰ってくる日

それまでにはまだ二日あったのに……

 *

あれから二年
梨泰院の夜は喧騒に包まれている
行き交う車と人の波
クラブから流れる大音量のダンス音楽

だがハミルトンホテルの横にある細い路地は
人影もなく静まり返っている
僅かに犠牲者を悼む掲示板が
沈黙のうちに惨劇の現場を証している

路地の入口に佇んでいると
不思議な感覚に襲われた

その針先には
一五九の死者たちが
もはや互いに押し合うこともなく
静かに立っていた
騒がしい大通りに向かって

※梨泰院圧死事故が起きた二〇二二年一〇月二九日はハロウィンの二日前。事件後に自死した一名を含め一五九人が死亡したと報道されている。

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