(詩)確信犯
確信犯
戦いの前は街だった廃墟
今は無情な烈日が累々たる屍を灼く
上空を旋回する禿鷲たち
時折舞い降りては
腐乱した死者の眼球をほじくり
はみ出た臓物をつつく
その鳥たちは人間の顔をしている
おれもその一人だ
平和で安全な国に住み
(善とは似て非なる)善意と
(正義と同じではない)正義感に燃え
シアトル風のラテを舐め舐め
アップル社製のスマホに反戦詩を入力する
ポストアウシュヴィッツ的蛮族の末裔*
ネットのゴミ溜めから
ネタになりそうな情報を漁り
ねっとりした糞のような詩をひり出す
それは戦争詩犯罪だ
肉食動物の糞は臭い
歴史はおれたちを裁くだろう
悪臭の度合いにより
A級B級C級とランク付けして
だがそれでもおれは死肉に顔を埋め
今日も熱く腐敗した詩を排泄する
それを肥やしにして
一輪の花が萌え出ることを願って
*
ほとんど骨だけになった屍を後に
おれは次の獲物へと向かう
爆撃で吹き飛んだ家の中庭に転がる
小さな死体の上に降り立つと
それはごろりと仰向けになった
煤と埃で黒く汚れたその顔は
おれの娘と瓜二つだった
ぎょっとして後ずさりし
そばに横たわる女の遺体に目をやると
それはおれの妻の顔
するとその隣の死体は……
必死で目を背けようとしたが
見ないという選択肢はなかった
それは紛れもなく
おれ自身の死体だった
おれは長い間
爆死した一家の前に
立ち尽くしていた
ようやく分かった
部外者であることはできない
あらゆる戦争は
おれたちの戦争なのだから
地球の裏側で殺されているのは
おれの家族 おれの友 おれ自身なのだ
その時
おれの死体が語りかけた
ワレラノ肉ヲ食ライ
ワレラノ血ヲ飲メ**
ヨク咀嚼シテ味ワイ
汝ノ血肉トセヨ
ワレラノ命ヲ無駄ニセズ
ソレヲ糧ニシテ
命ヲ育ム言葉ヲ紡ゲ
おれは意を決して
聖体をいただく厳粛さで
その肉にあずかった
*
今でもおれは
平和で安全な国に住み
戦争について詩作している
今でもおれの詩は
自己満足と偽善の臭いを放っている
それでもおれは書き続ける
確信犯として
*「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」テオドール・アドルノ
**ヨハネの福音書六章五三〜五六節参照
(MY DEAR 338号投稿作品)
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