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2023年9月の記事一覧
藤沢周平と庄内藩の歴史『義民が駆ける』、霧の小説群、そして『三年目』と三瀬:英語対訳 2
2『義民が駆ける』あらすじ 1
江戸時代後期、財政難に苦しむ川越藩藩主松平斉典は、徳川家斉の二十四番目の男子斉省を養子に迎えていることから、その生母おいとの方に働きかけ、幕府首脳に多額の賄賂をばら撒いた上で、川越よりもはるかに経済状況の良い荘内への国替えを画策しました。庄内藩はよく耕された肥沃な田地を持ち、良質の米を産して富裕な藩と見なされていました。
「・・目の前に荘内の野面がひろが
藤沢周平と庄内藩の歴史『義民が駆ける』、霧の小説群、そして『三年目』と三瀬:英語対訳 1
藤沢周平の歴史小説に、庄内藩の歴史を題材にした「義民が駆ける」「又蔵の火」などがあります。
『義民が駆ける』(ぎみんがかける)は、天保義民事件に材をとった時代小説。1976年から1977年にかけて、中央公論社の雑誌『歴史と人物』に連載されました。
義民(ぎみん)とは、民衆のため一身を捧げた人を指します。飢饉などで人々が困窮しているときに一揆の首謀者などとなって私財や生命を賭して活躍した百
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 10 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 10
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 10
10 論考 2 (お家騒動)
お家騒動は時代小説特有の題材のなかでも最も繁く扱われてきたものの一つだが、その頻度のとりわけ多いのが藤沢周平小説の諸作品。武家小説に登場する諸人物は、たいていが元来藩政などとは縁のない微禄小身の平藩士なのだが、それがたまたま藩首脳間の政争に巻き込まれたり、剣技を見込まれて利用されたりするところから物語が動き出し、武
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 9 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 9
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 9
9 論考 1 (構成)
主人公である首席家老の又左衛門のもとにかつての親友から果たし状が届くところから始まり、次に、かつての又左衛門である隼太を含む、道場で仲が良かった5人を描き、過去の出来事と現在進行形とを繰り返し描き、最終的には、過去と現在が交わるような構成になっている。
又左衛門と市之丞を含む5人は、それぞれ異なった人生を歩むことにな
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 8 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 8
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 8
8 文章の魅力 (4)
『風の果て』の結びの文章から。
『又左衛門は顔を上げた。澄み切った空を震わせて風が渡って行った。冬の兆しの西風だった。強い風に、左手の雑木林から、小鳥のように落ち葉が舞い上がるのが見えた。
ー 風が走るように……。
一目散にここまで走って来たが、何が残ったか。忠兵衛とは仲違いし、市之丞と一蔵は死に、庄六は……。
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 7 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 7
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 7
7 文章の魅力 (3)
終章「天空の声」から
『忠兵衛の失点を拾い上げて反撃したのは、正義だった。やましいところはない、と又左衛門は考えていたのである。
だがはたしてそうかと、又左衛門はいまはじめて、自分の歩いて来た道を怪しみ振り向いているのだった。執政入りしてから足掛け十一年。家老になってからでさえ、六年の歳月が過ぎていた。その間
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 6 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 6
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 6
6 文章の魅力 (2)
第6章「町見家」から
”…二人はそのあとものも言わずに漬物で茶漬けを喰ってから「ぼたん屋」を出た。
外に出ると、月が出ていた。しかしその月は、春の終わりごろのおぼろ月のように白っぽくぼやけていて、歩いているひとの顔もそばに来ないと見わけられないほどに光が弱かった。季節は六月に入って、日中の日射しは暑くなっていた
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 5 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 5
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 5
5 文章の魅力 (1)
藤沢周平の小説の文章は魅力的。
初章「片貝道場」から
『五人はほとんど同時期に片貝道場に入門した仲間だが、身分はさまざまだった。杉山鹿之助は、数年前に失脚していまは藩政から身をひいている家の嫡子で、毛並みという点では五人の中で群を抜いている。そしてほかの四人は部屋住みで、親の身分もさほどに高くはなかった。一千石
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 4 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 4
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 4
4 冒頭
物語はいきなり緊張した場面から始まります。筆頭家老に上り詰めた桑山又左衛門に届く一通の果たし状。それは永年の友人、野瀬市之丞からでした。何とか話し合おうと市之丞を探す又左衛門。なぜこんなことになったのか?との思いとともに、物語は三十年の過去にさかのぼります。それは又左衛門が上村隼太だった時代。隼太も市之丞も部屋住みの身分だった若かりし
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 3 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 3
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 3
3 あらすじ(下巻)
下巻のあらすじ(カバー裏面より借用)
『かつての軽輩の子は家老職を占めるに至る。
栄耀きわめたとはいえ執政とは孤独な泥の道である。
策謀と収賄。
権力に近づいて腐り果てるのがおぬしののぞみか、市之丞は面罵する。
又左衛門の心は溟い、執政などになるから友と斬り合わねばならぬのだ・・・・・。
逼迫財政打開として耕地開墾の鍬はなお
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 2 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 2
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 2
2 あらすじ(上巻)
上巻のあらすじ(カバー裏面より借用)
『首席家老・桑山又左衛門の許に、ある日、果たし状が届く。
恥じ知る気あらば決闘に応じよ、と。
相手は野瀬市之丞。
かつては同じ部屋住み・軽輩の子、同門・片貝道場の友であるが、市之丞は今なお娶らず禄喰まぬ”厄介叔父”と呼ばれる五十男。
・・・・・・歳月とは何か、運とは悲運とは?
運命の非常
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 1 Fujisawa Shuhei "The End of the Wind" A Digest, Japanese-English translation 1
藤沢周平『風の果て』ダイジェスト、英語対訳 1
1 (はじめに)
藩家老の桑山又左衛門が、杉山忠兵衛に勝利して藩政の実権を握った後、野瀬市之丞から果たし状が届いた。野瀬も杉山も、かつては片貝道場で研鑽した仲間であった。又左衛門は、野瀬が果し合いを望んだ意味を慮りながら、若い頃から今に至るまでの長い道のりを思い起こすのであった。
江戸時代の末期、ある雪深い地方の小藩を舞台にした五人の武士