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藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)8 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 8
8 『野菊守り』から
特に気に入ったのは、捻くれた感がある斎部五郎助が菊を守る事を命じられ守りきり、心の交流と甦る剣さばきを確かめる機会がきっかけで、雪解けのように頑なな心に変化を生じさせ穏やかになってゆく様を描いた「野菊守り」です。
作品の中で主人公が弁慶めし様のものを想像させるおにぎりを食べる場面があります。
「その握り飯も、このあたりでへら菜と呼ぶ菜っ葉の漬け物の葉でくるみ、上から
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)7 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 7
7 『早春』から
現代小説『早春』は、妻と死別し、仕事人としては窓際に追いやられ、妻子ある男と恋愛をしている娘と二人暮らしの男の物語。何のために生きてきた、今まで生きがいとしてきたものが失われて行く時、それらが何故生きがいたり得た物だったのかわからなくなる。
そんな男の悲哀は読者自身にも襲いかかっても不思議はなく、だから響くのですが。
「子供や家に対するあの熱くて激しい感情は何だったのだ
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)6 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 6
6 『早春』概要
『早春』(1998)は最晩年作で、表題作で現代小説の「早春」、「深い霧」、「野菊守り」の3つの短編小説と後半はエッセイが4篇収録されています。随想などとして、「小説の中の事実」、「遠くて近い人」、「ただ一度のアーサー・ケネディ」、「碑が建つ話」など、すでに雑誌などに掲載されたもの。
「解説」の中で、藤沢周平は「もしもはじめから現代小説を書いていたら、せいぜい、目立たない心境
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)5 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 5
5 『静かな木』(読後感)
全三篇、どれも主人公が武家であり、市井の様子があまり無かったり隠し剣や男女の恋慕があるわけでもなく、内容的にはちょっと偏っている気もします。それゆえ、藤沢周平の小説をはじめて読むという方には勧めにくい一冊です。しかし、端正な筆致と安定のストーリーは楽しめるので、手に取ってみるのはいかがでしょう。短さの中でも、実際にかの海坂藩で過ごしたような感覚を覚えることができます
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)4 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 4
4 『偉丈夫』(いじょうふ)
「海坂藩」初代藩主政慶は二男の仲次郎光成を愛し、死没する際、藩から一万石を削って仲次郎に与え、幕府の許しを得て支藩とした。政慶公が死没してから70年程経って、漆の木をめぐり本藩と支藩の境界争いが生じたが、支藩「海上藩」に属していた片桐権兵衛は本藩との掛け合い役に抜擢された。権兵衛は六尺近い巨体の持ち主だが蚤の心臓で無口、本藩の掛け合い役加治右馬之助は熟練、能弁。一
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)3 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 3
3 『静かな木』
5年前に隠居した布施孫左衛門は 福泉寺の境内に立つ欅の大木を見て過している。ある夜孫左衛門は、倅・邦之助が果たし合いをすることを知らされる。相手は、鳥飼中老の息子・勝弥。邦之助が勝弥から侮りを受けたとして、果し合いを申し込んだのであった。
そして勝弥の父親である中老・鳥飼郡兵衛。孫左衛門は、かつて郡兵衛とは浅からぬ因縁があったのだ。
最初と最後の場面が、寺の境内に生えた一
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)2 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 2
2 『岡安家の犬』
海坂藩の近習組を務めている岡安家、十兵衛門は隠居の身、息子は他界し、当主は 孫の甚之丞、甚之丞の母、妹の八寿、奈美の家族5暮らし。家族全員犬が大きで、アカという犬を飼っていた。ある時、甚之丞が 妹八寿の嫁入りが決まっていた親友の野地金之助、関口兵蔵と犬鍋を食べたが それがアカの肉だったことで友情決裂、あわや果し合いに成る寸前に。
強情な金之助、見栄っ張りの金之助は親
藤沢周平『静かな木』と『早春』 ダイジェスト(英語対訳)1 Fujisawa Shuhei's "The Quiet Tree" and "Early Spring" A Digest (Japanese-English Translation) 1
1 『静かな木』概要
『静かな木』(1998年)は藤沢周平最晩年の境地を伝える三篇、『岡安家の犬』、『静かな木』、『偉丈夫』からなります。
藩の勘定方を退いてはや五年、孫左衛門もあと二年で還暦を迎えます。城下の寺にたつ欅の大木に心ひかれた彼は、見あげるたびにわが身を重ね合せ、平穏であるべき老境の日々を想い描いていました。ところが……。
舞台は東北の小藩、著者が数々の物語を紡ぎだした、かの海
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)10 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 10
10 おわりに
5篇はいずれも完結形式で展開しますが、作品の主要登場人物は変わりません。基本的な筋は最後まで縦横に張りめぐらされています。
精神的ショックから、立つこともできない娘を歩けるようにする「験試し」、亭主の出稼ぎ中に間男した妻を救う「狐の足あと」、家に火を放たれて村を追われた若者が復讐のため帰郷するが、山火事の中から村の娘を助ける「火の家」、狐憑(きつねつ)きの娘を最後には嫁にする
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)9 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 9
9 冒頭とクライマックス
「櫛引通野平村」は架空の村だが、その描写から推察すると、黒川能の里である、現在の櫛引町黒川の南部あたりか、赤川べりの集落である。工事中の東北横断自動車道酒田線が赤川をまたぎ、山すそを往時の「櫛引通り」に沿って西に伸びる。内陸と庄内を結ぶ国道112号月山道が、ゆっくりと庄内平野に入るところだ。
作品の中で「赤川」は重要な位置づけにある。大鷲坊と、夫が死んで嫁ぎ先を出さ
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)8 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 8
8 庄内弁
村人たちが遣う日常の言葉は物語にリアリティを与えている。土地の言葉は歴史(時空の集積)そのものだからだ。同書の解説によると、「庄内弁とは恐らく、京都の言葉が海岸沿いに北進してこの地方に定着し、東北訛(なま)りと融合したものであろう」とのこと。その一端を同書から抜書きしてみよう。物語の最初に、村人「おとし」が、山伏・大鷲坊となって帰ってきた「鷲蔵」と出会うときの会話。
「お前(め)
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)7 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 7
7「あとがき」から
藤沢周平は、作品のあとがきで、「この小説は、鶴岡の戸川安章氏のご指導がなければ、書けなかった小説である」と記している。戸川さんは羽黒修験道の研究者である。一部引用しよう。
「庄内平野に霰が降りしきるころ、山伏装束をつけ、高足駄を履いた山伏が、村の家々を一軒ずつ回ってきたことをおぼえている。(中略)
こういう子供のころの記憶と、病気をなおし、卦を立て、寺子屋を開き、つまり
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)6 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 6
6 『人攫(ひとさら)い』
祭りの集まりに顔を出したおとしの帰りが少し遅くなった。そして、帰ってみると娘のたみえがおとしを迎えに出ていなかった。しかし、あまりにも遅い。あわてておとしは方々を探してまわったがいなかった。
翌日、村の者たちが集まって相談をした。たみえはどうやら人攫いにあったらしい。そして、箕つくりの夫婦がいたのが判明した。この夫婦がどうやらたみえを攫ったらしい。
大鷲坊は別の村
藤沢周平『春秋山伏記』ダイジェスト(英語対訳)5 Fujisawa Shuhei's "Shunju Yamabushi-ki" A Digest (Japanese-English Translation) 5
5 『安蔵の嫁』
大鷲坊は太九郎の家の前まできた時に太九郎のばあさんに呼ばれた。息子・安蔵の嫁の世話をしてくれないかというのだ。それを引き受けると、ばあさんは喜んだ。そして話し始めたのは、友助の娘・おてつが狐憑きになっているというものだった。
早速、大鷲坊はおてつに会いに行ってみると、果たして狐が憑いているようだ。しかも、この狐は一筋縄ではいかないようで…
大鷲坊はこの日、厄介なことを二つも