#読書感想文 山本文緒(2021)『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』
山本文緒の『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』を読んだ。2021年10月に新潮社より出版された本である。
山本文緒さんの訃報を耳にしたとき、大きなショックを受けた。享年58歳は若すぎる。
10代の頃は書店通いをして、毎月、文庫本コーナーをしげしげと眺めていた。当時は、江國香織、唯川恵、山本文緒が女性作家の御三家であったと思う。江國香織は七光りなので、ブランド物のように扱われており、唯川恵、山本文緒は市井の女性たちの気持ちを掬うような作家であると認識していた。
そんな風に思ってはいたものの、山本文緒の作品の熱心な読者ではなかった。10代の頃は、日本文学なら古典、あとは海外文学を懸命に読んでおり、あまり手を伸ばすことはなかった。
一冊だけ短編集を読んだことがある。当時の優しい友人の誰かが貸してくれた。それが面白かったことは覚えているのだが、どんな話だったのかは覚えていない。山本文緒強化月間を作って、これから読んでいきたいと思っている。
さて、本題に戻ろう。この本は彼女の遺作であり、最後の日記である。
末期の膵臓癌を患い、抗がん剤治療もあきらめ、緩和ケアを行いながらの生活が描かれている。
彼女はついこの前のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』を見ているし、藤井風の日本武道館のライブDVDにも感動している。その記述で同時代の人が亡くなってしまったことが、とても生々しく感じられる。
彼女は贅沢をしなければ90歳ぐらいまでは生きられるお金を貯めていた(p.96)とさらりと書いている。そうそう、彼女はベストセラー作家で、一時代を築いたのだから、それぐらいあってもおかしくない。そして、それぐらい自分が生きるとどこかで思っている人はたくさんいるのではないだろうか。長生きしたらどうしよう、と。でも、長生きするかどうかなんて、やはり誰にもわからないことなのだ。
そして、彼女の後悔は語学(英語)の勉強をしなかったこと、旅行に行かなかったこと、運動習慣をつけなかったこと(p.79-81)なのだが、あまりに身近なテーマ過ぎて、逆に驚いてしまった。おそらく、体力がなくなりベッドで思うのは日々の後悔なのかもしれない。日々の心にひっかかっていることが去来するのだろうか。
わたしも80歳まで生きると仮定して、キャリアを考えたりするのだが、そんな先のことを思い煩うのは、やはり馬鹿げていると、この本を読み、思い直した。日々、勉強したり、物を書いたり、読書をして、毎日を充実させることのほうが重要だ。
もちろん、彼女はキャリアを成功させ、愛する夫が世話をしてくれて、親しい友人がお見舞いに来てくれて、とても幸せな人だ。嫉妬するぐらい恵まれている。だから、後悔が少なかったのだろう。その一方で、死ぬ間際でも、思考は飛躍などせず、日々考えていることが繰り返されるに過ぎないのかもしれないとも思う。わたしたちは日々の「生」を繰り返して、死に辿り着く。
この本を読んで、病床で後悔したくないことは何だろう、と考えた。
今のうちにサルトルはちゃんと読んでおきたい。そして、ボーヴォワールも、聞きかじりではなく、ちゃんと読みたい。そんなことを考えてしまった。わたしには実存主義とフェミニズムをきちんと理解しておきたい、という欲望があるらしい笑。