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【白の手帖】〜僕達が辿ることの出来ない、いつかの誰かの話〜

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詩でも小説でもない、ただ自由にいつかの誰かの何かのお話を書いた「白の手帖」シリーズをまとめたものになります。中には私、白散歩の要素を含む頁もございます。(4頁「百合の色、白とそれ…
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記事一覧

【白の手帖】5頁「息」

【白の手帖】5頁「息」

1度も11月のカレンダーを捲ることなく
10月だった僕は12月になった。

世界を観た。狭い。

そして広い。

なにもしない時間だって間違いなく生きていて、
本当になにもしていないことなんて、
本当は無い。

眠っていても心臓は動いているし、夢だって見る。
一昨日は、初めて自分が死ぬ夢を見た。

いつも顔を合わせている職場の人に気付かれず、
なぜか苦手な人が僕の死を喜んでいて、
憎しみは死んだ後

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【白の手帖】4頁「百合の色、白とそれから」

【白の手帖】4頁「百合の色、白とそれから」

私は空腹でした。

当たり前で満たされているこの世界に
嫌気がさしていたのかもしれません。

欲というものは厄介で、
欲によってヒトは何か誤ちを犯したり
後悔してしまうのかもしれません。
これはヒトでいる限り
付き纏ってくるのでしょうか。

そんなことを考えながら私は、
乾いた唇をギュッと固く結びました。

「白、代わって」

声がしました。

「いいけど、何か食べたらね。」

私はしっかりと返事

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【白の手帖】3頁「囁かな窓際」

【白の手帖】3頁「囁かな窓際」

指先だけで撫でるような
癖のないその声が好きだった。

ただいま。
ブラウンの扉。

窓際の観葉植物を抱えた土は湿っていて、
薄いカーテンから綻んだ光を浴びている。
ささやかな霧吹きの音が響く。
鼻歌はまた変わったのに
あなたは変わらない。

指先だけで撫でるような
癖のないその声がずっと好きだった。

おはよう。

ブラウンの扉。

けれど
あなたはもう居ないのかもしれない。

私はいつの間にか

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【白の手帖】2頁「ただ広くて、とても狭い夢」

【白の手帖】2頁「ただ広くて、とても狭い夢」

この人が私を殺そうとしていることは、会話の最中で察知した。

砂のようで無機質な何かが敷き詰められた、
外なのに室内のような場所を二人で歩きながら、その人は気づかれないように慎重に私に間合いを詰めていた。

しかし私は怖れと同時に、その思考ごと呑み込んでしまおうと煙に巻く支度を始めていた。

会話で時間を稼いだ。

「空と海の境界が
だんだん無くなっていくんです」
「聞こえますか?この音」

水が

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【白の手帖】1頁「青い室内」

【白の手帖】1頁「青い室内」

1頁「青い室内」

月の明かりがやけに強い夜のことでした。
あなたは静かな微笑みを浮かべながら、
洗面台の前に立っています。
口を濯いで、吐いて。
また水を含み、濯いで、吐く。

この世で最も穢れなきものを
あなたは知っているのでしょう。

青く照らされた階段を
軽やかに降りていくあなた。

心に負うものを手放していき、
タオルで拭き取った哀も
やがて乾いていきます。

ああ、なんと美しいのでしょ

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