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#6 学習教材のゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションとは「ゲームデザインの要素をゲーム以外の文脈に用いること」を意味し、実際に様々な分野で活用されています。

学習分野では、教材を魅力的なものにするために、ゲームで培われてきた「夢中にさせるノウハウ」を組み込んできました。

では、具体的にゲーミフィケーションのどのようなノウハウが、学習経験の質を高めるために活かされてきたのでしょうか。

本記事では、学習のためのゲーミフィケーションについて検討し、効果的な学習環境デザインを行うにはどうすれば良いかを考えていきたいと思います。

「授業や研修にゲーミフィケーションを取り入れたい」「学習のためのゲーミフィケーションのメリットを知りたい」といったテーマが気になる方はぜひご覧ください。

はじめに

以前の記事で「学習経験の質モデル」を紹介した際、ビジネスゲームにおけるゲーム要素が、その質を一定担保する役割を果たすのではないかという話題を出しました。

前回は、ゲーム要素として、シミュレーションと遊びに着目しましたが、以下では、それをより具体的に理論を用いて検討したいと思います。

そこで、今回登場するフレームワークが「ARCSモデル」です。ゲーミフィケーションは、このモデルが持つ要件を満たす特徴があると考えられます。

ここからは、次の3点に沿って紹介を行っていきます。

・ARCSモデルとは
・ARCSモデルとゲーミフィケーション
・学習経験の質モデルへの接続

ARCSモデルとは

ARCSモデルは、1980代にアメリカの教育工学者のジョン・M・ケラーによって提唱された、学習意欲を高める教材のアイデアを整理するための枠組みです。

それぞれの段階の目的を端的に表すと、下記のようになります。

・A 注意:おもしろそうだなと感じさせる
・R 関連性:やりがいがありそうだなと感じさせる
・C 自信:やればできそうだなと感じさせる
・S 満足感:やってよかったなと感じさせる

これら4つの側面から検討することによって、学習者の学習意欲を高めることができるとされています。

ARCSモデルとゲーミフィケーション

それでは、ゲーミフィケーションとのつながりを考えつつ、各項目の詳細を見ていきましょう。

まず、注意(Attention)についてです。

注意(Attention)は、学習者の注意を喚起し、学ばせたい本質的な要素に注意を向けさせることをゴールにしており、次の3つのポイントがあります。

・知覚的喚起(目をパッチリ開けさせる)
・探究心の喚起(好奇心を大切にする)

・変化性(マンネリを避ける)

ゲーミフィケーションと紐づけて考えると、ゲーム要素やゲームメカニクス、ゲーム的思考法を使う指導は、そもそも新しいアプローチであるため、注意の獲得に寄与します。

次に、関連性(Relevance)についてです。

関連性(Relevance)は、学習者に良い結果に繋がりそう、やる価値がありそうという気にさせることをゴールにしており、次の3つのポイントがあります。

・親しみやすさ(自分の味つけにさせる)
・目的指向性(目標を目指させる)
・動機との一致(プロセスを楽しませる)

ゲーミフィケーションと紐づけて考えると、ゲームは学習者に挑戦を仕掛け、ゲーム体験を通じ認知的な意思決定と選択を意識的に行わせることで、エンゲージメントを喚起・維持するため、関連性の獲得に寄与します。

そして、自信(Confidence)についてです。

自信(Confidence)は、失敗への恐れや不安を感じている学習者を学習に向かわせることをゴールにしており、次の3つのポイントがあります。

・学習欲求(ゴールインテープをはる)
・成功の機会(一歩ずつ確かめて進ませる)
・コントロールの個人化(自分でコントロールさせる)

ゲーミフィケーションと紐づけて考えると、ゲームは安全な環境にて明確に定義されたルールを前提に、有意義で重要な選択をするように学習者を促すため、自信の獲得に寄与します。

最後に、満足感 (Satisfaction)についてです。

満足感 (Satisfaction)は、学習者のやってよかったと思う気持ちを支援し、発展させることをゴールにしており、次の3つのポイントがあります。

・自然な結果(ムダに終わらせない)
・肯定的な結果(ほめて認める)
・公平さ(裏切らない)

ゲーミフィケーションと紐づけて考えると、ゲームは完全習得に向かう進歩を目に見える形で、証拠として学習者に提供するため、満足感の獲得に寄与します。

学習経験の質モデルへの接続

ここまで、ARCSモデルの紹介とゲーミフィケーションとの繋がりについて解説してきました。

改めて、学習のためのゲーミフィケーションが教材設計に応用されることで、ARCSモデルに自然と沿った形で学習意欲を高められます。

この土台があるからこそ、より高次の学習経験を目指すことができ、講師に過度に依存しない、安定した学びの提供を行える可能性が期待できます。

そのため、教材設計にゲーミフィケーションを導入する際は、その要素が効果的に入っているか、ARCSモデルのステップに沿っているかを点検しつつ、全体設計を行う必要があるといえます。

まとめ

さて、今月は「学習教材のゲーミフィケーション」というテーマで、ゲーミフィケーションやARCSモデルについて紹介しました。

ARCSモデルは教材設計における基本の考え方ですが、ゲーミフィケーションと紐づけて設計すると、スムーズに考えることができます。

学び方はさまざまですが、ゲーミフィケーションの導入もその一つとして、学習者の学びたさを高めるために、ぜひ検討いただければと思います。

本記事が、皆さまの今後のゲーム学習に対する考えや学びへのヒントになれば幸いです。

もっと詳しく知りたい方へ

鈴木克明  監修 /  市川尚・根本淳子 編著(2016)インストラクショナルデザインの道具箱101

C.M.ライゲルース・B.J.ビーティ・R.D.マイヤーズ 編 / 鈴木克明  監訳(2020)学習者中心の教育を実現する インストラクショナルデザイン理論とモデル


筆者:大空 理人
東京大学大学院 学際情報学府 修士課程。Ludix Labにて、人の学びや成長につながる「楽しい経験」を創り出す学習コンテンツの設計や教育プログラムのデザイン方法論を研究。また大学院進学と同時に、株式会社NEXERAに新卒入社し、クリエイターとしてビジネスゲーム及び研修カリキュラムの企画、開発、運用を行う。2023年に『ELSI Game Lab』を設立。科学技術と社会の接続・課題解決にも努める。

東京大学 ELSI Game Lab:@ELSIGamelab
大空 理人:@masato_edut

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