細かな計画に入る前にまずは方向性を決めよう 私たちは目の前の具体的なことに目を奪われがちだ
世の中には計画が得意な人もいれば、苦手な人もいます。生まれ持った違いがあるのかもしれませんが、ことあるごとにこの違いについて考えてきました。
その都度いろいろな気づきがありましたが、その中には “コレだ!” と思うものもありました。
それがこれです。
「計画が得意な人は細かな計画に入る前にまずは全体を俯瞰し、戦略や方向性を決めている。計画が苦手な人はいきなり細かな計画を作成しようとする」
数年前、この気づきを「実行に効く計画の技術(翔泳社)」という本に著しました。
私は時折、プロジェクトマネジメント力の底上げをお手伝いすることがあります。以前に書いたかもしれませんが、この活動ではMS-Projectというマイクロソフトが提供するプロジェクトマネジメント支援ツールを活用し、まずはWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)の詳細化から始めます。プロジェクト単位に開催する計画作成や進捗会議の場には、さまざまなタイプのプロジェクトマネージャやプロジェクトリーダーが集います。その中には計画が得意な人も、苦手な人もいます。たまには「どこから手を付けたらいいのかわからない」と途方に暮れる人もいます。
そんなとき、私はこう促します。
私 「プロジェクトがスタートしたら、まずは何をしますか?」
相手 「まずは要求仕様を整理します」
私 「そうですよね。要求仕様を整理するために、まずは何をしますか?」
相手 「提案書を読み直します。そして、お客様からの要求を改めて確認します」
私 「それから?」
相手 「要求を表形式に整理し、それぞれに実現方針を書き出します」
こんな会話が、プロジェクト計画を作成するための第一歩です。
しかし、このスタートアップは正しくありません。なぜなら、この方法はプロジェクトの全体を俯瞰することなく、相手をいきなり細かな計画に導いているわけで、これは計画下手のアプローチだからです。計画の苦手な人を計画下手のアプローチに導いたのでは、元も子もありません。
実は、それを承知の上で、私はこの計画下手のアプローチを使うことがよくありました。
そこには、こんな理由がありました。
計画が苦手な人の多くは計画が嫌いで、心の中では計画を軽視しています。そんな人たちに「まずは全体を俯瞰し、戦略や方向性を決めようよ」と話しかけたところで、それに共感してくれるでしょうか。答えは “ノー” です。時には反発し、以前にも増して計画嫌いになる人もいるでしょう。
そこで私は考えました。
「細かな計画を作り始めると、戦略や方針が決まっていないことが障害となって、計画作成が前に進まなくなる。この体験を通じて、あらかじめプロジェクト全体を俯瞰しておくことの大切さに気づいてもらおう」
自覚のない患者に苦い薬を飲ませようとすると反発します。しかし、症状に苦しんでいる人なら、苦い薬であっても進んで飲んでくれます。戦略や方針が決まっていなくて困っているときに「そんなことなら、大回りしているように感じるかもしれないけど、最初に戻って戦略や方針について議論しようよ」と声を掛けるのです。
たいていの場合、この方法は功を奏します。
私 「まずは何が決まっていなければならないのですか?」
相手 「お客様の要求が確定していなければなりません」
私 「それはすでに確定しているのですか?」
相手 「要求は明らかなのですが、要求に対する実現方針が明らかになっていません」
私 「要求に対する実現方針が決まっていないと、要求仕様を整理したところで、そこから先には進めませんね。そもそもそれらの要求仕様を受け入れていいのですか?」
相手 「問題はソコです。いつもソコが最後まではっきりしないのです。だから計画を立てたところで、計画通りには事が運ばないのです。計画してもムダだと思ってしまうのです」
私 「それは、計画がムダなのではなく、要求に対する実現方針を最初に議論していないことが問題なのではないですか。計画してもしなくても、プロジェクトを進める中でその問題は表面化するのではないですか」
相手 「まさにその通りです」
これは、プロジェクトマネジメントに限った話ではありません。
事業計画を立てるにしても、自分たちの強み(=コアコンピタンス)を理解したり、事業戦略を練ったり、ターゲットとする市場セグメントを決定したりしておかなければ話が前に進みません。
計画の如何に関わらず、私たちはとかく、目の前にある具体的なところから手を付けがちなのです。
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