競争優位性を考える(1) 差別化要因、KBF、コア・コンピタンスの違いを理解する

他社が簡単に真似できない方法や戦略を実行する能力を指す「競争優位性」は、ビジネスの現場でよく議論になるテーマです。
競争優位性の議論では、「差別化要因」「KBF(Key Buying Factors)」「コア・コンピタンス」といったキーワードもしばしば使われますが、多くの人がその相違点を意識せずに使っているようです。
そこで今回は、それぞれのキーワードの意味を考えましょう。

差別化要因とは読んで字のごとく、競合を差別化する際に鍵となる要因です。
「差別」は相手を見下す表現なので、差別化要因とは「自らが競合より優位であると考えている点」を意味すると考えていいでしょう。
差別化要因は競争優位性に直結しますが、それ以上に深い意味はありません。

これに対して、KBFは単なる差別化要因ではありません。購入先決定に強い影響力のある要因、つまり「お客様が自分たちの商品を選ぶ決め手」という意味が含まれます。
差別化要因が自分目線のプロダクトアウト的な発想であるのに対し、KBFは顧客目線のソリューションセリング的な発想なのです。

コア・コンピタンスには、KBFにさらに時間軸の要素が加わります。すなわち、「お客様が自分たちの商品を選ぶ決め手」を競合が真似するのにかかる時間が長い時間が問題になります。この時間が長い場合にコア・コンピタンスとなるのです。
通常、競合がコア・コンピタンスを真似するのは容易ではありません。

例えば、継続的な努力による漸進的な性能向上は、同じような努力を続ける競合他社によって容易に真似される可能性があります。しかし、その性能向上が日本人の職人気質に支えられている場合、海外の競合はなかなか真似できません。
このような場合、職人気質がコア・コンピタンスとなります。

競争優位性を議論するにあたっては、議論の席上にある競争優位の源泉が、差別化要因なのか、KBFなのか、コア・コンピタンスなのかを意識する必要があります。そのためには、目線(自分目線なのか、顧客目線なのか)と時間軸で議論を構造化して考えなければなりません。それを参加者で共有すれば、議論は目指すゴールへと近づいていくでしょう。

以前に、こんな議論がありました。

A氏 「最近では、性能はどこも似たり寄ったりです」
B氏 「価格競争に巻き込まれると、わが社に勝ち目はありません」
私 「これからどのように事業を成長させるおつもりですか?」
A氏 「新興勢力の勢いがすごくて、うちは防戦一方です」
私 「差別化の見通しはついているのですか?」
B氏 「うちには、これといった強みがあるわけではありません」
A氏 「さっきも言ったように、機能や性能は、いまや差別化要因ではないのです」
B氏 「うちの性能は業界トップクラスですが、3年前ならいざ知らず、今は性能にお金を払 ってくれるお客様は多くはありません」
私 「KBFというのがありまして、これは『お客様が購入先を選ぶ決め手』のことです。こ の業界では、KBFはなんなのでしょうか?」
A氏 「差別化要因ではないのですね。それは考えたことなかったです。以前なら性能だった のですが…」
B氏 「…」
私 「お客様での商品の使われ方や、お客様の『片づけたい用事』に着目してみると何か ヒントがあるかもしれません」
A氏 「信頼感ですかね。うちはいわゆるB2B(企業同士の取引き)ですが、うちの商品が不 具合を出すと、お客様でもリコール騒動になってしまいます」
私 「業界最大手のX社は、確か皆さんの大切なお客様でしたね」
A氏 「そうですが、最近では新興勢力が入り込もうと躍起になっていると聞きます」
私 「皆さんとX社の取引実績や信頼関係こそ、コア・コンピタンスです。X社との信頼関 係は、他社には簡単に真似できません。そこにもっと力を入れるべきです」
B氏 「競争優位性って、機能や性能、価格などでなくてもいいのですか?」
私 「もちろんです。X社との信頼関係をさらに強化するような働きかけをしましょう。新 興勢力には実績が圧倒的に不足しています」
A氏 「なるほど、確かにその通りです」
私 「そして、X社との取引実績を武器としてもっとうまく活用すべきです。X社の動向は 他社も気にしているはずです。そのX社が皆さんを長年にわたり選び続けているという ことには、皆さんが思っている以上にインパクトがあります」
B氏 「これまで、そんなことで差別化できるとは思ってもいませんでした」

このように、差別化要因、KBF、コア・コンピタンスを意識して使い分けることができれば、ブレイクスルーのヒントが見つかるかもしれません。

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