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#自由詩

白き路

白き路

雪原と紛う
白妙の砂漠
砂粒はすべて
諦念の化石である

氷河のように
永い時をかけ
生の淵へむけ
悠然と流れ往く

空と地平線の狭間
一羽の鳥が
白い翼を瞬かせ
光の線を引いた

逃げ水を追い
虹の都を夢見
少女たちは旅を続ける

この世界が
巨大な砂時計であると
知りながら
#詩 #散文詩 #自由詩 #文学 #哲学 #小説

夜明けのゴンドラ

夜明けのゴンドラ

幽かな波音に呼び覚まされた
昨夜から降り続いた雨音はなく、
月の女神によって
夜気のヴェールがかけられた世界は
静寂のエーテルで満ちていた

満月の明かりが室内を朧げに照らし、
天井には光の波紋が仄かに揺らめく

レースのカーテンを開けると、
潮騒と海の香りが、恍惚を伴って
わたしを抱擁した
髪の、耳の、あらゆる隙間に
潮の甘い風が指をすべらせる

わたしは出窓に腰掛け、
ネグリジェの裾を垂

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忘れられた青たち

忘れられた青たち

薄青いステンド硝子が、
寂寞としたサンルームに水面のような光を映す。
その水源は、此処から遥か遠くであった。

立ち枯れた観葉植物は隅で静かに眠り、
埃をかぶった八角形のテーブルと椅子は、
あの女(ひと)が立ち去ったときのまま
何も言わずに佇んでいる。
こちらに向いたままの椅子が、なにかを言おうとして押し黙っているように思えて、わたしはたまらず目を逸らした。

邸の部屋から部屋へうつるたび、

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開花

開花

一日に一度 あなたはわたしにキスを送る
あなたが額に口づけると、
そこに真っ赤な芥子が咲いた
左耳のたぶには金木犀
ほほには女郎花
首すじには蔦が絡みつき
乳房は勿忘草で覆われた
腹には静かな海色の紫陽花が咲いたが、
それはやがて宵の紫色に変わった

最後にあなたは左の手をとり、なか指に口づけた
すると大きな白い百合が二輪
気だるげに頭をもたげた

指輪には重すぎたが
その香りはどこまでも濃く

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