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とある惣菜店で出会ったエビカツが好き過ぎて、友人に話したら、そのお母さんまで虜に…生きる活力を与えてくれる食べ物の話

私は、エビが大好きである。ところが、どこでも売ってるエビカツはそんなに好きじゃない。それは私の苦手な食品の味(レシピ不明のため、詳細知らんけど)がするので、あまり好き好んで食べない。

しかし、若い時にある惣菜店でそのエビカツを見た時に、釘付けになってしまった。なんて美味しそうなんだろう…そして断面図からして、私が普段巷で見かけるエビカツとは違っていた。

必ず付けてくれる選べる2種類のソースのうち、トマトソースを選択して、たっぷりつけて食べる。するとこれまた単品と違った美味しさがあり、ソース類が苦手な私でもイケるのである。

当時も結構なお値段(最近はもっとお値段アップしているが)をしており、買うかどうか、いつも随分私なりに悩むが、この系列店でしか買えず、どこでも売っているわけではない。

初めて食べた時、もう目がハートになり、アニメーションのようにグルグルと周りながら恍惚の世界に身を投じてしまったように感じた。

「何やコレ、美味しすぎて、脳みそとろけそう…!」と思った記憶がある。

両親や夫も大した反応はないのだが、私一人がハマってしまい、たまたまそこへ行くことがあると、毎度ではないが、自分で買ったり、母にねだったりして、エビカツを食べては、一時的に黄泉の国へ行きそうになっていたのである。

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昨年、お腹の手術をした際に、療養のため実家に帰るので両親といたのだが、その店が病院の近くにあり、「悪いけど、あのエビカツの店に寄ってほしい。そうでないと死んでも死にきれない!!」と懇願して寄ってもらった。

そもそも生きるために手術をしているのに、自分でもおかしいと思える“支離滅裂な理論”を展開しながら、両親に付き添ってもらって、その店に寄った。

ショーケースを見ると、どこにもエビカツの姿がない。

「あの…エビカツあります?」
「申し訳ございません。今日はもうないんです。明日ならあるんですが…。」

(何ですと?今日に限ってないとはどういうことだ?!)と一瞬にして思った。何しろ私はこの日退院したばかりで、体調的にも医師からも運転は止められていた。…つまり今の私に“明日のエビカツはない”のである。

この店は、実家から車か、数少ないバスを乗らないと行くことができないので、それだけ私にとって大打撃だったのである。ちなみにこの時点では父しか運転できる人がおらず、仕事をしているため、いつでも買いにはいけなかった。

「あ、そうですか…。残念ですが、明日は来れないので、またの機会に寄ります。」といって、後ろ髪引かれまくりながら帰ったのである。

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それからだいぶん時が経ち、普通の生活を送られるようになってから、友人が街の中心部に用事で出かけた帰りに遊びにくることになった。

「何か、買っていこか?」という問いに、即座に「申し訳ないですが、◯◯に寄ることがあったら、エビカツを買って来て欲しいんですが。お願いできますかね?」
「じゃあ、見てくるね。」と言って、当日待つことにした。

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当日、彼女は他のものも買ってきてくれた上に、例のエビカツを5切れ買ってきてくれた。

「らびっとさんのことやから、一度に2つ位食べるんかと思ってさ。」

ちなみに大概、大食い系の私ですら、一つで満足感がスゴイので、それはあり得なかった。しかし、彼女は店はよく知っていたが、このエビカツのことを知らなかったので、どういうものなのか、予測できなかったのである。

「いやぁ、さすがの私も一つでお腹に来ますよ。ご存じないなら分からないですよね。それでこのエビカツ、いくらしました?」

それは私の予想以上の金額だった。

「これは私が頼んだものですし、Jさんに払わすわけにはいけません!自分の分は払いますし、今日2人で食べて気に入ったら、余ったらお母さんと一緒に食べて下さい。」と言って、そうしてもらった。

2人で食べても、Jさんは「こんなん、あるんやね。らびっとさんに聞くまで知らんかったわ。高いし、そこまで興味持ってなかったかもしれない。でもおいしいね!」と喜んでくれ、一部お持ち帰りしてもらった。

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それから数日後、Jさんと電話した時に、「エビカツ、お母さん食べられたんですか?いかがでした?」と聞いてみると、お母さんはとても喜んで食べてらしたらしい。

ちなみにJさんのお母さんは80代後半で、様々な病をされ、胃がなく、半身不随で、彼女が介護していた。しかしお母さんは医師からも「胃がなくても少し口から食べられるようになりますよ。」と言われた通り、胃ろう、腸ろうなどしながら、ほんの少し、口から食べられるようになっていた。

そのため、Jさんはいつもお母さんが食べやすいように小さく切って、本人の意向、量を聞いて、食事の用意をしているのである。

しかし、エビカツなんて結構重たいフライものを、お母さんが食べることができるのか、私は心配していた。

「それが、えらい気に入ってもてさぁ…。小さくは切ったけど、丸ごと一つ食べたのよ!すっごい喜んでたわ。」
「え?食べられたんですか?すごい!!体調大丈夫なんですか?」
「今のところはね。」

スゴイ、スゴすぎる!!
私はあまり詳しくないのだが、胃がない上に、胃ろう、腸ろうをして、あの私でも一回につき一つしか食べられないエビカツを、いくら小さく切り分けているとはいえ、丸一個食べられている。しかも大変気に入られ喜んでおられる。

「いやぁ、スゴイですねぇ。でも良かったですよ。喜んで下さって食べられたのなら。」
「らびっとさんのお陰よ。」

電話を切った後も、私は一人でしばらく感動していた。

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それから、お母さんはJさんがその惣菜屋に行く機会ができる度に目をキラキラさせながら「いる!!」と仰って、楽しみになさってるらしい。

偶然、私の入院していた病院にも定期的に来られることがあるので、その診察を受けている間に、Jさんはエビカツを弟さん家族分も合わせて買うのが、マストになった。

お母さんは、最初エビカツの値段をご存知なかったのだが、途中で知らせてから、その時はビックリしたそうだが、「毎日は無理だし、どこでも売ってないからそうそう買えないんやから、たまに美味しいもの食べてもいいやんね。」とJさんが言うと、頷いていらしたらしい。

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そんなある日、Jさんと話していたら、
「デイサービスの人に、聞いたんやけどさ。母が『◯◯さん、今日何が食べ物で一番好きなんですか?』ってデイの人に聞かれて、『エ・ビ・カ・ツ』って答えたらしい。」と話してくれた。

「それって、薬師丸ひろ子のセーラー服と機関銃状態じゃないですか!『カ・イ・カ・ン』ってねぇ。」

「そうやねん。何か嬉しそうに答えてたみたい。それでデイサービスのお兄ちゃんたち(2人)が『エビカツパーティしましょう!!』って言ってたけど、あのエビカツいくらすると思ってるんかしら?」

「第一、そんなパーティーするほど在庫あるかどうかも分かりませんよ?私、退院した時なかったんですから。」

と言って、大笑いしていた。

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そして彼女は後日、エビカツを買う機会があり、たまたまデイサービスのお兄さん達に会ったら渡そうとして用意してたら、偶然一人来られたらしい。

「それでその人に渡して、もう一人の人がいたら渡してくれる?って言って2つ渡したんよ。」
「Jさん、太っ腹ですねぇ~。」
「まぁ、お世話になってるし、あんなに盛り上がってたから、一度味見させてあげたいと思ってね。そしたら後日また会ったけど、何も言わなかったから、口に合わなかったのかな?って思ってたら、玄関出る間際に『いやぁ、この間はありがとうございました!とっても美味しかったです!!』って言われたんよ。」

「あ、あのエビカツの良さを分かってくれたんですね?」

「そうみたい。で、もう一人の人に渡したの?って聞いたら、『あの日、その人は帰ろうとしてたんですが、僕一人だけで食べるの申し訳ないって思って、必死で呼び止めて、2人で食べたんですよ。その人もめっちゃ美味しい!!って喜んでました。』ってさ。」

「じゃぁ、Jさんの気持ちが伝わって、2人に食べてもらえたんですね!良かったじゃないですか!」

「そうやね。買った甲斐があったわね。」

とエビカツ談義に話の花を咲かせた。

ちなみに最近お母さんは、続けて同じものを食べるのが苦手にも関わらず、2日続けてエビカツを各一個ずつ口にされたということで、驚愕したところである。

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Jさんのお母さんはお姑さん…つまりJさんの父方のおばあちゃんが3桁まで長生きされたそうで、それを目標にされているらしい。

いくつになっても、名前を聞いただけで目をキラキラさせるほど、楽しみなもの、美味しいものがあるって、とても素晴らしいことだと思う。私もボロボロな身体ながら、歳を取ってもJさんのお母さんのようになれたらいいなと思う。

介護をしているJさんは色々大変な思いもされてるが、彼女も親思いな人なので、なんだかんだ言っても、とても大切に面倒をみていらっしゃる。そのことも素晴らしいし、本当に尊敬する。

エビカツ…この食べ物のお陰で、長生きできるよう頑張る人や、癒やされる人、嬉しい人、楽しいと思っている人がいることがステキではないか!

そのことを偶然とはいえ、友人に話して、友人の周りでエビカツが大活躍しているのを見ると、私は伝えられてよかったと本当に思う。

ダイエットしないといけない、らびっとだが、また私自身そこへ行く機会ができて、在庫があるならぜひまた買って食べたいと、思い巡らすのであった。



#創作大賞2024 #エッセイ部門

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