ライフシフト大学学長 藤田英樹

パナソニック、電機・電子・情報通信産業経営者連盟、などを経て、2022年7月 ライフシフト大学学長に就任。 自らの経験と研究に基づく現場発のグローバル人材育成、組織開発、リベラルアーツ教育(特に日本の文化の源流、歴史、宗教、哲学等)を専門とする。

ライフシフト大学学長 藤田英樹

パナソニック、電機・電子・情報通信産業経営者連盟、などを経て、2022年7月 ライフシフト大学学長に就任。 自らの経験と研究に基づく現場発のグローバル人材育成、組織開発、リベラルアーツ教育(特に日本の文化の源流、歴史、宗教、哲学等)を専門とする。

最近の記事

No.27 とこわか 2024年 11月

「いにしへの姿のままにあらためぬ 神のやしろぞたふとかりける」(明治天皇御製) 明治時代後期、当時の芳川顕正内務大臣と田中光顕宮内大臣の二人が、伊勢神宮の式年遷宮に必要な御用材の不足を理由に、土台に礎石を置き、コンクリートで固めれば二百年は保つことが出来ると、明治天皇に上奏したところ、明治天皇はこの上奏を退け、質素な造営に祖宗建国の姿を継承すべしと、諭(さと)され、二十年ごとに斎行される式年遷宮の大切さを説いたと伝わっています。七世紀終わりの天武天皇・持統天皇の御代以来130

    • No.26 纏い 2024年 10月 

      「ひとはいつ教え込まれたのか (満たされてはいけない 立ち止まってはならない)言い聞かせてひとり歩いた。 それでも空は告げにくる。 ひとは満ち足りてしまうことが怖いだけではないかと。」 (「空をまとう」文月悠光) 中原中也賞受賞の詩集『適切な世界の適切ならざる私』からの引用。 我々、人間は独りで生まれ、独りで死を迎えるわけですが、その間、親・兄弟・友人を始めたくさんの人と関わり、たくさんの人から恩恵を受け、たくさんの人と利害を持ちつつ、社会的動物として生きていくわけです。 

      • No.25  風が吹くまま 2024年 9月

        「何かを求めて振りかえっても そこにはただ風が吹いているだけ 振りかえらずただ一人一歩ずつ 振りかえらず泣かないで歩くんだ」(はしだのりひことシューベルツの「風」 1969年より) 北山修の作詞ですが、夏から秋へと移ろうこの季節に胸に沁みる歌詞です。 北山修は加藤和彦らと共にザ・フォーク・クルセダーズを結成し、「戦争を知らない子供たち」「あの素晴らしい愛をもう一度」「花嫁」「白い色は恋人の色」などの歌をひっさげて60年代から70年代の音楽シーンに旋風を巻き起こした関西・京都

        • No.24 虹 2024年 8月

          「太陽の光に守られて 仲よく学び元気に通う 虹の島ハワイ、レインボー、レインボー♪」 ハワイ・レインボー学園校歌より。私は1994~1997年の3年間オアフ島に仕事で赴任しており、ホノルルのカイムキにある日本語補習校「レインボー学園」に様々な形で関わらせていただきました。日本人子弟や日系人の小中学生約500名が賑やかに集う学びの舎でありました。私が初めてハワイの土を踏んだのは、大学4年生のまさに8月。 空港に降りたったとたん、どこからともなくプルメリアの香が漂ってきたことを今

          No.23 江戸かたぎ 2024年 7月

          「江戸っ子の基本は三無い。 持たない、出世しない、悩まない。」 杉浦日向子(エッセイスト、江戸研究家 1958~2005) 先日、深川江戸資料館を訪ね、この言葉を実感した。 長屋の1軒の広さは、いわゆる9尺x2間か3間の3坪か4.5坪。 「火事と喧嘩は江戸の華」や「宵越しの銭はもたねぇ」の言葉どおり、いざとなったら風呂敷一つ、多くても大八車で積み出せる程度の所帯であった。身軽な江戸の人々を支えていたのは、今風に言えば、見事な共生社会であり、循環型社会のインフラであった。江戸の

          No.22 リベラル・アーツ 2024年 6月

          「思索、美、倫理の尊厳は、永遠の理想の価値である」 ベネデット・クローチェ(イタリアの哲学者・歴史学者 1866~1952  「利己的な理由ではない愛を存分に注いだので、まだ私には愛の光が見える」 ジョン・ラスキン(英国の社会思想家・美術評論家 1819~1900)リベラルアーツの本質は、「美」であり、「利他の心」であると私は考えています。リベラル・アーツを学ぶことに魅かれる最大の理由は、そこに「愛の光」を見出し続けることができるからです。  私は、ライフシフト大学の講義や

          No.22 リベラル・アーツ 2024年 6月

          No.21 運 2024年 5月藤田英樹

          「時(とき)は今 天(あめ)が下知る 五月かな」明智光秀 古今東西の歴史研究に興味が尽きないこの私が、5月を迎えるといつも思い出す句です。 天正10年(1582年)、本能寺の変(6月2日)の起きる約一週間前の5月24日に京都の愛宕神社で開催された連歌会に、居城の丹波亀山城から出かけた光秀が詠んだ句です。 この「時(とき)」が、明智光秀の本姓である「土岐」と掛けられ、「時は今、土岐氏である私が天下を治める五月であることよ」という隠れた思いを表した句だったのではないか、と言われて

          No.20 直(すなお)2024年 4月藤田英樹

          「春は花 夏はほととぎす 秋は月 冬雪さえて冷(すず)しかりけり」 道元禅師 この言葉は曹洞宗開祖の道元が永平寺の夜空を眺めていて詠われた伝えられます。日本の四季、自然の美をありのまま、素直に賞でる気持ちがそのまま仏のこころに通じることを表して、その言葉自体が禅を説いています。 禅ではこれを「見性成仏(けんしょうじょうぶつ)」と言い、客体(見る対象)を通して、自分の身に備わっている「仏」としての真の性質を悟ることと解きます。 私はもっとシンプルに考えて、「今を生きる」ことを大

          No.20 直(すなお)2024年 4月藤田英樹

          No.19 粋(いき)2024年 3月 藤田 英樹

          「梅は匂(にほ)いよ 木立(こだち)はいらぬ 人はこころよ 姿はいらぬ」 隆達小唄 (高三隆達(たかさぶ りゅうたつ)堺の僧 小唄・隆達節の創始者 1527~1611) 「花」と言えば、古来、中国では「桃」、日本では中世までは「花」と言えば「梅」、近世以降には「桜」と変遷してきた歴史があります。 どちらかと言えば、雅で高貴な風情のある桃や梅が、宮廷政治、王朝時代には似合っていましたが、武士の時代、とりわけ江戸期になると、咲いては 直ぐに散る桜が、「現世に執着せず、義のため

          No.19 粋(いき)2024年 3月 藤田 英樹

          No.18 風 2024年 2月 藤田 英樹

          「ひとつぶの砂に ひとつの世界を見、一輪の野の花に ひとつの天国を見、てのひらに無限を載せ、ひとときのうちに永遠を感じる」 ウィリアム・ブレイク(英国の詩人 1757~1827) 映画「博士の愛した数式」の最後にも登場する「無垢の予兆」と題した詩の一節です。 仏教で言う 「一即一切 一切一即(いっそくいっさい いっさいいっそく)」(華厳五教章) どちらも、「個と世界」、「一瞬と永遠」はひとつであり、つながっている、一如である と唱えます。 直観的にはなんとなく分かるこ

          No.18 風 2024年 2月 藤田 英樹

          No.17 波 2024年1月

          「春の海 ひねもすのたりのたりかな」 与謝蕪村  誰もが知る蕪村の代表句。本当は春の句ですが、私は冬の海をじっと眺めていてこの句が心に思い浮かんだのです。 正月休みに久しぶりに育った街 鎌倉を訪ね、稲村ケ崎から七里ガ浜をのんびり歩き、茫洋とした海と、寄せては返す波を眺めつつ、来し方行く末に思いを馳せ、たゆたう時間。 真なるものからの問いかけに耳をすます そんな心境です。  昨秋にふと訪れた京都で西本願寺を訪ね、その堂に掲げられた扁額に書かれていた「見真」の二文字が爾来ずっ

          No.16 星 2023年12月

          「冬の夜の 星君なりき 一つをば 云うにはあらず ことごとく皆」与謝野晶子(1878-1942) なんともはや浪漫と抒情に溢れる歌です。「亡くなったいとしのあなたは一つの星に留まらず満天の星々すべてがあなたなのです」男たるもの愛する女性からこのように謳われてみたいものですが、当の与謝野鉄幹はこの詩集「白桜集」が発表される7年前にこの世を去っているので、果たしてこの晶子の熱き大きな思いを面映ゆく感じているやもしれません。この「満天の星」全てに姿を変えるという考えは、私的には、死

          No.15 山 2023年11月

          「山のあなたの空遠く 『幸い』住むと人のいふ。 噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて、涙さしぐみ、かへりきぬ。 山のあなたになほ遠く 『幸い』住むと人のいふ」 ドイツの詩人カール・ブッセの詩、上田敏の名訳(1905年 海潮音に掲載)です。「山の遠くの彼方に行けば幸福が住むと聞き、大切な人と一緒に幸福を探しに行ってみたが、どうしても見つからず、涙を浮かべて帰ってきた。求める幸福は山のもっと遠い向こうにあると人は言うのだ」これに対し、「幸福はどこにあるのか」を問う同じ欧州の童話

          No.14 塔 2023年10月

          「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひとひらの雲」 中学時代から毎年のように奈良に通い続けてきた私の好きな歌、明治の歌人佐々木信綱の代表作でもあります。ここに歌われた塔は、奈良・西の京の薬師寺の伽藍の中に聳える東塔です。西塔は1528年戦火により焼失し1981年(昭和56年)に再建されましたが、東塔は、創建時から唯一残る建物で、730年(天平2年)の建立ゆえ、実に1300年の歴史をその姿に刻んでいるのです。 実は三重の塔にも関わらず、間に裳階(もこし)が入り優美な五重の塔に

          No.13 雲 2023年9月

          「白雲に心を乗せてゆくらくら秋の海原思ひわたらむ」怪談・奇談小説『 雨月物語』 の著者として有名な上田秋成(1734 18091809)が詠んだ歌です。江戸中期の歌とはとても思えないような、秋の澄み渡る情景と、作者の心象風景が見事にマッチした歌だと思いませんか?「ゆくらくら」とは、「ゆっくりゆっくり」の意です。日本人にとって「秋」の季節から連想する一番の光景と言えば、やはり青く広い空と、そこに浮かぶ白い雲ではないでしょうか?澄み渡る透徹さこそ、秋の新骨頂であり、それに繋がる様

          No12輪廻転生 2023年8月

          私の好きなユーミンのアルバムに“リインカネーション”があります。 まさに「輪廻転生」に触発されて創った14番目のアルバムで、そこに入っている珠玉の曲は、名曲「星空の誘惑」などいずれも甲乙つけがたいのですが、私は「ずっとそばに」が好きです。『たなびく夕映えの雲 私に涙あふれさせてくれた代わりに そっと呼んで 辛いならば 時をかけて行くわ。君らしいフォームでゆっくりと泳いで ふりそそぐ8月の雨 私をはだしで笑わせてくれた』 この歌詞、この曲を昔、ユーミンの8月恒例 逗子マリーナ