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No.25 風が吹くまま 2024年 9月
「何かを求めて振りかえっても そこにはただ風が吹いているだけ 振りかえらずただ一人一歩ずつ 振りかえらず泣かないで歩くんだ」(はしだのりひことシューベルツの「風」 1969年より)
北山修の作詞ですが、夏から秋へと移ろうこの季節に胸に沁みる歌詞です。 北山修は加藤和彦らと共にザ・フォーク・クルセダーズを結成し、「戦争を知らない子供たち」「あの素晴らしい愛をもう一度」「花嫁」「白い色は恋人の色」などの歌をひっさげて60年代から70年代の音楽シーンに旋風を巻き起こした関西・京都フォークブームの中心人物でした。
一方その後半生はあまり知られてはいませんが、精神科医・臨床心理学者として活躍し、九州大学の名誉教授や白鷗大学の学長を務めています。まさにパラレルワーク、パラレルライフを送ってきたライフシフトの達人でもあります。 そこには、無手勝流で自然体に生きてきた「風にたおやかに揺れる柳」のような生き方が垣間見れます。 そして尽きせぬ「人間への興味」「生きることへの愛」を感じます。 彼が歌により自己を表現し、愛や別れや反戦やアングラを静かに唱えていたのは終戦後ちょうど四半世紀を経た日本が高度経済成長の真っ只中にある頃だったのですね。 そして私たちはバブルが崩壊し、21世紀に突入し、「失われた〇〇年」と呪文を唱えながら、もう25年・四半世紀も経ちつつあることに愕然ともするわけです。 後ろを見ても、「ただ風が吹いているだけ」、 だから「風を読む」ことに汲々とすることはやめて、野生の五感を取り戻し、風が吹くまま、風に乗って訪れる「縁」を迎え、風に乗って「運」を未来に運ぶ、そして時々自分も一陣の風を起こす、そんな心構えが大切だと思っているわけです。
今年、盟友だった加藤和彦へのオマージュフィルム「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」が封切られ、見てきました。 彼のアルバムで一番好きだった「パパ・ヘミングウェイ」の中のお気に入りの曲に「ジョージタウン」があります。 その中の一節「Sail her down to Georgetown 海に抱かれて 時を忘れて ただよう moon light sail かすかな風を受けて ただ風まかせ きしむマストだけが この世の出来ごと」をあらためて口ずさむと、カリブ海の風を切って、ガイアナの首都を目指す鼓動が甦ります。 今この時をしっかり生きるという喜びに向き合う力が湧いてきます。
※写真は北山修のアルバムのジャケット写真です
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