No.16 星 2023年12月
「冬の夜の 星君なりき 一つをば 云うにはあらず ことごとく皆」与謝野晶子(1878-1942) なんともはや浪漫と抒情に溢れる歌です。「亡くなったいとしのあなたは一つの星に留まらず満天の星々すべてがあなたなのです」男たるもの愛する女性からこのように謳われてみたいものですが、当の与謝野鉄幹はこの詩集「白桜集」が発表される7年前にこの世を去っているので、果たしてこの晶子の熱き大きな思いを面映ゆく感じているやもしれません。この「満天の星」全てに姿を変えるという考えは、私的には、死の先にとても雄渾の安心感と幸福感が続くような感覚をもたらします。
古来、ひとつの星になぞらえてきたことの多い、祈りの対象としての存在、そう、例えば夏川りみが歌った「涙そうそう」の「一番星」や、今井美樹の名曲「PRIDE」に登場する「南の一つ星」のような存在とは異なり、くまなくそこにいて隠れているような、そして同時に覆いつくしているような存在としての星になれたらいいなと思うのです。むしろ目立たないところに星々の真骨頂があるのではと思うのです。
昔NHKで放映されていた「プロジェクトX 挑戦者たち」はご存知でしょうか? その主題歌が「地上の星」であり、中島みゆきが朗々と歌っていましたが、いまこの歌詞を改めて見てみると、歴史に名も無き、埋もれて目立たない一介の英雄たちを取り上げているテーマなわけですが、私は、「地上の星」になることすらことさら鼓舞したり、敢えて光を当てる必要はなく、静かな天の星々に昇華すればよいと思ってしまうのです。 輝かしい未来の舞台を思い描いて、人生をただのリハーサルのように過ごしてしまうのはたやすいし、ありがちなのです。 今はまだスキルを学び経験を積む段階だ、いつかもっと上達したらその時は成功できる、晴舞台に立てる、そう思っているうちに、人生の時間はあっという間に過ぎて行ってしまうのです。
オリバー・バークマンの「限りある時間の使い方」でも言っているように、シニアになる過程で「誰もがすべてを実は手探りでやっている」のだという事実を理解することはとても重要です。 誰もが自信満々でこなしているなんて実は幻であり、自信や経験がなくても、確信のないまま手探りで一歩踏み出すことこそ、「ほうき星」から「満天の星」へと変じる極意なのです。