No.22 リベラル・アーツ 2024年 6月
「思索、美、倫理の尊厳は、永遠の理想の価値である」 ベネデット・クローチェ(イタリアの哲学者・歴史学者 1866~1952 「利己的な理由ではない愛を存分に注いだので、まだ私には愛の光が見える」 ジョン・ラスキン(英国の社会思想家・美術評論家 1819~1900)リベラルアーツの本質は、「美」であり、「利他の心」であると私は考えています。リベラル・アーツを学ぶことに魅かれる最大の理由は、そこに「愛の光」を見出し続けることができるからです。
私は、ライフシフト大学の講義やeラーニングの教材でもリベラル・アーツについて教えたり、説いたりしていますが、より多くの人に「自らが体験した人間愛や感動を分かち合いたい」という思いが根源にあります。私の夢は、「過去の美しさと未来の美しさをつなぎあわせる」ことです。 歴史や哲学やアートに関心を持ち、なるべく深く理解し、拙いながらも伝えていきたいと思っているのは、この「過去の美しさと未来の美しさをつなぎあわせる」ことの素晴らしさを、よりたくさんの人が知ることで、世界は平和になり、ひとり一人の幸福感も増すと信じているからです。ここで言う「過去の美しさ」には、もちろん「過去の悲惨さや醜さや過ち」も含まれます。そういう瞬間や時代においても「真・善・美」を求め、「利他」を貫いた人たちが存在することを歴史は物語っています。「未来の美しさ」を創ることは、過去に生きた人々への証しでもあり、未来の世代への責任でもあります。 そしてもう一つ大切なことは、「利他」は深い自己洞察、限りない「利己」と重なっていることです。 「己(おのれ)」をどう活かすか、発揮するか、そこに利他への活路もあります。
最近、幕末の三舟(さんしゅう)の一人(他は勝海舟と高橋泥舟)、山岡鉄舟の一生を学ぶ機会がありました。 剣を磨き、座禅にとことん向き合い、肝(きも)を練りに練った、まさにLAST SAMURAIである鉄舟は、「学問や習い事、また善行は、名誉や利益を得るために行うのではなく、自分の心を磨いたり、誇れる生き方をするために行う」と述べています。今は亡き夭折の歴史作家、山本兼一が書いた山岡鉄舟の小説「命もいらず 名もいらず」はお勧めです。
最後にもう一度リベラル・アーツについて、森本あんり(東京女子大学学長、神学者)さんの言葉を借りて締め括りたいと思います。 「人間らしくあることが困難な状況にあって、なお人間らしさを失わずにいることは、簡単ではありません。人間をより人間らしく育てるのがリベラル・アーツなのです。」
※写真は、山岡鉄舟