のぶたか

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最近の記事

森進一『ホメロス物語』(岩波ジュニア新書、1984年)を読んで。

 本書はホメロスに興味を持つすべての読者に真っ先に読んでほしい一冊である。「怒りを歌えアキレウスよ」に始まるイリアス、そしてオデュッセウスの冒険譚は、プラトンのみならず現代哲学においても多々引き合いに出される大古典である。イリアスとオデュッセイアのどちらを先に読むべきか、それは本書からも明らかなようにイリアスからである。オデュッセイアについての入門書は久保正彰氏や中務哲郎氏のものがあり、充実しているものの、イリアスについての案内というのは案外少ない。そういった中でイリアス研究

    • 書見台の新定番?

       書見台探しに終止符を打つ商品が出たかもしれない。それはfromseedというメーカーのDr. Standである。書見台が出るとどうしても気になってしまい、また買ったのかと自分でも呆れていた。しばらく手持ちのいろいろな書見台と比べていて、ひょっとしたらこれは良いのかもしれないと思ったのでご紹介したいと思います。出たばかりの時にこれは良いとこどりの書見台が出たなと期待していたのですが、ちょっと使用感に気になる部分があり、自分なりに納得できるまで温めていました。  まずはどこが良

      • 古田徹也『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』』(角川選書、2019年)を読んで。

         本書は20世紀最大の哲学者に数えられるウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の入門書である。従来『論理哲学論考』の入門書は本書でもたびたび言及されている野矢茂樹氏の『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』くらいであった。いままで多数の分析哲学入門はあったものの、野矢茂樹氏の論考論以上に『論理哲学論考』への手堅い入門書はなく、その後に論考を精読する読者にとって得難い研究の手引きとなる内容をも蔵している。とはいえ野矢氏の論考論は『論理哲学論考』を岩波文庫で読み、それを理解

        • プラトン/朴一功・西尾浩二訳『エウテュプロン/ソクラテスの弁明/クリトン』(京都大学学術出版会〔西洋古典叢書〕、2017年)を読んで。

           プラトンの「ソクラテスの弁明」にはいくつもの翻訳がある。ところが「エウテュプロン」となるとその数は限られている。一世代前のプラトン全集の校訂者バーネットによる「エウテュプロン/ソクラテスの弁明/クリトン」を含むプラトン選集は、最初に読む古典ギリシア語原典の選集として長年親しまれてきた。その三作品を収録した邦訳はといえば、比較的手に入れやすいものとしては角川文庫の山本光雄訳と岩波プラトン全集の第一巻しかなかった。本書の刊行を以って、満を持して西洋古典叢書から「エウテュプロン」

        森進一『ホメロス物語』(岩波ジュニア新書、1984年)を読んで。

        • 書見台の新定番?

        • 古田徹也『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』』(角川選書、2019年)を読んで。

        • プラトン/朴一功・西尾浩二訳『エウテュプロン/ソクラテスの弁明/クリトン』(京都大学学術出版会〔西洋古典叢書〕、2017年)を読んで。

          おすすめの調べものツールについて

           前回に引き続き、勉強していく上で参考になるサイトや役立ちそうなツールを紹介していきたいと思います。  何か気になる人や思想が見つかった時にまず確かめるのがお勧めなのはコトバンクに収録されているニッポニカです。コトバンクにはブリタニカ国際大百科事典と世界大百科事典も収録されているので、併せて読むことをお勧めします。ニッポニカの特徴は押さえておくべき事実を中心に第一線で活躍する研究者が自らの名前でそれぞれの項目を執筆していることです。大きな項目であれば簡単な参考文献も付されて

          おすすめの調べものツールについて

          おすすめのポッドキャストについて

          今回のノートでは大学生のころに早く知りたかったあれこれを紹介してみたいと思います。論文を調べたりする時のツールやポッドキャストについて書き始めたのですが、書き始めたらそれなりの分量になったので今回はポッドキャストのみを紹介したいと思います。記事の中ではオリジナルのサイトを掲載していますが、以下に紹介するポッドキャストはiTunesやSpotifyなどの音楽配信サービスで探すことが出来るので、気になった方はご自分が使っているポータルから探してみてください。Spotifyのアプリ

          おすすめのポッドキャストについて

          ヴィクトール・フランクル/赤坂桃子訳『精神療法における意味の問題』(北大路書房、2016年)を読んで。

           本書はフランクル存命中に刊行された一巻選集である。フランクルの著作は膨大なものであり、ドイツ語でも英語でもその著作の全体を把握するのは容易ではない。フランクルの重要な著作でさえ、オリジナルの言語では手に入れにくい状態が見受けられる。私たちはともすれば当たり前に受け止めてしまうかも知れないが、日本で二つの出版社から著作集が組まれて容易に手にできるということ自体が特別なことと言えよう。本書のまえがきにおけるフランクルのホーボーゲン番号が必要かもしれないという指摘は誇張ではないの

          ヴィクトール・フランクル/赤坂桃子訳『精神療法における意味の問題』(北大路書房、2016年)を読んで。

          田中美知太郎『戦争と平和』(中公文庫、2024年)を読んで。

           私たちは戦争の時代を生きているのかもしれない。いま私たちの生活が直接に脅かされるという現実を目の当たりにしていなくとも、いつこの生活がなくなるとも知れないことを、各地で起こっている戦争の出来事を通してふと思わされるのである。田中美知太郎のエッセイ集『戦争と平和』を読んでいてその感をますます強くした。この本は昭和の保守の論客として知られていた田中美知太郎の姿を垣間見させてくれる一冊である。田中美知太郎の文章はエッセイであれ、講演であれ、古典研究であれ、読者をはっとさせる哲学的

          田中美知太郎『戦争と平和』(中公文庫、2024年)を読んで。

          クラウス・リーゼンフーバー/村井則夫編訳『中世哲学の射程』(平凡社ライブラリー、2023年)を読んで。

           本書はリーゼンフーバー氏の待望の一巻選集である。著者であるクラウス・リーゼンフーバー氏は日本における西洋中世哲学研究を牽引し続けた碩学である。その氏の仕事は『中世における自由と超越』『中世哲学の源流』『中世における理性と霊性』『近代哲学の根本問題』など数多くの大著にまとめられており、どれもA5版ないし菊版にして700頁を超える大作である。氏の研究の道程で発表された論考をまとめたそれらの大著は、体系的な構成によって書き記されたのとは違った知の結晶を思わせる著作群である。一見周

          クラウス・リーゼンフーバー/村井則夫編訳『中世哲学の射程』(平凡社ライブラリー、2023年)を読んで。

          山本芳久『キリスト教の核心をよむ』(NHK出版、2021年)を読んで。

           本書はキリスト教に興味を持った人に真っ先に薦めたいキリスト教入門である。「学びのきほん」シリーズの一冊である本書は、帯に二時間で読めると書かれている通り、短い紙幅にエッセンスをギュッと凝縮したキリスト教入門である。とはいえ必要な部分だけを解説するというスタイルではなく、アブラハムの宗教と言われるユダヤ教とキリスト教とイスラム教の関わりから説き起こし、何が共通していて何が違うのか、そして聖書には具体的に何が書かれているのかという全体像を示しつつ、そこからキリスト教のエッセンス

          山本芳久『キリスト教の核心をよむ』(NHK出版、2021年)を読んで。

          バッグインバッグについて。

           カバンの中で本と革の財布が擦れて財布の色が本の小口に移ったりしたことはないだろうか。カバンの中にちゃんと本の居場所を確保するのはなかなか至難の業であった。「であった」と過去形であるのは、ようやく解決策を見つけたからである。それが今回紹介するバッグインバッグである。  まずは失敗談から。ネット広告や宣伝記事などで無印良品のバッグインバッグをまず使ってみたのだが、A5サイズのメッシュタイプのもので、確かに自立はするのだが、自分の使っている二つ折りの財布を横倒しに入れようとするに

          バッグインバッグについて。

          三嶋輝夫『汝自身を知れ 古代ギリシアの知恵と人間理解』(NHKライブラリー、2005年)を読んで。

           古代ギリシアは人を魅了して止まない。しかしその秘密はどこにあるのだろうか。その汲めども尽きぬ知恵の所在を明かしてくれる一冊の本、それが本書『汝自身を知れ』である。哲学はソクラテスの死に始まる。そのソクラテスを知恵の探求へと導いた、あまりにも有名なデルフォイの神託。あるいはギリシア神話におけるオイディプスやメデイアの物語。ギリシア哲学やギリシア神話、ギリシア悲劇と古代ギリシアには豊かな文化的遺産がある。多くの概説書ではあらすじが語られ、その愉しみ自体は読者自身がさまざまな形で

          三嶋輝夫『汝自身を知れ 古代ギリシアの知恵と人間理解』(NHKライブラリー、2005年)を読んで。

          プラトン/三嶋輝夫・田中亨英訳『ソクラテスの弁明・クリトン』(講談社学術文庫、1998年)を読んで。

           プラトンの著作で最も有名なのはやはり『ソクラテスの弁明』であろう。哲学することの喜びを焚き付けてくれる田中美知太郎訳をはじめとして、今では全く初めての人におすすめしたい充実した解説の付いた納富信留訳もある。しかしプラトン自身の哲学の原点を明らかにし、哲学のことを最も切実に命を賭すべきものとしてソクラテスに語らせているのは『クリトン』であると思う。というのも、裁判という形式ではなくクリトンという一人の人に向かって語られており、あるいはそこではソクラテスの死をプラトンがどう受け

          プラトン/三嶋輝夫・田中亨英訳『ソクラテスの弁明・クリトン』(講談社学術文庫、1998年)を読んで。

          國方栄二『哲人たちの人生談義』(岩波新書、2022年)を読んで。

           現代は多様性の時代である。SNSや実際に人々の交流を通して国境があいまいになり、地球の裏側まで瞬時にニュースが飛び交う時代である。まさに身近なことが地球規模に影響を及ぼす、あるいは地球規模のことが身近にある、グローバルな時代なのである。しかしそれだけではなく、安定していた豊かな閉じられた世界では感じられることのなかった様々なことが露わとなり、国を超えなくともごく身近な範囲で分かりあうことの難しさを痛感するという意味でも、日々多様性を感じさせられるのではないだろうか。  スト

          國方栄二『哲人たちの人生談義』(岩波新書、2022年)を読んで。

          田中美知太郎『読書と思索』(レグルス文庫、1972年)を読んで。

           短い文章でも深く心が揺さぶられる書き手というのがいる。私にとって田中美知太郎はそのような書き手である。プラトンの翻訳を始めとして田中美知太郎の仕事の大きさは計り知れず、それを享受すると言うにはあまりに程遠い。しかしそれでもなお、現在手にし得る幾つかの仕事を通して知られるその仕事の数々は、一つの世代そのものをも築き上げるような仕事であったことがうかがえる。プラトンに関する仕事だけではなく、アリストテレスとギリシア文化についての仕事は今読んでも全く古びておらず、むしろ改めて読み

          田中美知太郎『読書と思索』(レグルス文庫、1972年)を読んで。

          ブックカバーについて

           本を読む人にとってカバー選びは悩みの種の一つかもしれない。書店の文房具コーナーや民芸店などで素敵なカバーを見つけてひとめぼれをしてしまうということは多々ある。しかしどんなカバーといえども本の寸法ぴったりとはいかないことが多いのではないだろうか。一つひとつの本に対しておあつらえのフィルムカバーを付けてジャケットを見せるのも手ではあるが、やはり目隠しの意味でもカバーをかけたいと思うときもあるであろう。そんな人にお勧めしたいのがアーティミスのブックカバーである。  このカバーは不

          ブックカバーについて