山我哲雄『キリスト教入門』(岩波ジュニア新書、2014年)を読んで。

 キリスト教とは一体何なのか。教会とは一体何なのか。そう思ったことはないだろうか。私たちが日頃ニュースなどで目にするキリスト教の理解に違和感を抱いたことはないだろうか。キリスト教の教えや思想についての入門書は山本芳久氏の『キリスト教の核心をよむ』や『愛の思想史』がある。しかし私たちが常日頃接する「これってどういうことなの」という疑問に答えるには別のアプローチが必要である。本書は教養としてのキリスト教理解を謳うがごとく、私たちが日頃触れるところのキリスト教のさまざまな疑問に答えてくれる1冊である。
 著者は国際的に定評のある旧約聖書の研究を志すなら誰もが参照する大著の数々を翻訳し、日本の旧約聖書研究を牽引してきた泰斗である。著書である『聖書時代史 旧約編』は学問的研究の基礎を成す、真っ先に読むべき旧約聖書入門である。そして著者はいくつもの「早わかり」本を書いているのだが、本書は長年の聖書学研究に裏打ちされた正確な学問的成果を「早わかり」よりも文脈を明示しながら丁寧に押さえていく1冊である。
 本書の前半は「キリスト教とは何か」、後半は「教会とは何か」という問いに充てられている。前半を成す三つの章では、キリスト教の聖典が何であるかから説き起こし、イエス、パウロ、初代教会について、聖書学的知見が凝縮された形で提示される。そして後半を成す三つの章においては、なぜキリスト教が世界宗教となり、私たちの日々触れる諸教会がどのような経緯を経て成り立っているのかを明らかにしている。中でも印象的なのは諸派の説明が便覧的な説明にとどまらず、岩波ジュニア新書にふさわしく、噛んで含める仕方で諸派相互の比較とともに提示されていることである。
 数多の「早わかり」本を書いている著者ならでは、そして学問研究の最前線で活躍してきた著者ならではの、平易でありながら学問的成果の凝縮された本書は、読者が抱くキリスト教への数多くの疑問に答えてくれる頼りになる一書である。教養あるキリスト教理解のためにすべての人に勧めたい1冊である。

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