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恋文未確認飛行物体

右に左に紆余曲折右往左往

山あり谷あり煩悶苦悶

君の為に書き上げたラブレター

淡い恋心を美辞麗句で飾り立てたラブレター

僕も子供だったから

表現も語彙力も足りなくて

物足りない内容だったし

むしろ何がいいたいのかも

分からない独りよがりなあれこれだったが

真剣に綴った記憶がある

きっと今それを読み返せば

歯が浮く様な感覚を味わえるかもしれない

薄っぺらいがそれも若さゆえ

甘い物言いも振り返れば

良き思い出甘酸っぱい香り

君に渡したあの日

君からの返事を聞く前に

僕は恥ずかしくなり走って

行ってしまったから

あの時の手紙の返事を

僕は知り得ないが

もしかしたら

きっと

君の手のひらの温かみによって

溶け出して緩みだし

僕の思いの丈はまたたくまに

形を変えてしまったのかもしれない

美しい指先によって刻まれていく山折り谷折り

広げられ丸められては折重ねられ

気まぐれと偶然性

芸術的かつ感情的なままに

彼女の指先はとりつく島もないままに

機械的に動き

そうして

くしゃくしゃに丸められていったのだと

想像してしまうのは僕の悪い癖だ

行き過ぎた勝手な思い込みだ

思い込みは続く

君は何もいわずに身を捻って

大きく腕を振り翳し

そうして

大空に向かって

それを放り投げたのだ

つまり薄っぺらい僕の思いの丈は

薄っぺらいが故に

飛行力には申し分なかったという訳だ

見事なまでに美しい放物線を描いたのだ

青空を羽ばたく僕の言の葉の飛行物体

答えは聞かされる事のないまま

未確認飛行物体は

自らの本質を探し求めるかの様に

時折僕の記憶の表面に

顔を出しては話しかけてくる

(忘れられる筈なんてないだろう?)

空の向こうへと消えていった

僕の淡い恋心は

幾年月が過ぎようとも

ありし日の美しい夕日の様に

燦然と輝いている

今も確かに僕の思い出の地平線をなぞる様に

メラメラと燃え盛っているのだ

あの日の返事は未だに分からない

走りだした僕の背中を見て

あの日の君は何を思ったのか

今ではもうその答えすらも分からない

自らの過去に問いかけては空を仰ぎ見る

答えがいつか空から降ってこないだろうかと

都合の良い夢を見る僕がここにいる

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