最近の記事

カンボジアの将棋オク・チャトラン

はじめに  将棋の大内延介(のぶゆき)九段が書かれた『将棋の来た道』(小学館文庫、1998年)に出会って以来、将棋の歴史に関心をもってきた。とくに、大内九段がタイの将棋マークルックと将棋の類似を強調していたことから、東南アジアの将棋系ゲームについて、いろいろ調べるようになった。  このマークルックについては、日本語で読める文献も少なくないのだが、その変種ともいうべき、カンボジアのオク・チャトランについては、日本では(でも)ほとんど知られていない。  そこで、この記事では、

    • アンコール遺跡群探訪記(2024)後編

      2月21日および22日:シェムリアップ・ハノイ・大阪  翌朝はしごく快調で、ホテルの朝食をたっぷり2人分は食べたあと、500mくらいの距離を歩いてアンコール国立博物館まで行った。ホテルのまえにたむろしていた三輪タクシーの運転手たちが、片言の日本語で「ともだち!」と声をかけてくる。この博物館では、将棋をふくめクメール王国における風俗について見聞きできたらと思っていたが、ほとんどが宗教的な事物の展示でガッカリした。  一度、ホテルに戻り、Grabで三輪タクシーを呼ぶ。次の目的地

      • アンコール遺跡群探訪記(2024)中編

        2月20日:シェムリアップ  ときおり差しこむような胃痛がするので、何度も目を覚ましながら2日目の朝を迎える。この日は、なんと言っても丸一日カンボジアで過ごせる唯一の日だ。酷暑のなかを何時間も歩くのだから、体力をつけなければ。気力をふり絞ってホテルのレストランに向かい、洋風の朝食を食べた。  8時すぎ、ホテルまでガイド氏が迎えに。ぜいたくな貸し切りツアーの始まり――たんに、他に参加者が集まらなかったというだけだが。  運転手つきの車でアンコール遺跡群のチケット・センターへ

        • アンコール遺跡群探訪記(2024)前編

          はじめに  2018年に将棋の歴史に関心をもって以来、アンコール遺跡群にある将棋(クメール将棋オク・チャトラン)のレリーフをいつかは見たいと思っていた。背中を押してくれたのは、2024年元日におきた能登半島地震だった。この地震のニュースにショックをうけ、その晩のうちに「今年中にやることリスト」をつくった。そして、そのリストの3番目にあったのが、そのレリーフを観ることだった。正月が明け、大阪に戻ると、私はすぐに大手旅行会社に向かい、ツアーに申し込んだ。 2月19日:大阪・ハノ

          豊後キリシタン紀行(2023)後編

          1月6日:大分・津久見・臼杵・大阪  初日に大分市内の目的地をすべて回れたので、この日の朝はゆっくり。ホテルの朝食はビュッフェ形式で、おかずの種類が豊富で地元の名物である鶏料理もあり、たぶん他の客の3倍は食べた。  9時すぎの日豊線に乗り、約1時間かけて津久見にむかう。大分の南に位置する臼杵から、さらに山ひとつ越えたところにあるこの町は、宗麟終焉の地である。臼杵に拠点をかまえていた宗麟は、隠居後の1578年に洗礼を受け、さまざまなしがらみをふり払うために静かな同地に引きこも

          豊後キリシタン紀行(2023)後編

          豊後キリシタン紀行(2023)前編

          はじめに  2022年は公私ともに最悪の年だった。そういう気持ちが強かったため、兄一家に新年のあいさつをするため下関に行くことが決まったさい、すぐに2023年は巡礼の旅から始めようと思った。「巡礼」と呼ぶのはすこし大げさかもしれない。要するに、代表的キリシタン大名であるフランシスコ大友義鎮(宗麟)ゆかりの地を巡る観光旅行だ。   1月5日:下関・竹田・大分  下関駅ちかくのホテルで朝をむかえる。朝食は定食形式で、大食いの私には物足りない量ではあったが、なんとフグ料理が数品あっ

          豊後キリシタン紀行(2023)前編

          うだる台北訪問記(2019)後編

          6月21日:台北  ホテルを予約するまでは、朝は屋台などでの外食ですませるという台湾の食文化について知らなかったので、朝食付きプランにしてしまった。どれもおいしかったが、翌朝は外で食べようと思う。  冷たいシャワーを浴びて、「午前中の涼しいうちにいろいろ回ろう」とホテルを出たのだが、もうすでに耐えがたいほど暑くてゲンナリする。中国将棋目当てで目星をつけていたボードゲーム・ショップも閉店していて、結局、「涼しいから」という理由だけで地下街で時間をつぶす。このとき、地下街に充

          うだる台北訪問記(2019)後編

          うだる台北訪問記(2019)前編

          はじめに  30代でいられるのも残り数ヶ月となった2019年のある晩、30代最後の想い出づくりに独りで海外に行きたいのだと話したら、行きつけのバー「L」のマスターは、すぐに台湾を勧めてくれた。近いうえに、関空から格安便で直接行けるからと。  その後、近所の台湾料理屋「C」で出会った人たちからも情報を集め、結局、思い立ってから1ヶ月くらいで、それまでは敗戦まで日本領だったことくらいしか知識がなかった台湾に行くことにした。とりわけ、「C」でたまたまとなりに座ったクリッとした目

          うだる台北訪問記(2019)前編

          「大戸島」探訪記(2021)

          はじめに  私が、奈良県民の久保田氏(仮名)とゴジラが初登場した「大戸島」への調査旅行を企画したのは、2021年の盛夏だった。ふとしたことから、おたがいに映画『ゴジラ』(1954)のファンであることや、大阪からも奈良からも特急一本で行ける鳥羽市で「大戸島」のシーンが撮られたことが分かり、ロケ地巡りをしようということになったのである。その後、三重県のロックダウンや久保田氏の多忙もあって企画倒れになりかけたが、幸いなことに、さる10月15日に調査旅行が実現した。 「大戸島」へ

          「大戸島」探訪記(2021)