ひなさ

書いて作って考える鳥 writer = 石川日向咲

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書いて作って考える鳥 writer = 石川日向咲

マガジン

  • 職業訓練校・調理科

    調理の仕事のジェネラルなことを教えてくれた職業訓練校。大人だらけの奇妙で愉快なスクールライフを書き留めたい。これは一年前を思い起こしながら書いている時差日記です。

  • 食の書き仕事

    編集・ライター仕事のまとめログ

最近の記事

板の前の姿勢

誰がどのくらい料理ができる人なのか、まったくわからないまま4人班での実習がスタートした。まずは和洋中の基本の献立を作る「基本実習」から。メインの講師1人対、生徒20人の形式で、午前中をまるっと使ってテーマの献立や調理法を学んでいく。 いちばん最初に教わるのは、包丁の正しい持ち方、まな板の前に立つ姿勢。肩幅で立ち、右足を一歩引いて軽く斜めに構える。良い歳した大人達にどうしてこんなことから教えてくれるのかと言えば、仕事にする前、このタイミングで再インストールしておいた方がよいこ

    • 世代観の所在

      先輩と年代による価値観の違いについて話すとき、自分が同世代の代表みたいな顔をして良いものなのか、という迷いが生まれて語りの歯切れが悪くなる。 同世代全員の総意などない。同じ世代を生きる当事者それぞれの中に個別の実感があるだけだ。しかし、この実感は呼応するものだ、とも思っている。 40〜50代のお姉さん世代が百貨店でのお買い物メモリーをきらきらと語るとき、その感じ自分は通ってないな、と30代の私は思う。ただし、ここで個の分岐が生じる。ただ単にわたしがお金の余裕が無かっただけ

      • クリーニング屋の中は割烹立ち飲み? 裏切りのエンタメで魅せる、“大人の”酒場空間(取材先=田っくん商店)

        飲食マガジン『スマイラー』105号に、「田っくん商店」様取材記事が掲載されました。狂おしいほど心奪われているお店に取材させていただけて、感無量の飲兵衛です。 「クリーニング半田屋」の扉を開けるとカウンター酒場。店構えと一歩入った中の空間、大衆的な立ち飲み業態でありながら、割烹クオリティと大人の距離感。一度訪れれば、随所に忍ぶギャップの虜になってしまうはずです。 2024年現在、南阿佐ヶ谷「田っくん商店」と、ひばりが丘「田っくんのサテライト商店」の2店舗を展開される同店。こ

        • ゲームに乗れない

          品田遊『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』の中で「“箸の正しい持ち方”という概念に茶番性を感じる」という一節を読んだ時、「世の中のゲーム性への乗れなさ」というスタンスに強い共感をおぼえ、日々の違和感の正体がなんだかクリアになった気がした。 自分の上手くいかなさを、発達障害だからなんだな〜と思い始めたのは20代後半に入ってからだが、そう思うことで生きるのがかなり楽になった。名前をつけてサイズの合う箱に入れてあげるだけで解消される辛さがある。注意欠陥が甚だしく、もの忘

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        • 職業訓練校・調理科
          5本
        • 食の書き仕事
          4本

        記事

          無重力教室

          大人が20人収まった教室は、年齢もバックグラウンドも全然違うクラスメイトが肩を並べる不思議な空間。第二新卒の若手から、自分の親世代の大先輩まで。共通点は「働く」を一時中断してここに来ていることだけ。一人ひとり、前職までのキャリアやここへ通うことにした経緯、どんな就職先をイメージしているか、などについて簡単に自己紹介していく。 聞いていると介護職、メーカー、事務職、保育士など、別業界に居た人がほとんど。タイミングとしては、リタイア、早期退職、子育て卒業後のキャリアチェンジなど

          無重力教室

          調理を実習

          ここでのカリキュラムは、座学と実習、二種類の学びがある。実習の中にも二つあって「基本実習」と「給食実習」に分かれる。 基本実習は、オーソドックスな料理教室みたいなもの。肉じゃが、ハンバーグなど和洋中の定番メニューの実践を通して、調理の基礎の基礎を習得していく。高校の家庭科室みたいな教室で、まず先生のデモを見せてもらってから、4〜5人の班になって生徒が調理を進めていく。たまに、座学の調理理論の授業内容とリンクした理科の実験みたいなこともする。ゆで卵の3分茹で、5分、7分、12

          調理を実習

          月金9時16時

          訓練校の生活は、想像以上にしっかりスクールライフ。月曜から金曜の9時から16時半。一時間掛けてせっせと西立川まで通う。出席番号順に座る教室。起立礼。日直は順番に掃除当番を回したり、学級日誌を書いて教務室に出したりする。学校すぎて興奮する。 クラスは、文字通りの老若男女が20人集まっていた。若い子から人生の大先輩まで居て、男女比は1:2くらい。40〜60代が最も層が厚いと思われる。自分と同世代は少ない。このクラスで半年間、どうなっていくのかなあと初日のガイダンスを聞きながらぼ

          月金9時16時

          30歳、学生になる

          会社を退職した次の週、私は入学式に出ていた。 今日から半年の間、学生になる。30歳を超えて学生をやるのは非常にわくわくする。大人になってしばらく社会人をやった後で始める学びは、大学までの勉強とはなんというか純度が違う。そして目的も違う。自分のキャリアを自分で作る時代に転職、転職を切れ目なく続けてきたけれど、仕事の方向性、この先なにを軸としていくかに迷いがあった。8年働いてきて、もしかしてちょうど今なんじゃないか? そんな予感に突き動かされて、人生で初めてハローワークの窓口に

          30歳、学生になる

          老舗70年目の挑戦 札幌ジンギスカン愛を伝播する新拠点が東京に誕生(取材先=成吉思汗だるま 上野御徒町店)

          飲食マガジン『スマイラー』104号に、「成吉思汗だるま」様取材記事が掲載されました。今号から文・写真どちらも担当しています。 言わずと知れた札幌ジンギスカンの名店がこの夏、満を持して上野御徒町の地に新規出店されました。地方都市の名店が首都圏に進出、これだけ見るとよくあることのように思えますが、同店は戦後まもない創業から70年もの間、北海道の外へは一度も出ずに“すすきのローカル”での営業を貫いてきたお店。このタイミングでの挑戦は、新世代、3代目親子による節目の大決断でした。

          老舗70年目の挑戦 札幌ジンギスカン愛を伝播する新拠点が東京に誕生(取材先=成吉思汗だるま 上野御徒町店)

          ふたつ並んだ空の箱

          大学の学部友達と数年振りに集まった。卒業してから10年が経っていて、わたしたちはもう社会で10年も働いた。みんなそれぞれによくやっている。親になった子もふたり居る。出席番号の並びで仲良くなった4人は全員苗字が「い」から始まるために「い会」というグループラインだったのだけど、10年後、全員苗字が変わって誰も「い」じゃなくなっていた。この時代に30代女性の4人中4人が夫の姓に変更している実態に気がついて、そのことについて考える。 ここにある身近な4サンプル。10サンプルまで増や

          ふたつ並んだ空の箱

          ほっとするおかんの味でエールを。女性のチームで循環を生む未来の弁当店 (取材先=アホウドリ)

          飲食マガジン『スマイラー』103号に、要町のお弁当屋「アホウドリ」取材記事が掲載されました。ロケ弁仕出しにケータリング、社員食堂の運営もやっている、10人ほどのカラフルな料理人チーム。私の勤め先です。 家庭料理で働く人を応援して、会社を作って女性の居場所を生み出した大石真理子さん。カフェを経て仕出弁当業態にたどり着いた経緯や、スタッフ教育のポリシーなど、働いていて肌で感じるたおやかなチーム運営の秘訣を伺いました。 求人投稿を締めくくる「絶対料理上手にします」の言葉。現場に

          ほっとするおかんの味でエールを。女性のチームで循環を生む未来の弁当店 (取材先=アホウドリ)

          ユニゾンという仕事の先輩

          20周年イヤーに入ってからのUNISON SQUARE GARDENは、ほぼ毎日のようにどこかでライブしている。複数のツアーや企画を次から次へと楽しげに。39歳、タフだな。 公式特設サイトの蜂須賀ちなみさんのライブレポート記事を読んだ。彼らの長年のリスナーとして、バンドを追い続けてきた記者として、その両方の時間の積み重ねが結実したような、分厚いお仕事っぷりに衝撃を受ける。対象を語る言葉の引き出しに奥行きがなければ描き出せない、ユニゾンの「今」が立体的に迫ってくる名記事だった

          ユニゾンという仕事の先輩

          “呑めるピザ”で新業態。繁盛店の心弾むメニュー開発術(取材先=PICICA PICICA)

          飲食店取材のお仕事が始まりました。めでたい夏。 紙媒体の初取材先は、KNOCKにお願いを。親友の勤めるカジュアルイタリアン、私の大好きなレストラン。今年オープンしたばかりの新店舗「ピチカピチカ」様に、パスタ主役のKNOCK系列では初のピザ業態店について、メニュー開発の裏話をお伺いしました。ピザ屋さんなんだけど、前菜もメインもパスタも俄然本気。〆ピザに辿り着けない可能性のあるメニューリストには市川シェフの料理愛と遊び心が溢れ気味です。スタッフの皆さんもぱりっと気持ち良く、色ん

          “呑めるピザ”で新業態。繁盛店の心弾むメニュー開発術(取材先=PICICA PICICA)

          山田亮一へ

          2013年、ハヌマーンの音楽に出会った。火花が散った。すでに解散していて間に合わなかったけど、ギターボーカルの山田亮一はどうやらバスマザーズっていう次のバンドを始めたらしい、と渋谷タワレコでのリリース記念インストアライブに駆け付けた。それが10年前の7月某日。 10年後の7月某日。「元ハヌマーンの山田亮一、大麻所持で逮捕」のニュースを仕事中に知る。がっかりした、だせえな、とは思わなかった。山田が格好悪いのなんてこの10年ずっとだから。不恰好にもがき、それでもどうにか音楽をや

          山田亮一へ

          作詞の策士

          私が一生付いていく覚悟のあるギターヒーローならぬワードヒーローは、山田亮一と田淵智也である。 山田亮一は書いて弾いて歌う捻くれミュージシャンとしての畏敬であり、 田淵智也は作詞作曲マンに加えてプロデュースマンとしての才気に慄く。 田淵自身がプレイするバンドでありながら、同時にプロデュースドバイ田淵なバンドであるのがUNISONだ。ギターボーカルの斎藤に歌わせる音域と音階と言葉のパズルの妙は、演奏者の特徴を最も近くで理解する彼が、第三者の眼差しを持って最良の演出を算段する営

          作詞の策士

          食べる私は人質

          考える私は、食べる私を人質に取っている。逆もまた然りである。 『家庭料理という戦場』の中で、「暮らす私」と「(暮らしを)研究する私」は相互に影響を及ぼしあうために完全に切り離すことができないことを認識する必要がある、という件があった。家で料理をする時、脳裏に染み付いた一汁三菜の像から完全に切り離せないのもそうだし、研究者も研究に精を出すために食事を摂らなければいけない。研究対象が食である著者のケースはなおさら密接でややこしい。 『おいハンサム』という大好きなドラマのシーズ

          食べる私は人質