見出し画像

ユニゾンという仕事の先輩

20周年イヤーに入ってからのUNISON SQUARE GARDENは、ほぼ毎日のようにどこかでライブしている。複数のツアーや企画を次から次へと楽しげに。39歳、タフだな。

公式特設サイトの蜂須賀ちなみさんのライブレポート記事を読んだ。彼らの長年のリスナーとして、バンドを追い続けてきた記者として、その両方の時間の積み重ねが結実したような、分厚いお仕事っぷりに衝撃を受ける。対象を語る言葉の引き出しに奥行きがなければ描き出せない、ユニゾンの「今」が立体的に迫ってくる名記事だった。

相手への愛と深い理解を持って嘘のない言葉で伝える、ライター仕事の真髄ってこれなんだなと畏敬の念が湧く。並走した時間を比べれば、自分は2年前から合流したファンなので歴は浅いのだけど、それでもすっかり彼らの音楽に心酔して、過去の音源はカップリング含め全て追いついた。

音楽もまた、ミュージシャンの現在のパッケージングであり、過去から未来へ伝わるタイムカプセルだ。時計仕掛けのフレーズは、10年後の世界を生きる彼らにどう作用するのか。

Revival Tour "Catcher In The Spy" ライブレポート
/ 蜂須賀ちなみ より

この気持ちをまさに、4月に観た「Catcher In The Spy」リバイバルツアーで噛み締めた。楽曲とは時を超えていつでも出会えるけれど、リアルタイムで生きているバンドに出会えるかは運次第だ。間に合ってよかった、と思った。アルバム発売当時の2014年から2024年、この10年を区切って振り返れば色々あった。平成が終わり、コロナ禍が起こり、タイバニがふいに完結した。10年前のツアーを観たという人も、最近好きになった人も、そしてメンバー自身も含めた全員が、10年前と同じセットリストという装置を通して10年後の現在地を確かめるという不思議さの中で音を浴びた。

聞いてほしい声がある 届いてほしい人もいる
多い少ないは関係ない

「黄昏インザスパイ」

昨日までをちゃんと愛して 見たことない景色を見るよ

「オリオンをなぞる」

7月24日の結成記念日には、満を持して初のベストアルバムが出た。「SUB MACHINE, BEST MACHINE」、3枚組のdisk1の未発表曲はCD収録のみで、1枚目のラストに入った新曲「アナザーワールドエンド」だけが配信されている。サブスク上ではそれに続けて、disk2〜3のシングル22曲がまるっと聴ける形になっているのだけど、この繋がり方がやけにしっくり来ていて、サブスク版もこれはこれで何周もできる味わい深さがある。

「SUB MACHINE, BEST MACHINE」はオールタイムベストであり地層だ。時系列で歴史を追える地層でありながら、「アナザーワールドエンド」が架け橋になって、それに続く初期曲の新録版が凹凸をならすことで、始まりと終わりがくっついて地層が輪になる。左から右へ進む年表ではなくて、軌道を3Dに描き出した地球儀のよう。デビュー曲の「センチメンタルピリオド」から2011年の「オリオンをなぞる」までの6曲が2024年再録verで、2013年の「流星のスコール」(S.B mix)以降は過去音源に繋がる。編まれたフルアルバムとは違って、真っ直ぐな軌道を音に乗ってたどっていけば知らない内にスタート地点に戻ってくる、という時間旅行のループがたまらなく楽しい。

武道館公演3daysのお祭り、初日の「ROCK BAND is fun」に参加した人のつぶやきを眺めていると、一曲目の「Catch up, latency」、長いMCの後に歌われた「春が来て僕ら」、記念日に聴くこれらの歌詞の響きように射抜かれている人が多かった。

拝啓 分かってるよ 純粋さは隠すだけ損だ
敬具 結んでくれ 僕たちが正しくなくても

「Catch up, latency」

基本的には聴き手に向けられている(と思い込んでいた)言葉たちが、節目を迎えた彼ら自身へ向かった途端、違う意味を持ち始めた。それも一曲や二曲ではなく、どうしたことかお祝いの気持ちを重ねれば、どの曲だって不思議とそんなふうに聴こえ出すから不思議だ。

間違ってないはずの未来へ向かう
その片道切符が揺れたのは追い風のせいなんだけどさ ちゃんとこの足が選んだ答えだから
見守ってて

「春が来て僕ら」

いつの時代も自分たちが一番楽しんでいる彼らの純粋な音楽に、隠しようのない誠実さが宿る歌詞。自分の足で立って歩け、自分はどうしたいのか考えろ。そのメッセージは聴き手だけなく、ここまで着実にキャリアを歩んできたメンバー自身にも問い続けたものだったのだろうか。

喝采のロードサイド 止まない未来の向こう側で
倒れちゃいそうな不安をみんな持ってる

「kaleido proud fiesta」

その時には分からないことも、しんどかった経験も、いつかどこかで回収される。「伏線回収」の爽快さとは少し違う。パズルが揃ってさっぱりと消せたりしないけれど、積んで積んでもうこれ以上積めなくなった時に一回降りて見上げると、点は線になっていて、ひとまとまりになった過去の中に意味が宿る。信じることを愚直にやってきたからこそ貰えた、過去の自分からの思いがけないご褒美。そんな感じなのだろうか、と20年の軌跡を勝手に想像する。

どんな時代のどんな経験も、現在のUNISON SQUARE GARDENの血肉となり、昇華され、過去のUNISON SQUARE GARDENが報われていくという構造。これがリバイバルツアーの醍醐味か。それとも、勝手に物語を見出したファンのエゴか。どちらでも構わない。いずれにせよロックバンドは美しく、個人の内にある純然たる感情は誰のどんな言葉にも侵されないと、ユニゾンは私たちに教えてくれた。

Revival Tour "Catcher In The Spy" ライブレポート /
 蜂須賀ちなみ より

これって、職業ミュージシャンにおける20年という前提を一旦横に置いて、仕事人としての彼らの20年が痺れるほど格好良いって事なのかもしれない、とふと思う。ロックバンドを続けるのは楽しいだけじゃないから後ろを向きたくなるときもあった、と武道館で話した田淵の言葉。続けていれば色々あるけれど、自分で選んだ仕事をしぶとくやり通した時、振り返ると宝物がいっぱいあって現在地を肯定してくれて、背中も押してくれる。

どうしても消えないままの残酷時計は
真実を指してるから 厳しくも見えるだろう
だけどいつか誇れるくらいには人生はよく出来てる
だから、生きてほしい!

「Invisible Sensation」

生業を続けるという点では、新卒入社20年目のベテラン社員にも、開業20年を迎えた街のラーメン屋にも同じ格好良さが宿るはずだ。誰かのためだけ、だけでは続かない。まずは自分自身を幸せにしながら、出来ることを他者に与えていく。華々しい音楽家の仕事を矮小化したいのではなく、どんなフィールドであっても、一日に進めるのは少しでも、続けるっていいもんだよ、という普遍的なメッセージを私は先輩の背中から受け取った。

ああ 問題は依然あって頭痛いんだけれど
少しずつって言い聞かせて 願い事叶えていきましょうね

「桜のあと(all qualtets lead to the?)」

今年は節目のお祝いで、過去最大のお祭りだ。盛大に祝ったあと、そして彼らの仕事は21年目へと入っていく。臨床心理士の東畑開人さんの著書にあった「中堅はタフな時期」論を思い出す。職業は違えど同じ39歳の言葉だ。

若手とベテランがいやな思いをするかもしれないから大きな声では言えないけれど、どうしても思ってしまう。
中堅って、本当はゴールデンタイムなのではないか。確かにタフではあるのだけれど、案外よい時期なのではないか。

『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』
東畑開人 新潮社,2022 まえがきより

20年戦士のロックスターも、年齢的に見ればまだまだ中堅。次のお祝いができるのか、これから活動はどうなっていくのか、そんなの誰にも分からない。けれど大好きなミュージシャン、もとい信頼できる人生の先輩が同じ時代を生きる今がある、そのことだけで私はやっていけそうだ。

UNISON SQUARE GARDEN 20周年、おめでとうございます。

いいなと思ったら応援しよう!