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板の前の姿勢
誰がどのくらい料理ができる人なのか、まったくわからないまま4人班での実習がスタートした。まずは和洋中の基本の献立を作る「基本実習」から。メインの講師1人対、生徒20人の形式で、午前中をまるっと使ってテーマの献立や調理法を学んでいく。
いちばん最初に教わるのは、包丁の正しい持ち方、まな板の前に立つ姿勢。肩幅で立ち、右足を一歩引いて軽く斜めに構える。良い歳した大人達にどうしてこんなことから教えてくれるのかと言えば、仕事にする前、このタイミングで再インストールしておいた方がよいことだから。
長時間、大量の仕込みを適当な自己流の体勢でやり続けると、すぐに身体を痛めてしまうらしい。建築CADを、自動車塗装をふだん家でやってます、という人は居ないのに、料理は誰でも大なり小なりやっていて、なんらかの自己流が身に染みてしまっているのが面白い。そしてだからこそ、慣れ親しんだ癖は手強く、アップデートが難しくもある。
文化鍋を火にかけて白米を炊いて、昆布と鰹節で一番出汁を取る。そこに少しの塩と醤油だけ加えてすまし汁を作る。献立、と呼べる一歩手前のきほんのき。だけど今までこんなこと、誰がいつ教えてくれたっけ?
調理は理科の実験みたいなもので、だからこそ自分の手で食材を触って、変化を目で見て、舌に乗せて結果を知るのが一番確かな勉強法だなあと思う。そしてそれを、家で一人でやり続けるのは孤独で難儀だ。疑問に思ったことを聞ける先生がその場に居て、家族ではない他人が横で調理をしている。そして出来上がったものは皆で食べて胃袋に収める。始末が良い。家の外に出て、わざわざこの教室まで通ってきて初めて得られる種類の学び。そうか学校って、そういう場所だったのか。