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#130 経営の理想型
感染症流行の下でも利益を伸ばした企業としていくつか話題になっていますが、その1つにアイリスオーヤマがあります。2020年12月期決算の売上高予想を1,000億円(!)上方修正しています。
そのアイリスオーヤマの大山健太郎会長が書かれた『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』を読みました。
そこで、個人的に約20年前からずっと疑問に思ってきた「経営の理想型」の答えがあった!と思ったのでメモ。
1、「経営の理想型」って?
約20年前(正確には2002年のことです)に出版された『ザ・ゴール2 思考プロセス』(エリヤフ・ゴールドラット著)を読み、感銘を受けたのですが、その中で、主人公(小説形式のビジネス書なのです)のアレックス・ロゴが企業の目的3つを定義し、その目的を叶えるための企業経営の戦略はこうあるべき、という話をする場面があります。
まず、企業の3つの目的(3つの必要条件)
☑️ 現在から将来にわたって、お金を儲ける
☑️ 現在から将来にわたって、従業員に対して安心で満足できる環境を与える
☑️ 現在から将来にわたって、市場を満足させる
そして、そのための企業経営の戦略
☑️ 確固たる競争優位性を構築する
☑️ あるセグメントで絶対的な競争優位性を誇っていたとしても、そのセグメントをすべて独り占めしてはいけない
☑️ 複数のセグメントに参入する場合、同時に上がったり下がったりするようなセグメントには参入しない
と、いきなり言われても「???」だと思います(すいません)。
以下、主人公が妻に説明している部分を引用します。
僕が言ったこと(注:上記戦略のこと)を会社が全部やったとしよう。その場合、もしもっと儲けの大きいセグメントが現れたら、会社は儲けの少ないセグメントからこのセグメントに乗り換える。リソースが柔軟だから、それができるんだよ。セグメントが悪化したら、別のセグメントへ照準を移す。だからセグメントを最初からすべて独り占めしてはいけないんだよ。
いいかい、その結果、会社は従業員をレイオフする必要がほとんどなくなる。3つの必要条件もすべて同時に満たすことができる。
いかがでしょう?
まだちょっと「?」かもしれませんが、要は
■ 競争優位を確立していることを前提に、
■ 同じ動きをしない複数のマーケットに参入し、
■ リソースに柔軟性を持たせ、異なるマーケットへの製品の生産を同じリソースで行い、
■ 柔軟に相互のマーケット間で行き来できる体制を構築することによって、
→市場変化による売上の波を吸収しどんな環境でも従業員削減などを行わずとも一定の利益を上げることができる、
という、「経営の理想型」を説いたものです。
理屈は分かるものの、当時の私は2つの疑問を持っていました。
☑️ 実際問題、いくら柔軟にしたところで、全く異なるマーケットに投入する全く異なる製品を同じリソースで作ることができるのか?
☑️ 好調なセグメントに乗り換える、と言ってもいきなりそちらにシフトする、なんてことが実際に可能なのか?
これらの疑問は、ずっと頭の片隅にありましたが、実際の例を(私の認知できる範囲では)見ることはなくこれまで来ました。
2、アイリスオーヤマの経営
ところが、今回『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』を読んで、「これだ!」と思ったのです。
序章から以下引用します。
10年に一度ではなく、もっと高い頻度で外的環境に大きな変化が起きる時代です。その中で勝ち抜くには、自らの手で環境をコントロールする力が必要です。
それこそがニューノーマルのマネジメントです。これからの経営のスタンダードは、目先の利益を最大化したり、資本効率を極大化することではなく、どんな時代環境においても利益を出すことのできる仕組みを作ることです。
「どんな時代環境においても利益を出すことのできる仕組み」とありますが、この「仕組み」が、先ほどご紹介した「経営の理想型」に対する私の疑問に答えてくれるものだったのです。
疑問1
リソースをいくら柔軟にしたところで、全く異なるマーケットに投入する全く異なる製品を同じリソースで作ることができるのか?
アイリスオーヤマの場合
☑️ 自動化を推進するが、メーカーから購入する製造装置は汎用機。それを社内のエンジニアが改造し、製造ラインの自動化の手法も含めて開発を行う。汎用機を改造しているため、生産品目の変更も手持ちの機器の組み替えで対応可能。
☑️ 全ての工場でノウハウを即時に共有、定期的に工場間でも人事異動を行い、ノウハウの属人化、ローカルルールを排除。すべての工場で全く同じ生産工程を維持。
→これらにより、同じリソースで追加投資なくすべての製品の生産が可能。
疑問2
好調なセグメントに乗り換える、と言ってもいきなりそちらにシフトする、なんてことが実際に可能なのか?
アイリスオーヤマの場合
☑️ 取り扱い商品は園芸用品、LED照明、収納家具、調理器具、各種家電など多種多様な2万5千点と膨大でどんな環境でも需要が強い製品がある。
☑️ 工場の稼働率を7割以下に抑えるのをルール化。工場には常に3割の空きスペースと予備の汎用の製造装置がある。
→前述の自社による汎用機による生産自動化ノウハウと、生産スペース、余剰生産設備の存在により、需要が好調なセグメントの商品の増産が短期間で可能。
このように、私の疑問が実例で解消されました。
しかも、これら以外にも、
☑️ 商品開発スピードと数とを支える、全部署の責任者が全員集まって毎週月曜日に行われる「プレゼン会議」
☑️ 「物流拠点の中に工場がある」という発想で全国9つもの工場兼物流施設をもち、メインチャネルであるホームセンターのほとんどを日帰り圏内とし、結果、ネット通販でも即納できる「生産物流体制」
☑️ 売り場の情報が直接入る、問屋を通さない「メーカーベンダー」
等の「いかなる時代環境にも利益を出す仕組み」が作られているのです。
3、まとめ
20年近く抱えていた疑問が解消できました。
「経営の理想型」の一つであると思います。
少し前まで「選択と集中」が良い経営とされていました。
今でもそうかもしれません。
一方で、感染症でより大きな影響を受けたのはそういった「良い」企業だった、とも言えます。
大山会長は、「選択と分散」とおっしゃっています。
こらからの時代に大きなヒントになると思いましたので、最後にその部分を引用して終わりたいと思います。
バブル崩壊後、「選択と集中」という言葉が広まりました。事業領域を絞り込み、そこに経営資源を集中することで、強い会社になれるというものです。
(中略)
ただ、特定の市場に集中しすぎると、不透明な時代環境では命取りになりかねない。どんな市場が勃興するか、どんな市場が衰退するか、それらが読み切れない中では、強みを生かすことは必要ですが、過度の集中は逆効果に働きかねないのです。
そこで、自社の強みを広げるかたちで、分散する戦略を取る。(中略)「集中」と「分散」のバランスです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本書には、他にも人事、育成、情報共有など色々と勉強になるところがありました。気軽に読める内容になっていますのでご興味ある方はお勧めします。
書籍紹介というより私の個人的なメモですが、なにか参考になることろがあれば嬉しいです。