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【無料】選択的夫婦別姓制度(選択的夫婦別氏制度)反対論を解説|政治初心者の教科書

昨今、選択的夫婦別姓制度(選択的夫婦別氏制度)の導入が声高に叫ばれるようになりました。

先に筆者の考えを述べてしまえば、私は選択的夫婦別姓制度の導入に反対の立場であります。

ゆえに本記事においては、反対派の立場から解説することとなり、多少偏ることになるかと思います。

それを「政治初心者の教科書」シリーズに含めるべきはか迷いましたが、賛成派の主張は多方面において解説されていますから、バランサー的役割を考えれば不適格ではないだろうと判断いたしました。

本記事では、以下の目次の通りに話を進めます。


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1.子供の姓選択問題

SNS上において、選択的夫婦別姓制度は「強制的親子別姓制度」と呼ばれることがあります。

これは、選択的夫婦別姓制度を導入して夫婦が夫婦別姓を選択した場合に、生まれた子供が必ず父または母と異なる姓を与えられることを指しての呼称です。

本章においては、この点を掘り下げましょう。

1-A.子の視点として

例えば、山田太郎さん(男)と木下花子さん(女)が結婚したとします。

結婚する男女が男の姓に合わせるか女の姓に合わせるかを選べる現行の制度(夫婦同姓、氏選択制)の下では、この夫婦は「山田太郎と山田花子」の夫婦となるか、「木下太郎と木下花子」の夫婦となるかを選ぶことができますね。

ですが、選択的夫婦別姓制度が導入され、この夫婦が別姓を選択した場合、この夫婦の子供(仮に一郎くん)は「山田太郎と木下花子」の子供として生まれ、子供の姓は一つでありますから、山田一郎となるか、木下一郎となるかを迫られることになります。

一郎くんは必ず、「お父さんと姓が異なる」か「お母さんと姓が異なる」を迫られるのです。

我が国の夫婦同姓制度は、「夫婦と子供がみんな同じ姓を名乗り、"家族に入れてもらえない人"が居ない」という温かい制度であるとも言われます。

例えば、そのような文化を否定するわけではありませんが、「夫婦は別姓、子供は必ず父親(または母親)の姓を受け継ぎ、母親(または父親)は家族と同じ姓を名乗ることができず、ある種の疎外を受ける」といったような制度とは異なるのです。

しかし、選択的夫婦別姓制度が導入されて夫婦が別姓を選択した場合、無論夫婦の選択は自己責任でありますが、子供は強制的に親との別姓を迫られ、父親または母親、更に姓の異なる兄弟姉妹との距離を感じてしまうことが有り得ます。

現状として、夫婦別姓を選択した夫婦の子供の姓選択については、主に「①夫婦が子の誕生時に決定する」「②子の誕生時に一度決定され、後に子供が自己選択する」「③夫婦が結論を出せない場合は、家庭裁判所が決定する」の3つの方法が言われているでしょうか。

このうち、①と③であっても親子別姓であることから子供が親との距離や姓の異なる兄弟姉妹との距離を感じてしまう可能性は否定できず、更に「②子の誕生時に一度決定され、後に子供が自己選択する」については、子供に「お父さんを選ぶのかお母さんを選ぶのか」や「お兄ちゃんを選ぶのかお姉ちゃんを選ぶのか」を迫ることにもなりまして、自己決定の観点から言えば正しいあり方とも言えますが、大変酷な話でもあります。

令和3年12月に実施された内閣府の世論調査においても、「夫婦の名字・姓が違うことによる、夫婦の間の子どもへの影響」について、「子どもにとって好ましくない影響があると思う」と答えた者の割合は69.0%、約7割でありました。

夫婦の名字・姓が違うことによる、夫婦の間の子どもへの影響の有無について、どのように思うか聞いたところ、「子どもにとって好ましくない影響があると思う」と答えた者の割合が69.0%、「子どもに影響はないと思う」と答えた者の割合が30.3%となっている。

家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査)
2 調査結果の概要
2.婚姻した場合の名字・姓に対する考え方
(7) 子どもへの影響
|内閣府世論調査(2022年3月25日掲載)
(https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-kazoku/2-2.html)

非常に多くの国民が、夫婦の名字・姓が違うことによる子供への悪影響を憂慮ゆうりょしていることがうかがえます。

1-B.裁判問題

そして「③夫婦が結論を出せない場合は、家庭裁判所が決定する」についてでありますが、家庭裁判所はいったいどのような基準にもとづいて子供の姓を決定するのでしょうか。

単独親権と共同親権との議論は脇に置くとして、現状の夫婦離婚時の親権者決定は、収入やDVの有無、子供との関わりの実績、将来の見通しなどの判断材料が存在しますが、「生まれたばかりの子供の姓」の判断材料はいったい何になるのでしょう。

大黒柱だいこくばしらとしての収入の高低」でありましょうか。「実家の名声や社会的地位」でありましょうか。「学歴の高低」でありましょうか、「職業の貴賤きせん」でありましょうか。

自民党の西村康稔元経産大臣も、「夫婦間の協議で子の氏が決まらなかった場合の決め方に関しては、子に選択させて決める、あるいは、家庭裁判所の判断で決めるなど様々な方法が検討されていますが、裁判所の判断基準など詳細は必ずしも明確ではありません。」と指摘していらっしゃいます。

自身らの選択ではなく家庭裁判が、しかも曖昧あいまいな理由にもとづいて強制的に決定したものについて、本当に納得して「家族」をいとなむことができるのでしょうか。

この裁判は「離婚のための裁判」ではありません。「家族を営むための裁判」であります。親権決定の裁判とは性質が大きく異なるのです。

現行の制度(夫婦同姓、氏選択制)は「強制的」と言われることもありますが、「国家が氏の二者択一を強制している」というのは、実はありがたい話でもあると言えます。

選択的夫婦別姓制度が導入された場合、結婚した夫婦には「男の姓か、女の姓か、夫婦別姓か」との三択が用意され、これはすなわち揉める材料が増えるということを指してもいます。

「男の姓に合わせたい者と女の姓に合わせたい者が結婚するのが大変」だから選択的夫婦別姓を導入すべきとおっしゃる方をお見かけしますが、「男の姓に合わせたい者」と「女の姓に合わせたい者」に加え、「別姓にしたい者」を誕生させてより大変に、複雑にさせるのが選択的夫婦別姓制度ではないでしょうか。

更に子供が生まれれば「子供は父親の姓か母親の姓か、第一子の姓と第二子の姓はどうするか」と、次々と揉める材料が提供されることになるのです。

「これから幸せな夫婦生活を営んでいこう」「これから幸せな家庭を築いていこう」というこれ以上ない幸福なタイミングにおいて、夫婦に揉める材料を提供することは、果たして幸福を生むのでしょうか。

「国家が二者択一を強制している」というのは、「国家が、時に悪者になってでも夫婦の揉め事のたねを減らしてくれている」ということでもあるのです。

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2.国民的議論の問題

選択的夫婦別姓制度の導入可否は、社会の根幹である「婚姻こんいん」に大きな影響を与える、すなわち「社会」や人々の「価値観」に大きな影響を与える問題であると言えましょう。

では、そのような選択的夫婦別姓制度の導入可否について、国民はどのように考え、議論しているでしょうか。

2-1.議論は深まっているか

「選択的夫婦別姓」は夫婦同姓制度の下で困り事を抱える人がいて、その困り事を解決するために導入すべきなのだと言われております。

ですが、その「"夫婦同姓制度の下で困り事を抱える人"は何に困っていて、なぜ別の方策では解決ができないとされるのか」を、ある程度でも(もうら)説明できる方がどれだけいらっしゃるでしょうか。

「"夫婦同姓制度の下で困り事を抱える人"は何に困っていて、なぜ別の方策では解決ができないとされるのか」について、誰が国民全体に対して、広く説明してくれているのでしょうか。

国民はどれだけ理解しているのでしょうか。

私は X(旧Twitter)において政治アカウントを運用しておりますが、流れてくる賛成派の主張は、慎重派、反対派、「議論を深めることを重視する」派に対する罵倒、暴言、誹謗中傷がほとんどであります。

どこかに「"夫婦同姓制度の下で困り事を抱える人"は何に困っていて、なぜ別の方策では解決ができないとされるのか」を網羅もうら的に説明している方もいらっしゃるのかもしれませんが、国民全体に対して広く認識されているとは言えないでしょう。

選択的夫婦別姓制度の導入可否は、社会の根幹である「婚姻」に大きな影響を与える、すなわち「社会」や人々の「価値観」に大きな影響を与える問題であるにもかかわらず、多くの国民が「"夫婦同姓制度の下で困り事を抱える人"は何に困っていて、なぜ別の方策では解決ができないとされるのか」を知らない状態であるのに、大した議論も経ずに導入してしまって良いのでありましょうか。

「"夫婦同姓制度の下で困り事を抱える人"は何に困っていて、なぜ別の方策では解決ができないとされるのか」が周知されれば、実は解決可能な方策が見つかる可能性も高まるかもしれませんし、また「その困り事は社会に大きな影響を与えてまで解決すべき問題なのか」を考えることもできましょう。

※「その困り事は社会に大きな影響を与えてまで解決すべき問題なのか」というのは、冷血な物言いに思えるかもしれませんね。

ですが、例えば私の妹には心臓病があり、新型コロナウイルスはもちろん、インフルエンザやマイコプラズマ肺炎、その他さまざまな感染症に対して厳重に警戒する必要があるのですが、だからといって「社会に対して一年中マスクの着用を義務づけ、人混みが発生しないように行動を制限する」というのは受け入れられるべきでしょうか。

私は自律神経の不調によって昼夜逆転を起こすことが多々あり、深夜にさまざまなサービス施設が閉鎖しており不便をこうむっているのですが、だからといって「社会全体に対して24時間の営業を義務づける」というのは受け入れられるべきでしょうか。

物事には「バランス」というものがありまして、「少数派の困り事をすべて解決する」というのは現実的に無理な話なのです。それが「社会」の一員である、ということなのであります。

選択的夫婦別姓制度は社会の根幹である「婚姻こんいん」に大きな影響を与え、後述しますが国民のアイデンティティ形成という人々の根幹に関わる問題でもありまして、「その困り事は社会に大きな影響を与えてまで解決すべき問題なのか」の観点から、非常に慎重に議論されるべき問題であると言えるでしょう。

賛成派が真に社会問題の解決を願うのでしたら、慎重派、反対派、「議論を深めることを重視する」派に対する罵倒、暴言、誹謗中傷をまき散らすのではなくて、真摯しんしに説明を行うべきではないでしょうか。

彼らの言動を見ていますと、選択的夫婦別姓制度が導入された後は、「夫婦を選ぶ奴は家父長制の擁護ようご者であり、時代遅れの差別主義者」といった誹謗中傷、嫌がらせ、(キャンセル・カルチャーの文脈としての)キャンセルなどが、あちらこちらで行われるのではないかと感じてしまいます。

また、選択的夫婦別姓制度については、「賛成」「反対」の他に、後述の「旧姓使用の拡大」という考え方もありますが、恣意しい的にこの選択肢を排除し、「賛成 or 反対」のみの世論調査を行って不正確な結論を導こうとする媒体も少なくありません。

あまりにも不誠実であり、社会問題を論ずるにあたって適切かつ充分な議論が行われているとは到底とうてい言いがたいのが現状でありましょう。

2-2.岸田文雄前首相の指摘

急進的な選択的夫婦別姓制度の推進派であるかのように流布るふされている岸田文雄前首相でありますが、総合安全保障シンクタンク・日本平和学研究所の機関誌『湊合そうごう』での対談において、次のように述べていらっしゃいます。

小川 逆に、立憲民主党の野田代表がやる気になっているのが、選択的夫婦別姓です。私はこの選択的夫婦別姓という言い方自体が、国民の中に大きな誤解を招いていると思うのです。通称使用の法制化ぐらいに思っている人が多い。しかし実際には選択的家族別姓になってしまいます。

岸田 従来から申し上げていますが、この問題は国民の皆さんの理解や議論が十分であるとは思っておりません。引き続き議論は続けるべきだと申し上げています。例えば、兄弟の間において姓の利用はどうなるのか、子供たちは自分たちの姓をいつ決めることになるのか、親に委ねるのか等、具体的に詰めなければいけない点がある。頭から否定するものではありませんが、こうした社会や価値観に関わる問題については、丁寧な議論が必要だと思いますし、保守政党、責任政党と自負するのであればなおさらです。

【期間限定無料公開】岸田文雄(前首相)×小川榮太郎
 岸田政治が目指したものとこれからの世界と日本
|平和研機関誌『湊合』ウェブマガジン(2025年1月21日)
(https://note.com/heiwaken_sougou/n/n43b918005908)

上記note記事は「期間限定無料公開」とのことでありまして、選択的夫婦別姓の他にもさまざま、重要な内容が語られていますから、上記対談が収録されております、総合安全保障シンクタンク・日本平和学研究所の機関誌『湊合』令和六年冬号のご購入をぜひオススメしたく存じます。

上記ページにはまだ令和六年冬号の表示がないようですが、第2号(令和六年夏号)や第3号(令和六年秋号)の「お申し込みはこちらから ↓」をクリックいただいて飛ぶ申し込みフォームには「最新号:令和6年冬号」の表記がありますので、購入は可能であろうと思います。

また、『湊合』は日本平和学研究所の会員になることでも入手できますので、そちらをご検討されても良いでしょう。

2-3.林芳正官房長官の指摘

林芳正官房長官は、2024年の自民党総裁選時の出馬会見や番組出演において、次のように指摘していらっしゃいます。

選択的夫婦別姓制度(選択的夫婦別氏制度)は個人的にはあっても良いのかなと思うが、総裁総理となってを考えた場合、まだ色んな意見があり、"賛成ですか?反対ですか?" という調査が多く見受けられるが、「賛成・通称旧姓使用の拡大・反対」とするとだいたい1/3ずつ程度になる。意見の集約を行い、「なるほど、こういうところだね」というコンセンサスを国会議員や国民の各界各層の中で作り上げていく事が責務。

このまんまでバシャっと決めるのは乱暴と思う。

林芳正氏は「個人的には賛成寄り」のお立場でいらっしゃいますが、そのような林氏でさえ、「このまんまでバシャっと決めるのは乱暴」と言わざるを得ないのが現状なのであります。

2-4.萩生田光一元政調会長の指摘

>「どういう分野が(選択的夫婦別姓制度がなくて)一体困っているのかということをきちんと聞き、穴を埋めていけば、別に法律を作る必要はないのではないか」
>「本当に困っている人ではなく、イデオロギーの意義的にこの制度を変えたい人たちが、困っている人たちの声を代弁しているふりをし、法案を前に進めようとしているのではないか」

自民・萩生田光一氏「旧姓使用拡大で対応。慎重であるべき」 選択的夫婦別姓巡り
|産経新聞(2025年1月10日)
(https://www.sankei.com/article/20250110-NVYV4SHNWNKSFNUBPZUP6ECM5U/)

自民党・萩生田光一元政調会長のご発言は、多くの慎重派、反対派、そして「議論を深めることを重視する」派の人々の代弁となっているのではないでしょうか。

困り事を解決することが目的なのでありますれば、社会に大きな影響をもたらし、戸籍制度や国民のアイデンティティに影響を及ぼし得る選択的夫婦別姓制度にこだわらずとも、旧姓使用の拡大などによって穴をめていく形でも問題ないはずではありませんか。

それでもなお解決できない問題が明確となったとき、はじめて「その問題は選択的夫婦別姓制度を導入して解決すべきであるのか否か」の議論がなされるべきはずです。

ですが、反対派や旧姓使用拡大派に対して攻撃をくり返す選択的夫婦別姓推進派が目立ち、そのような中においては、「侵略者と手を結び、特定のイデオロギーに基づいて我が国の価値観を転覆てんぷくさせ、文化を破壊し、日本人を民族として弱体化させることを目的に、旧姓使用の拡大の有用性が理解される丁寧な議論を避け、なかば強引に選択的夫婦別姓の成立を目論もくろんでいるのではないか」との疑念をお持ちになる方は多いものと思います。

選択的夫婦別姓推進派には日本保守党系の、いわゆる「ネトウヨ」や「限界ネトウヨ」と呼ばれる層をさげすむ方が多くいらっしゃるように思いますが、左右の両端から暴言を吐き続ける両界隈は、私の目から見れば同類であるしか言いようがありません。

2-5.内閣府世論調査

本節では、令和3年(西暦2021年)、平成29年(西暦2017年)、平成24年(西暦2012年)の内閣府世論調査をご紹介しまして、夫婦の氏についての国民の意識について考えたいと存じます。

 2-5-a.令和3年12月調査

現在の制度である夫婦同姓制度を維持すること、選択的夫婦別姓制度を導入すること及び旧姓の通称使用についての法制度を設けることについて、どのように思うか聞いたところ、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」と答えた者の割合が27.0%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」と答えた者の割合が42.2%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」と答えた者の割合が28.9%となっている。

家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査)
2 調査結果の概要
2.婚姻した場合の名字・姓に対する考え方
(8) 選択的夫婦別姓制度
|内閣府世論調査(2022年3月25日掲載)
(https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-kazoku/2-2.html)

令和3年12月の調査では、夫婦同姓の維持が27.0%、旧姓使用の法制化が42.2%、選択的夫婦別姓導入が28.9%、という結果でありました。(旧姓使用につきましては第3章において解説いたします)

選択的夫婦別姓制度の導入をお望みになる方は3割にも満たず、「夫婦同姓の維持」と「旧姓使用の法制化」を合わせましたら、約7割が夫婦同姓制度の維持を支持してることがわかります。

議論は深まっておらず、内閣府が丁寧に調査した結果、国民の約7割が選択的夫婦別姓制度の導入に賛成しておりません(「反対している」と申し上げても差し支えないでしょう)。

これが現状であります。

そして一つ注意すべきでありますのは、選択的夫婦別姓制度を導入すべきと回答した「28.9%」の数字は、「自身の何らかについて選択的夫婦別姓制度の導入による解決を望んでいる者」数字ではない、ということです。

「選択的夫婦別姓制度を導入すべき」という考えは、「別姓を選択できることを希望する者」に加えまして、「本当に困り事を抱える者がいるならば、選択的夫婦別姓制度の導入によって解決してあげるべきと考える者」、または「イデオロギー的に選択的夫婦別姓制度の導入を目論もくろむ者」によって支えられております。

そして、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」と答えた者に対して「選択的夫婦別姓制度に変わった場合を想定した上で、夫婦でそれぞれの婚姻前の名字・姓を名乗ることを希望するか」と問うた結果、「希望する」と答えた者30.4%であったとのことでした。

家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査)
2 調査結果の概要
2.婚姻した場合の名字・姓に対する考え方
(8) 選択的夫婦別姓制度
ア 別姓の希望
|内閣府世論調査(2022年3月25日掲載)
(https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-kazoku/zh/z13.html)

選択的夫婦別姓制度の賛否を問うた設題の母数は2,884人であったとのことでありまして、別姓を名乗ることを希望すると回答したのは833人の30.4%(約253人)であったとのことでありますから、全体のうちで別姓を選択できることを希望する純粋な導入希望者の割合は約8.77%(253÷2884×100)であったことがわかります。

無論、この設題によって排せるのは「本当に困り事を抱える者がいるならば、選択的夫婦別姓制度の導入によって解決してあげるべきと考える者」のみであって、「イデオロギー的に選択的夫婦別姓制度の導入を目論もくろむ者」が回答率を上げている可能性は否定できませんけれども。

ゆえに、より正確な記述を心がければ、「別姓を選択できることを希望する純粋な導入希望者の割合は、約8.77%であった」となりますでしょうか。

 2-5-b.平成29年12月調査

 現在は、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならないことになっているが、「現行制度と同じように夫婦が同じ名字(姓)を名乗ることのほか、夫婦が希望する場合には、同じ名字(姓)ではなく、それぞれの婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めた方がよい。」という意見がある。このような意見について、どのように思うか聞いたところ、「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」と答えた者の割合が29.3%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた者の割合が42.5%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」と答えた者の割合が24.4%となっている。

家族の法制に関する世論調査(平成29年12月調査)
2 調査結果の概要
2.選択的夫婦別氏制度の導入に対する考え方
(9) 選択的夫婦別氏制度
|内閣府世論調査(2018年2月13日掲載)
(https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-kazoku/)

平成29年12月の調査におきましては、夫婦同姓制度の維持が29.3%、夫婦同姓制度のうえ旧姓使用の法制化が24.4%、選択的夫婦別姓制度導入の許容が42.5%でありました(選択的夫婦別姓が53.7%)。

そして、選択的夫婦別姓制度の賛否を問うた設題の母数は2,952人であったとのことでありまして、別姓を名乗ることを希望すると回答したのは1255人の19.8%(約248人)であったとのことでありますから、別姓を選択できることを希望する純粋な導入希望者は約8.40%(248÷2952×100)であったことがわかります。

 2-5-C.平成24年12月調査

 現在は,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならないことになっているが,「現行制度と同じように夫婦が同じ名字(姓)を名乗ることのほか,夫婦が希望する場合には,同じ名字(姓)ではなく,それぞれの婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めた方がよい。」という意見がある。このような意見について,どのように思うか聞いたところ,「婚姻をする以上,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり,現在の法律を改める必要はない」と答えた者の割合が36.4%,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には,夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた者の割合が35.5%,「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても,夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが,婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては,かまわない」と答えた者の割合が24.0%となっている。

家族の法制に関する世論調査(平成24年12月調査)
2 調査結果の概要
3.選択的夫婦別氏制度
 (9) 選択的夫婦別氏制度
|内閣府世論調査(2013年2月18日掲載)
(https://survey.gov-online.go.jp/h24/h24-kazoku/)

平成24年12月の調査におきましては、夫婦同姓制度の維持が36.4%、夫婦同姓制度のうえ旧姓使用の法制化が24.0%、選択的夫婦別姓許容が35.5%でありました(選択的夫婦別姓が60.4%)。

そして、選択的夫婦別姓制度の賛否を問うた設題の母数は3,041人であったとのことでありまして、別姓を名乗ることを希望すると回答したのは1,079人の23.5%(約253人)であったとのことでありますから、別姓を選択できることを希望する純粋な導入希望者は約8.31%(253÷3041×100)であったことがわかります。

 2-5-D.3調査の比較と推論

平成24年(西暦2012年)→平成29年(西暦2017年)→令和3年(西暦2021年)の調査結果の変化を表にすれば、以下のようになります。

内閣府世論調査の「家族の法制に関する世論調査(平成24年12月調査)」「家族の法制に関する世論調査(平成29年12月調査)」「家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査)」を参考に。単位は「%」。
平成24年と平成29年は「かまわない」として「許容」を問う設題であったのに対し、令和3年は「した方がよい」としてより限定した賛否を問うていることから、厳密な比較としては不適当かもしれないが、存在するデータの中では最も参考となる比較であると考える。

3つの調査からわかる事実は、次の4つです。

①旧姓使用の法制化を認めない同姓維持派は減少している
②同姓維持の上で旧姓使用を法制化する派は増加している
選択的夫婦別姓制度の導入を認める派は減少している
別姓希望の割合は微増はしているもののほぼ変化なし

そしてここからはあくまでも「推論」でありますが、この数値の変化を見ましたところ、「2012→2017の間に、"夫婦同姓で困っている人がいるなら、選択的夫婦別姓を導入して解決してあげればよい"と考える人が増えた。しかし、2017→2021の間に、選択的夫婦別姓のもたらし得るアイデンティティへの影響や子供への悪影響に気づき、考慮こうりょし、旧姓使用による解決を支持する人が増えた」ということが考えられないでしょうか。

夫婦同姓制度の維持(旧姓使用の法制化は認めず)の割合が一貫して減少し、かつ旧姓使用の法制化の割合が増加しておりますことから、決して原理主義的な守旧派が増えたのではなくて、漸進主義の保守的な人が増えたのであろうことがわかります。

この推論が正しいのだとしましたら、議論が長引けば長引くほど、選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する者、許容する者は減少し、「旧姓使用」による解決を支持する者が増える、ということになりますね。

そのように考えて結論を急ぐ、イデオロギー的に導入を目論んでいる方もあるのかもしれません。

この推論にのっとりましたら、令和3年(西暦2021年)から4年が経過する本年(令和7年)におきましては、選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する者がより減少し、「旧姓使用」による解決を支持する者がより増えていることになるでしょう。

そして、自身が別姓を選択できることを希望する者が大きく増えているということは、過去3つの調査結果から申しまして考えづらいものと思います。

無論、こちらはあくまでも「推論」でありますから、次の調査がいつ行われるのかは存じ上げませんが、次の調査ではまったく異なる結果が出る可能性も否定できません。

ですが、一定の参考にはなるであろうと思います。

明らかに議論が深まっていない状況においてでさえ、少しずつ情報が広まるにつれて、このような世論調査の変化が起きているのです。

選択的夫婦別姓制度の推進派は「夫婦別姓の機運が高まっている」「一部の少数派が妨害ぼうがいしている」とおっしゃいますが、この約10年の間に、選択的夫婦別姓導入への賛成(または許容)は減少しまして、選択的夫婦別姓派は増加しております。

この状態におきまして、社会全体に影響を及ぼす選択的夫婦別姓制度を導入することは、本当に良いこと、そうあるべきことなのでありましょうか。

2-6.アイデンティティに関わる問題

「選択的夫婦別姓は"選択的"であり、別姓を選択しない人には関係ないから、反対派は自分に関係のない他人の事情に手を突っ込もうとするおかしい連中」であるかのようにおっしゃる別姓推進派をお見かけしますが、これは見ていらっしゃるところが浅いのではと言わざるを得ず。

我が国は伝統的に「家(イエ)」を大切にしてきた国家なのでありまして、「家制度(イエ制度)」と呼ばれるものは廃止されましたが、「家意識(イエ意識)」は現在におきましても、無意識であろうとも人々の中に存在しております。

例えば、自分を「山田太郎さんと木下花子さんが結婚し、山田太郎と山田花子の子に生まれた山田一郎」であると考えましょうか。

この際、山田家の祖父母から「山田家の家訓」をかれたとしまして、「私は山田家の人間だから、山田家の家訓を尊重しよう」とお思いになる方もありますれば、「そんなの時代にそぐわないだろう」とお思いになる方もありましょう。

対しまして、木下家の祖父母から「木下家の家訓」をかれたとしましたら、「私は山田家の人間なのだが…?」とお思いになるか、「そんなの時代にそぐわないだろう」とお思いになるのではないでしょうか。

こちらの山田一郎に対する「山田家の家訓」と「木下家の家訓」の違いは、前者はたとえ時代遅れと感じる方にとってもかれることに一定の理解はできますものの、後者は時代に関係なく理解できないということにあります。

これが「山田太郎さんと木下花子さんが結婚し、木下太郎と木下花子の子に生まれた木下一郎」であったとしますれば、前述の「山田家の家訓」と「木下家の家訓」とに対する理解の違いは反転することでしょう。

つまるところ、本人がどの程度意識しているかにかかわらず、多くの日本人の中に「家(イエ)」の意識は存在し続けており、自分の存在の由来ゆらいに関わることですから、アイデンティティの形成に大きく関係していると言えるのです。

無論、我が国の歴史を見て「名字=家(イエ)」とは申しませんが、「家制度(イエ制度)」が廃止され、「個人」が重視されるようになった現在におきまして、「名字が家(イエ)を表す重要なもの」となっていることは間違いないでしょう。

「個人」が重視されるようになり「家(イエ)」の意識を形成するものが少なくなってきている中におきまして、「名字が家(イエ)を表す最後のとりで」と言うこともできるかもしれませんね。

姓、氏、名字のあり方に変化を生じさせるということは、人々の規範意識に変化を生じさせることなのでありまして、決して「別姓を選択しない人には関係ない」ようなことはないのであります。

選択的夫婦別姓制度について、「関係ない」者は我が国に一人たりとも存在しません。

姓、氏、名字というのは単なる制度なのではなく、「文化」をになう一角として機能しております。「文化」は民族の根幹でありまして、国家の根幹なのであります。

そのうえで、国民の約7割70%が夫婦同姓制度の維持を支持しており、別姓を選択できることを希望する純粋な導入希望者の割合は1割にも満たない(8.77%以下)というのが、内閣府世論調査の結果でありました。

「アイデンティティ」というのは非常にさまざまなものがからみ合って形成される繊細せんさいなものでありまして、恐ろしいのが、「その材料に変化が生じた際、何が起こるか予測できない」ことであります。

「個人」が重視されるようになり「家(イエ)」の意識を形成するものが少なくなってきている中では大きな悪影響がなかったとしましても、「家(イエ)を表す最後のとりで」に変化が生じた瞬間、糸が切れたかのように崩壊してしまうことだってあり得るのです。

"その程度のことで" とおっしゃる方もあるかも知れませんが、"その程度のこと"に大きな影響を受けてしまうのが「アイデンティティ」なのであります。

2021年10月26日の動画でありますが、竹田恒泰氏と田村淳氏の対談におきまして、明治天皇の玄孫であり、「令和書籍」の社長などもお務めになっている竹田恒泰氏は、次のように述べていらっしゃいます。

すぐ機動的に変えて良い部分と、ちょっと慎重に変えなきゃいけない部分ってあると思うんですね。(略)選択的夫婦別姓というのは、民法の「家族法」といって、「家制度」とか「家族のあり方」とか、そういう「法律なんていうのができる前からずっと行われていたものを、明治時代に成文化したもの」が明治民法で、それがまた改正されて今に至っている。(略)例えば商慣習とか変化すると民法の債券法とか物権法っていうのは頻繫ひんぱんに変わるんですけれども、「家族法」というのはちょっと慎重に触らないといけないもの、というふうに考えられているんですね。(略:朝鮮併合時代に日本の家族法を適用せず、例えば「奥さんは男性の家に入れないから別姓」など、朝鮮の仕組みをヒアリングして朝鮮の家族法を作成したことを説明し、)そのくらい、「家族制度」とか「戸籍」とかっていうのは、元々歴史とか流れがあってできているものだから、「人類普遍的」とかも、例えばイスラムだったら一夫多妻制とかあるわけなんで、「普遍的に正しい」っていうのはなくて、やっぱりそれぞれの地域、民族とか国民が背負ってきたものがあるんですね。(略)もし変えるんだったら、段階的に様子を見ながら、というのは、もし間違っちゃうと取り返しがつかない、あとそれから「どんな不都合が生じるかわからない」んですよ。もちろん僕の中ではこういう問題がある、っていうのはあるんだけれども、「想像し切れない」というか。もし間違った時に取り返しがつかないので、だから、結論めいたことを言っちゃうと、もし本当に別姓じゃないから困ってるっていう人がいるんだったら、例えば(筆者注:旧姓の)通称使用を拡大する、もしくは旧姓使用を法制化する、そういうことによって、彼らの困っているところを取り除けるんだったら、民法・家族法を触らずに解決できるんだったら、そっちの方が上策だと。

Twitter炎上した件、竹田恒泰さんと対峙してきました。
|田村淳のアッシュch(2021年10月26日)
(https://youtu.be/owwkLlY71uE?si=AfaMLxFDXTj-UgZd)より文字起こし
()内や太字化は筆者による。

私自身、父親との親子関係がよろしくない、といいますか、家庭のさまざまな事情から、夫婦同姓制度の下で父親の姓を名乗り続けなければならないこと、父方の家に属しているということに吐き気をもよおしながら生きている人間であります(無論、親に離婚してもらい母方の姓に合わせて再婚してもらうですとか、母方の祖父母や親戚と養子縁組を行うですとかの方法もありますが、多方面へ迷惑と手数をかけますので気が引けるものです)。

私個人としましては、「選択的夫婦別姓制度が導入されて親に別姓を選択してもらい、自分の姓を母方に合わせる」というのが嬉しく思います。そのような境遇きょうぐうです。

しかし、「家(イエ)の意識とアイデンティティ形成の関係」を強く認識している人間だからこそ、選択的夫婦別姓制度の導入によって社会に生じ得るアイデンティティ形成への影響を危惧きぐし、選択的夫婦別姓制度の導入に反対しているのであります。

また、推進派には「○○国は夫婦別姓だが不都合は生じていない」と主張される方もありますが、文化が異なる、つまり人々の感覚が異なれば生じ得る不都合、副作用も異なるのでありまして、このような議論におきまして他国の事情は参考にならない、ということを申し添えておきたく。

加えまして、「では改姓する者のアイデンティティへの影響はどうなるのか」とおっしゃる方もあり、確かに一定の影響は与え得るかと思いますが、夫婦同姓制度の下におきまして我が国における安定したアイデンティティの形成はたもたれておりますことから、私は選択的夫婦別姓を導入した場合のリスクの方を大きな問題としてとらえます。

改姓する者のアイデンティティへの影響を考える者にこそ、「家(イエ)とアイデンティティ」の関係がよく理解でき、社会的にその制度・規範をくずすことへの危惧きぐは理解できるのではないか、とも思うのでありますが。

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3.旧姓使用の拡大

ここまで選択的夫婦別姓制度について反対的に論じてまいりましたが、記事内においてご紹介した西村康稔元経産大臣も、先ほどご紹介した竹田恒泰氏も、そして私自身も、「夫婦が同姓であることによって生じ得る不都合」を無視しているわけではありません。

その解決策として提案されますのが、「旧姓使用」や「旧姓の通称使用」、「旧姓使用の法制化」と呼ばれるものでございます。

こちらは簡単に申し上げますれば、結婚した夫婦の戸籍上の姓はとなるものの、例えば仕事や資格関係などにおきまして、旧姓を使用することができるようにする、そしてこの旧姓の使用に法的拘束力を持たせる、というものであります。

前章に挙げた3つの世論調査におきまして、回答者の割合が大きく増加し、最も多くなっている項目でありました。

3-1.高市早苗(治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会長)の説明

自民党の高市早苗前経済安全保障担当大臣は、以前から夫婦同姓制度を維持した上での旧姓使用の拡大、法制化を主張なされ、法律案を起草するなどしていらっしゃいます。

そして高市氏がおっしゃるに、総務省が所管する全法令につきましては、旧姓または併記での申請等が可能になったとのことでございます。

 私は2019年(令和元年)9月から約1年間、再び総務大臣を務めましたが、その1年間で、『地方自治法』『住民基本台帳法』『公職選挙法』『消防法』『放送法』『電気通信事業法』をはじめ総務省が所管する全法令をチェックし、申請時などに戸籍氏しか使えなかったものを全て婚姻前の氏か併記で対応できるように変更しました。総務省が単独で改善できたものだけでも、合計1142件でした。

 全府省庁が同じ取組を実施し、地方公共団体、公私の団体、事業者などに同じ取組を要請すれば、婚姻による戸籍氏の変更によって社会生活で不便を感じることは殆ど無くなると考えます。

「夫婦別氏」に係る最高裁の判断
更新日:2021年06月23日
(https://www.sanae.gr.jp/column_detail1329.html)

そして既に、マイナンバーカード、パスポート、免許証、住民票、印鑑証明などにつきましては、戸籍の氏と旧氏(旧姓)の併記が可能となりまして、国家資格のほとんどにつきましても、旧姓の併記や使用が可能になっているとのことです。

こちらの流れを加速および拡大させまして、旧姓単独での使用が原理的に可能なものにつきましては単独使用を可能とし、それが困難な分野につきましても併記で対応することができますれば、非常に多くの困難が解決されるのではないでしょうか。

3-2.小林鷹之(初代経済安全保障担当相)の指摘

自民党の小林鷹之氏は、2024年9月12日報道ステーションにおきまして、選択的夫婦別姓の賛否に「✕」のフリップを上げたうえで、"旧姓で金融機関の口座が作れない" との話があるが、銀行では7割が作れる。選択的夫婦別姓を推進する経団連だが、会員企業に対し不便解消の働き方があっても良いのではないか、とご指摘なさいました。

3-3.西村康稔(元経済産業大臣)の指摘

自民党の西村康稔元経産大臣は X(旧Twitter)のポストにおきまして、次のように指摘していらっしゃいます。

(https://x.com/nishy03/status/1886369992834437183)

夫婦同氏による、社会生活上の不便を感じておられる方がいらっしゃることも事実です。通称使用を幅広く拡大することで、徹底して不便が解消することを急ぐべきです。まずは、不便を解消することを優先し、別姓の是非については、国民に制度の詳細を明らかにした上で、議論を深め、国民の合意を広く得られるものとなるよう、慎重に議論すべきと考えています。

(https://x.com/nishy03/status/1886369992834437183)

まさにおっしゃる通りでありまして、本当に「不便を解消」したいのでありますれば、国民の間に軋轢あつれきを生み、国民のアイデンティティを危機にさらして稚拙ちせつな別姓導入を進めるのではなく、まずは旧姓使用の拡大を進めて解決できる不便を解消しつつ、制度の詳細を明らかにし、議論を深め、国民の合意を形成していくべきでありましょう。

また、西村康稔元経産大臣は、総合安全保障シンクタンク・日本平和学研究所の機関誌『湊合』での対談におきまして、以下のように述べていらっしゃいます。

西村 (筆者注:選択的夫婦別姓制度の導入について)基本的に私は慎重な立場です。子供が姓を選択しなければいけないというのは、家族の一体性を含めて課題は大きいと思いますね。
小川 この選択的夫婦別姓という議論、国民の多くは中身が分かっていないと思うのですね。大体の国民は通称の拡大使用だと思っていますよ。
西村 そうなのです。現状の通称拡大でかなりの部分対応できるのですから、それをしっかり広報するのが先でしょう。その上で足らない部分のみを補えばいい。

令和六(二〇二四)年十二月一日発行『湊合』令和六年冬号
小川榮太郎 責任編集 一般社団法人日本平和学研究所 34頁

こちらの対談は、恐らく下記の記事にも収録されているのだろうと思います。

ただし、私は『湊合』を購読しておりまして、note記事は購入しておりませんので、確定的なことを申し上げることはできません。

ゆえに、私としましては、総合安全保障シンクタンク・日本平和学研究所の機関誌『湊合』令和六年冬号のご購入をオススメしておくことにいたします。

『湊合』令和六年冬号におきます対談では、「安倍ートランプ外交」の秘話や、西村氏の考える「多層的な安全保障」、考えるべき「トランプ時代の外交シナリオ」、憲法改正や夫婦別姓、LGBTQ等についての議論が展開されておりまして、読み応えはバツグンでございました。

上記ページにはまだ令和六年冬号の表示がないようですが、第2号(令和六年夏号)や第3号(令和六年秋号)の「お申し込みはこちらから ↓」をクリックいただいて飛ぶ申し込みフォームには「最新号:令和6年冬号」の表記がありますので、ご購入は可能であろうと思います。

また、『湊合』は日本平和学研究所の会員になることでも入手できますので、そちらをご検討なされても良いでしょう。

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4.結(と最高裁大法廷決定)

「政治初心者の教科書」シリーズにつきましては、基本的に「エビデンス」を集めました、「ファクトベース」の記事を作成しますように心掛けてまいりました。

特に人気であります「【決定版】岸田首相の正体|政治初心者へ贈る岸田政権の教科書」「【ダイジェスト版】岸田首相の正体|政治初心者へ贈る岸田政権の教科書~サクッと岸田政権を知る~」は、「ファクトのかたまり」としか形容のしようがございません。

総合安全保障シンクタンク・日本平和学研究所の理事長:小川榮太郎氏にも、【決定版】につきましては、「21歳ということで、ちょっと文面を読むともう少し年上かなと思いますけど、いずれにしても、非常に詳細にデータがファクトべースで、こういうですね、匿名の人の方がまともな論壇やっちゃってるっていう、この状態よ今。これが時代の変わり目だと思う。」とご評価いただいております。

【ダイジェスト版】につきましては、「こんなにしっかり調べてるから22歳という年齢はさすがに若過ぎるだろうと思って、年齢はもっと上だと言ったら、本当に実年齢です(笑)っていうメッセージが来たんですが、この若者が、これですよ。ダイジェスト版で岸田さんのやった実績一覧ですこれ。これダイジェスト版ですから(筆者注:印刷した紙の厚さを見せながら)。これちゃんと精読したらですよ、どんだけ安倍イズムを岸田さんが進めたかは明らかなんです。明らかなんです!この中見て国賊みたいな政策の山か!?違いますから。これはファクトなんですよ。國神さんの主観じゃないんだよ。だって政策が全部そのまま引用されて出てくるわけだから。」と。

ですが、本記事は「ファクトベース」というよりは、主観的な記事であったことでしょう。

私は選択的夫婦別姓制度の導入に反対する立場の一人でありますが、その中におきまして、特に「アイデンティティ」への影響を強く懸念している者であります。

「アイデンティティ」というのは国家の根幹でありまして、民族の根幹であり、個人の根幹でもあります。

本記事ではこの観点から、まず子供に与え得る影響とそれに対する国民の認識を、そして国民の制度導入に対する認識を、その上でアイデンティティへの影響を危惧きぐする理由をご説明し、代替的な解決案をご提案してまいりました。

しかし、「アイデンティティ」、それも「今現在起きていないことによって生じ得るアイデンティティへの影響」を表す「ファクト」「エビデンス」というのは、なかなか難しいものです。

「今現在起きていないことによって生じ得るアイデンティティへの影響」というのはあくまでも「推論」でありまして、更に「推測し切れない」のですから(後になっては取り返しがつかないにもかかわらず、事前には推測し切ることができない、というのが最大の問題です)。

文化が異なり、人々の意識、感覚が異なる他国の情報も、参考にはなり得ません。

「国民がいかに考えているか」につきましても、偏向性を可能な限り排除するために、メディアの調査ではなく「内閣府世論調査」を引用いたしましたが、こちらも、あくまでも「標本調査」に過ぎず、確実なファクトとは言い得ないでしょう。

ゆえに、本記事につきましては、「これは揺らぐことのないファクトである」とするのではなく、賛成派の主張と私の主張と、どちらに妥当だとう性が認められるべきであるか、読者のみなさまに判断をお任せしたく存じます。

本件が社会や価値観、国民のアイデンティティ形成に関わる問題であることについての議論が全くと言って良いほどなされていないことは、非常に不健全であり、最終的に導入するとしましても、今の状態で導入することは否定されるべきではないでしょうか。

私と同じ立場の方もいらっしゃることと思います。他の観点から選択的夫婦別姓制度の導入に反対なさる方もいらっしゃることでしょう。

内閣府の世論調査におきましては、実に国民の7割が夫婦制度の維持を支持しています。

立法府は事を急ぐことなく、丁寧な、慎重な議論を行っていただきたく。

まずは旧姓使用の拡大、そして法制化などによって、解決し得る困難・不都合を解決すべきではありませんか。内閣府世論調査において最も回答が多かったのも、旧姓使用の法制化であります。

また、補足情報としまして、最高裁大法廷が2度にわたって「夫婦同姓を定めた民法の規定は合憲」と判断していることをお知らせしまして、筆をきましょう。

決して短くない記事でございましたが、お付き合いをたまわりありがとうございました。

夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定は違憲として、事実婚の男女3組が起こした家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は23日、規定は「合憲」とする判断を示した。夫婦別姓をめぐる大法廷の憲法判断は、平成27年の上告審判決で夫婦同姓を定めた民法の規定を合憲としたのに続き2度目。

夫婦別姓禁止は「合憲」 最高裁
|産経新聞(2021/6/23)
(https://www.sankei.com/article/20210623-FJZ7RN3V2BI4TJ4SI7LJ2RG7AU/)

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