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記事一覧
#140字小説『チャリティーブーム』
このたび、余命いくばくの命と診断されました。
つきましては現金100億円を国民の皆様にお配りしたく……資産家が預金を国民に配りだして、お金をばら撒くのがブームになった。
国民の消費は倍増して、経済は潤った。
反面、相続が消えて、家族というものの形が失われつつある。
#140字小説『下界のものたち』
下界では鍋で煮たおでんが皿に移され、朝食の用意が整えられようとしていた。
しめしめ、いい匂いだ。
ガスコンロのサバがいい具合に焼けだぞ。
お父さんは将軍のように声を掛けられるまで寝静まっているが、本当に人間たちを支配しているのは、吾輩なのだ。
#140字小説『真実の姿』
「先輩!実習も終わって、これから僧侶として、真実に生きることを努めます」
「いいね。だけど真実とはどういうものかな」
「え?」
「君には本当の姿をさらけ出す覚悟が出来ているかい?」
「は、はい!」
「よし。だったら偽りのない生まれたままの姿をさらけ出しなさい」
「えいやっ!」「はふっ!」
#140字小説『夢野久作「瓶詰めの地獄」へのオマージュ』
晴れた日に砂浜を歩いていたら硝子瓶を拾った。
透けて見える中には手紙のようなものが……この島に流れ着いて、もう1年になる。島の生活にも慣れてきた。あのことさえなければ。日に日に美しさを増してくる僕と同じ顔をしたあいつはもう大人だ。ああ気が狂いそうになる。……文章はそこで終わっていた。
#140字小説『雪に閉ざされた家での夢日記』
夢の中でイラストレーターの絵に触発されて風俗に行きたいと家族に話す。
すると利発な妹からひたすらに貶された。
私は「お兄ちゃんがどんな苦しみと重責の中で生きているか知っているのか!」と説いてみる。
ああ別の夢で会った「僕は君の苦しみと深い孤独を理解しているよ」と言ってくれた天使がほしい。
*出会いのない作者が家族に遠慮して風俗へ行かなかったという、、、抑圧された感情が夢にでました。
#140字小説『万年寝太郎』
俺は万年寝太郎。
寝て起きたら両親が亡くなって、泣き疲れて寝たら、起きたとき兄弟が亡くなっていた。
どうやら死ねない体らしい。
冬眠状態になっていたのが、長寿の秘訣のようだ。
次に寝て起きたとき、周りでは氷河期のように、雪に閉ざされた世界が広がっていた。
銀世界の中、人類が生きた証の雪だるまを作ってみた。
#140字小説『ポエムおじさん』
ある所におじさんがいました。
おじさんはポエムを書きながら、毎日仕事のようにお酒を飲んでおりました。
ある日、おじさんはピエロが持つ風船を貰って、カゴにくくり付けると空高く飛んで行きました。
やがて、海岸でこんな文の入った瓶を誰かが拾いました。
「俺は元気でやってる。現世によろしく」と。
#140字小説『ある変態の青春』
私は女に飢えながらも、心中は書きかけの死姦小説を、どう完結させるかと考えあぐねていた。
海では、犬の散歩をする寒そうなコートの女性と、冬物の制服を着たいつもの二人組がいた。
子供相手になんの邪な想いを描くのだ、と女学生の横を通り過ぎようとした矢先。
鼻腔をくすぐる花のような香りが胸を打つ。
#140字小説『みんな誰かのストーカー』
はああ、そろそろ寝ようか?ツイートしとこう。
よし!今日はもう寝るようだな。午後に昼寝をしたから遅くまで起きたようだが私も寝るか。ふああ、ツイートしよう。
お!そろそろ寝るのか。昨日は彼氏と遊んだようだが今日は一日外出してなかったようだな。ふう、私もそろそろ寝るか。ツイートしよう。
#140字小説『一人の人生』
笑っていたアイツの首に手をかけた私は独房へ入れられた。
送られる途中で女看守は言う。
問題は彼が一人で起こしたと。
事実は違うのに。
殺したのが俺でも本当のことを話せ、と私は怒鳴った。
今は冬。
外は雪が降りたまに人が通るが顔を合わせることはない。
そしてそれは夢だった。
起きた私もまた一人ぼっち。
#140字小説『隠れた本音』
息子:もぐもぐもぐ……
無職の父:今朝も朝刊配達ご苦労様でした。
息子:うん!
(もっと褒めろ!崇め奉れ!!)
無職の父:ははは……
(かしこにかしこに〜お返し申す!)
崇め奉る(あがめたてまつる)=1この上なく、きわめて尊いものとして対し、扱うこと。崇敬、尊敬すること。2寵愛すること。大切に扱うこと。
#140字小説『未来の酒精中毒者』
「お母さん、なぜ大人はお酒を飲むの?」
「そうねえ、子供にはない嫌なことや深い悩みが大人にはあるんです」
「僕だって悩みくらいあるさ、だからね?お酒飲んでいいでしょ?」
「まだ20歳になるまではダメよ」
「えー、だったら20歳までは禁酒ね。解禁したらガブ飲みするんだ」
「またそんな事を言って」
#140字小説『泣き虫ピエロ』
階の違う清掃班のあいつが気になる。
いつ見ても私を殴ってくださいとでも云いたげな弱々しい気配を醸しだしてこっちまで迷惑しちゃう。
そう僕は困惑してるんだ。
こんなにも君のことを想っていることに。
お互いを結びつける言葉なんて何一つ持っちゃいないくせに節目がちな瞳が苛立ってやるせなくて。