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『詩』秋が白い

秋は白い 秋が白い 微かに薄く
ヴェルリオーズのローマン・カーニバルを流していると
着慣れた無地のシャツのように
誰かが季節を裏返す すると
ごらん あんたのせいで と怒ったように
風が吐き捨てる あんたのせいで
秋が白い


急峻な谷間の清水に飲み込まれた一枚の
枯葉が秋だ 透き通る
清水のせいだ 白いのは
僕の人生のせいではない 裏返った
秋そのもののせいではない
なぜなら僕は僕の生を
ただ生きただけだ


軽やかなステップを踏んで
秋はローマン・カーニバルを踊る
薄く流してはいるけれど
仮面が笑顔を含んでいる 意味ありげに
風に赦しを乞うように 一篇の
詩篇を僕は書きつける 秋の白さに すると
くすぐったさに風が震える


ふてぶてしく
何も知らない と僕は言う 足を組んで
パイプを咥えたアル・カポネのように
パイプは枯れ枝の匂いがする 柔らかな
日差しに燻んだ枯れ枝の匂い
仮面の奥の金色の眼が じっとりと
僕の真実を暴こうとする


レコードの針を戻しながら
生きただけさ と僕は言う 独白のように
嘘つきなのは自分じゃない 真っ正直な
若い青年の顔をした
あの時間という奴さ 夏が香る
爽やかなハーブミントのような
シャツを裏返してしまったのも


秋は白い 秋が白い 僕の秋は
それとも僕が生きるごとに 清冽な
清水に近づいてゆくのだろうか
僕以外の誰かの秋を僕は知らないが
みんなローマン・カーニバルを 楽しげに
踊ったりなどするのだろうか 仮面の奥に
金色の眼を光らせて


長くはなかったさ 人生は などと
うそぶいてみようか 苦い顔で
何度目かの秋にこうべを垂れて 白いのは
僕のせいだったと けれど
まだまだ終わるつもりはない 人生に
折り返しなどないのだと
僕が気づいていないとでも?


それこそ何度目かのヴェルリオーズが
秋を染めてくれるだろうか 終わらないよう
レコードの番をしているうちに
人生に折り返しなどはないが むしろそれは
リバーシブルのようなものだ
パイプを燻らせ
僕は時間にウィンクをする




あまり本音を述べることはないのだけれど、これは今の気分に一番近いと言えるかもしれません。年齢的なこととか人生観とか。前の『ダリア』も少しそんな気分があるけれど、こちらはもっと今の自分に近いところを綴ってみました。

ヴェルリオーズの「ローマン・カーニバル」はいわゆる「序曲 ローマの謝肉祭」のこと。フランス語では「Le carnaval romain」と言うそうですが、カーニバルという名前から想像されるリオのカーニバルなどよりはもう少し落ち着いた、というか、オーケストラ寄りの曲(あたりまえです)。もちろん僕が好きということもあるけれど、気分的に秋に似つかわしい気がしたので、モチーフに選んでみました。よければこちらをどうぞ。仮面はカーニバルからのイメージです。




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