『詩』始まったばかりの十一月に
スーパーマーケットの店頭に
白菜が並んでいる
長い長い時空を超えて私はここにいるので
買い物カゴを下げている
青いスカートにエプロンをして
玉葱や辣韮はからっぽだけど 白菜は
何か大事なものを秘めている
(怒ってはいけない カレーには
玉葱・辣韮が欠かせないことを
私は知っている)
畑で白菜が縛られているのは
きっと秘めごとのためなのだ
大きな白菜を一玉と
私宛じゃないダイレクトメール パステルカラーの
季節感のないとりどりの花束 それに
お喋りなジャンガリアンハムスター
そんなものをカゴに入れて
私は広い店内を巡る 昔ながらの
うるさいローラースケートで すると
サンタクロース柄の缶詰が棚のエンドで
私に開けてくれとせがむ
でもジャンガリアンハムスターが キイキイ声で
一緒は嫌だと騒ぐので 私は
一度手に取った缶詰を棚に戻す
言葉は真実を語らないけれど
嘘と交換することもできない ノートを開いて
コンマ三ミリのペンで私は線を引く
今日買うつもりのメモ書きの上に それはまるで
間違ってしまった宛名書きのよう 正しいのは
白菜のなかの秘めごとだけだと
私は知っていたはずだった
時空を超えるその前から そして十一月さえ
まだ始まったばかりなのだ
でも私はエプロン姿で セルフレジさえ
普通に扱うことができる 花束と
秘めごとをくるんだ白菜と
(そのせいで白菜は少し高い)
サンタクロース柄の缶詰も
私はカゴに入れておいた そうして
ハムスターの値段を私は尋ねる
悪魔の角を立てたままのスタッフに
でもそんなものは扱ってない、と不審げに
悪魔の顔でスタッフは言う
うろたえて店内を見回すと 入り口で
早くもクリスマスツリーが点滅している
だからジャンガリアンハムスターを
私は連れて帰ろうと決めた 連れて帰って
白菜の秘めごとを一緒に見ようと 十一月が
だって始まったばかりなので
私は時空を超えるために
ローラースケートを脱いで店を出る
11月になりましたね。今年、noteを始めたのがまだつい昨日のような気がします。よく続いているものだと、少しばかり自負しています。
ハロウィンが終わったとおもったら、今日から年賀状発売だそうです。早いですね。そう言えば企業のオリジナルカレンダーを作ったことがあって、毎年10月にはもう納品していたものでした。それは別にしても、イベント事などは年を追って早くなる気がします。さすがにまだクリスマスツリーは出てないでしょうけれど。
昔兵庫県に住んでいた頃は父が会社から畑を借りていて、というのは以前にも書いた気がします。作りやすい夏野菜はもちろん、白菜も普通にやっていて、上の画像のように、寒くなると縛っていたものでした。これは別に大事なものを隠していたわけではなく、霜枯れを防ぐためだそうです。自分で栽培していると、漬物にしたり鍋にしたり、本当に食べ放題だったように覚えています。当時はスピッツのミックス犬を飼っていて、生の白菜を好んで食べてましたね(もちろん、面白半分に与えたからですけど)。
あと2ヵ月、無事に年を越したいものですね。
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